少子高齢化問題などにより、「年金が貰えないのでは」と不安になっている方も少なくないようです。「年金はいらないから今までに払った保険料を返してほしい」と思ってしまうのも仕方のないことですが、そんな訴えは通用するのでしょうか。今回の無料メルマガ『年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座』では著者のhirokiさんが、保険料の返却は可能なのかを詳しく解説してくださっています。
もう年金は要らないから今まで支払った年金保険料返してほしい! は可能なのか
よく、年金の事に対しては批判的な話は多いですが、もう年金なんていらないから保険料返せ! っていうような声もありますよね。
ちょっと話が遠回りになりますが、2009年だったかギリシャが財政破綻しましたよね。今の日本もものすごい借金だからもう年金が貰えないと不安になってる人もいるかもしれませんね。
当時のギリシャと今の日本を比べるのもどうかと思いますが、ギリシャというのはかなり日本とは異なる状況にありました。ギリシャは国家財政の粉飾決算をしていて、つまり会社だとしたら儲かってないのに儲かってるように国が見せかけていた。借金がそんなにないよって話だったが、本当は物凄くあった。確かGDPの4%くらいとか言ってたのに本当は13.6%はあったという話。
で、ギリシャの国債の格付けっていうんですかね、信用がガタ落ちしたんです。この国の国債はヤバイとなって信用が無くなる。だから、国債を買う時っていうのは日本は信用があるからそんなに金利は高くなくて買ってもらえるけど、ギリシャは信用ガタ落ちで金利30%は付けてもらわないと買ってもらえなくなってしまった。金利30%も付けてお金返したら、3年ももたないうちに倍にしてお金返せって話になりますよね。
それじゃあ国としてやっていけないから、ギリシャの財政破綻となってしまった。まあ、その後ドイツやフランスが財政支援をしたんですが、ギリシャも努力せーよ! って話で、いろいろ経済を切り詰めるわけです。
まず年金制度。
ギリシャの年金制度はものすごく豊かなものでした。高齢者天国。それこそ、退職した時にその時の現役の賃金並みに保障しようとかいうもの。50代で早期退職してもそのくらいの年金が普通に保障された。だから、ギリシャが財政を立て直そうとして年金を切り詰めようとして高齢者からの反発が凄かったというか…。
日本だと、年金水準は現役時代の50~60%くらいを目安にしてますが、それは保険料納めた期間や額によって人それぞれ給付が異なるようなもの。あと、ギリシャは脱税が当たり前のように横行していた国だったから税収も十分入ってこないし、国家公務員はどんどん増えるような国だったから無茶苦茶だった。だから、日本と同じように考えるような国じゃない。
おっと、少し話がそれましたが、年金保険料を返せっていうのは今の日本の公的年金制度には無いんですが(経過的にあるといえばある)、そういうのがあった事はあります。
今の年金制度の場合は、原則の保険料納付済期間+免除期間+カラ期間≧10年(平成29年7月までは25年)あれば老齢の年金に関しては出ます。さらに、厚生年金期間が1ヶ月以上あればその分も65歳から出る。1年じゃなくてここは1ヶ月ですからね^^;。原則を満たした上で厚生年金期間もしくは共済組合期間が1ヶ月でもあれば厚生年金も65歳から貰えるという事ですね。
もし原則を満たした上で、厚生年金期間か共済組合期間、もしくはその両者で「1年以上」を満たせば男子なら昭和36年4月1日以前生まれの人、女子なら昭和41年4月1日以前生まれの人なら生年月日に応じて65歳前から厚生年金が支給される。
厚生年金期間が1ヶ月でもあれば年金支給しますよとなったのは、昭和61年4月から。その前、昭和61年3月31日までの厚生年金というのは原則20年を満たさないと貰えない年金だった。とはいえ、昭和36年4月に保険料支払うタイプの国民年金制度ができてからというもの、一応保険料納めた期間くらいは年金出そうという制度にはなりましたから掛け捨てという心配は随分なくなったんですけどね。
つまり、例えば国民年金期間が15年あって、厚生年金期間が6年、共済年金が4年あれば原則の25年になるから、その6年分の厚生年金や4年分の共済年金、15年分の国民年金を支給しようという期間を通算した年金が支給という事になった(通算年金)。通算年金というのは単純に別々の年金制度の期間を繋ぎ合わせるようなもの。
しかし、昭和61年4月から国民年金を文字通り国民共通の基礎年金として、その国民年金の上に厚生年金を乗っけて支給する事で国民全員(一部除く)に国民年金加入が実現したから通算する必要が無くなった。だから通算年金というのは昭和61年4月から廃止された。94歳以上くらいの人なら通算年金が支給されてる人はまだいます。
とはいえ、そうなるまでは厚生年金は20年満たしてくださいねって話だったから、今まで支払った厚生年金保険料を返して年金は将来は貰わないという事もできた。その保険料を返すものを、「脱退手当金」と言いました。
※ 参考
共済には昭和54年12月31日までは退職一時金というものがあった。退職一時金の取り扱いは厚生年金の脱退手当金と違って非常に特殊。
退職一時金の事例に関しては3月の有料メルマガに事例として書いていますので購入したい方は下記のリンクからお求め可能です。
● 学問としての公的年金講座バックナンバーリスト 2018年03月
特にこの脱退手当金というのは、女子のためにあったようなものですね。なぜかというと、昭和の時代は女子で厚生年金期間20年を満たすなんていう人は非常に少数派だったからです。寿退社をしたら、その後再就職なんて考えられない時代だった。
今はよく専業主婦って働く女性から叩かれますけど、昭和の専業主婦はホントに忙しかった。だって洗濯機もないし、炊飯器もないし、育児もあるしでとにかく家事で一日潰れるわけです。今現代のようにボタン一つで何でもやってくれるようなモノはなかった。
しかし、昭和30年あたりから好景気が始まり洗濯機や冷蔵庫、白黒テレビとかが出てくるんですね。当時は三種の神器って言われてましたけどね。昭和40年代になると、3Cっていってクーラー、カラーテレビ、カー(車)が出てきて経済成長のおかげで主婦の負担もだいぶ軽減されるようにはなった。
とはいえですね、昭和の時代の考えは男は外で働いて、家事は妻に任せっきりというのが当たり前みたいな考えだったので専業主婦の負担が取っ払われたわけではなかった。今じゃだいぶ聞かなくなりましたけど、亭主関白という言葉もよくありましたよね。まあ、ひと昔前の人に聞いたら育児家事? した事ないわ! (笑)みたいな男性は多いのではないでしょうか^^;
さて、そういうわけで、女子にとっては厚生年金に加入したとしても一旦家庭に入るともう再度厚生年金には加入は考えにくい時代だったので、そのために脱退手当金という納めた保険料を返しましょうという制度があったわけです。
昭和29年5月から昭和53年5月までに関しての厚生年金期間だったら、2年以上厚生年金期間があれば女子は年齢に関係なく脱退手当金が貰えた。これは女子に存在する特例。今も、もしこれに該当するなら年齢制限無しで貰える。5年以上の厚生年金期間があって、60歳以上で、老齢の年金貰う資格無いし、障害年金の受給権も無いっていう人くらいしか脱退手当金は貰えない。
とはいえ、平成29年8月から老齢の年金が貰えるための原則25年以上が10年に短縮されたから、貰える人はほぼ皆無です。25年以上の時代(平成29年7月までの制度)でさえも脱退手当金に該当してる人はほぼ見た事なかったですね。
脱退手当金を貰った期間は厚生年金に加入しなかったものとされますが、昭和61年4月から厚生年金期間が1ヶ月でもあれば年金に反映されるようなものに変わったから、一応年金受給資格期間に含むだけのカラ期間にはなる。
加入した厚生年金期間を脱退手当金として貰った期間がカラ期間になるのは、昭和36年4月以降の期間(20歳未満の期間でもいい)で、昭和61年4月以降65歳になるまでに、年金保険料を納めたり免除期間が存在した場合。なお、脱退手当金を昭和61年4月以降に請求して貰った人はカラ期間にはならない。
なので、もう今まで支払った保険料返せ!っていうのは、今の年金制度には無いと思ってもらったほうがいいですね~。
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