MAG2 NEWS MENU

世界に遅れをとった日本が、偏見を捨て「eスポーツ」大国となる日

今年8月、アジア最大のスポーツの祭典「アジア競技大会」で、ある競技がデモンストレーション競技に採用され、日本人チームが優勝し話題となりました。その競技とは「eスポーツ」、近年世界中で競技人口が増加中のコンピューターゲームで対戦し勝敗を争う競技です。ゲームに対してまだまだ「偏見」の強い日本ですが、今後ビジネスとして急成長するポテンシャルを秘めた「eスポーツ」の今について、フリー・エディター&ライターでビジネス分野のジャーナリストとして活躍中の長浜淳之介さんが、現場に直接足を運んで取材を重ね、詳しくレポートしています。

プロフィール:長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)
兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)、『バカ売れ法則大全』(SBクリエイティブ、行列研究所名儀)など。

世界に遅れる、ゲーム大国・日本の「eスポーツ」への理解

8月にインドネシアのジャカルタとパレンバンで開催された、アジア最大のスポーツの祭典「第18回アジア競技大会」にて、「eスポーツ(エレクトロニック・スポーツ)」が初めてデモンストレーション競技として採用され、日本チームがサッカーゲーム『ウイニングイレブン2018』で優勝し話題となった。

日本がゲーム大国、しかも今回のアジア大会で金メダリストを生んだだけに、eスポーツが2020年に開催される東京オリンピックでも、デモンストレーション競技に採用されるかが注目されている。

ところが、詳細は後述するが、日本はゲーム大国のイメージとは裏腹に、eスポーツの普及が遅れている。韓国、台湾、中国、アメリカ、ヨーロッパではeスポーツ選手として賞金で稼ぐプロゲーマーをどんどん輩出しているにもかかわらず、未だ日本では「ゲームで遊んでいるのがどうしてスポーツ?」と、怪訝に思われる状況にある。

アジア競技大会で優勝した日本チームの杉村直紀選手、相原翼選手。出典:コナミデジタルエンタテインメントHP

優勝した日本チームの2人は、杉村直紀選手が大学生、相原翼選手が高校生のコンビであったが、そうした見方が強くある中での快挙であった。

eスポーツとは、コンピュータゲームやビデオゲームで行われる競技のことを指し、海外では高額賞金を出す大会も多い。よく、サッカーや野球のゲーム版と言われ、競技によって順位を競い、観戦者も多数動員して興行として成立している。

つまりコンピュータ画面で対戦するオンラインゲームを、新しいスポーツとしてとらえるもので、今回のアジア大会では、個人3種目(『クラッシュ・ロワイヤル』、『スタークラフト2』、『ハースストーン』)、団体3種目(『ウイニングイレブン2018』、『リーグ・オブ・レジェンド』、『アリーナ・オブ・ヴァラー』)が行われた。日本からは『アリーナ・オブ・ヴァラー』を除く5種目に選手が派遣された。

ゴルフや野球をはるかに超える「競技人口」に驚愕

『ウイニングイレブン2018』は、国内ではプレイステーション4とプレイステーション3に対応した、コナミデジタルエンタテインメントによる、世界の名選手、有名クラブが実名で登場する臨場感ある、世界的に人気のサッカーゲーム。

今回のアジア大会では採用されなかったが、日本のゲームでは、カプコンの対戦格闘ゲームである『ストリートファイター・シリーズ』、セガが販売する落ち物パズルゲームの『ぷよぷよ』なども、eスポーツでは人気のタイトルである。

『ストリートファイター』は、カプコンU.S.A.が主催して2005年からプロツアーを行っており、世界大会の優勝賞金は25万ドル(約2700万円)とのことだ。少なくともアメリカでは、もう2000年代初めにはeスポーツが本格的に始まっている。

他のアジア大会で競技に採用されたゲームは、『クラッシュ・ロワイヤル』がフィンランドのスーパーセル社が開発した、タワーを破壊する速さを競うゲーム。『スタークラフト2』はアメリカ・カリフォルニア州のブリザード・エンターテイメントが開発、宇宙で3つの種族が勢力争いを繰り広げる壮大なストーリーを持つ。『ハースストーン』は、ブリザード・エンターテイメントによる、剣や魔法の世界を描いたカードゲームで9人のヒーローの中から選んだ1人を最終的に倒すゲーム。『リーグ・オブ・レジェンド』はアメリカ・カリフォルニア州のライアットゲームズが開発した、5対5で各プレイヤーが100以上ある能力の異なるチャンピオンと呼ばれるキャラクターを選んで、協力しながら敵の本拠地を破壊するPC向けゲームだ。『アリーナ・オブ・ヴァラー』は中国のテンセントによるスマートホン向けゲームで、『リーグ・オブ・レジェンド』に似た感じのゲーム。

ちなみに中国のテンセントは2015年にライアットゲームズを買収して完全子会社化、16年にはスーパーセルの株式84%を取得して子会社にしている、世界最大のゲームメーカーである。

世界で最もプレイヤー数の多いゲームは『リーグ・オブ・レジェンド』で、9000万人と言われている。テニスが1億人なので、それと同じくらいのユーザーがいる。これはバスケットボール4億5000万人、サッカー2億5000万人、クリケット1億人超にはかなわないが、ゴルフ6300万人、野球3500万人よりはるかに多い数字である。

4年に1度開催されるアジア大会では、次回に開催される22年の中国・杭州大会では正式種目に昇格する。東京オリンピックでもデモンストレーション競技になれば、次回のパリ大会で正式種目となる可能性が高くなる。

どのゲームが競技に採用されるかはまだまだ流動的で、当然売上も全く変わってくるし、アジア大会、ましてやオリンピックで種目になるのはたいへん名誉なこと。日本のみならず世界のゲームメーカーが色めき立っている。

ゲームへの「偏見」払拭のため、ゲーマー社員を雇用した企業

停滞する日本のeスポーツ業界を打開しようと、会社を挙げて取り組む動きも出てきた。ゲームソフト企画・開発のポノス(本社・京都市下京区、辻子依旦社長)では、野球などのスポーツの実業団を参考に、プロゲーマーを社員として雇用する、ゲーマー社員制度を発足させた。

実際に社員を募集し、2017年6月より、既に8名のプロゲーマーを採用している。

ゲーマー社員を統括する、ポノスの板垣護いろはスタジオ・スタジオ長は、この制度を始めた理由を次のように語る。

「ゲームには未だに世間に渦巻く偏見のようなものがあって、『いい歳をしていつまでゲームをやっているの』みたいな見方を無くしていきたいと思ったのです。eスポーツ業界にもアングラなイメージが付いていましたから、業界に関与して底上げをしていかないといけないのではないかと考えて、ゲーマー社員の募集に至ったわけです」。

ポノスの板垣護いろはスタジオ・スタジオ長

ゲームがスマホでプレイできるようになった時代背景もある。eスポーツの普及にはプレイヤー数が多くなることが必要だが、従来はゲームを楽しみたい人がゲーム機とそれに対応するソフトを購入しなければ遊べなかった。

ところが、これだけスマホが一般化してくると、わざわざゲーム機を購入しなくても、誰もが電車やバスの中でゲームをダウンロードして遊べるようになった。ハードとソフトの面で、ゲームに対するハードルが低くなったのを、ポノスは「eスポーツが日本でもブレイクするチャンス」と見た。そこでゲーマー社員募集に踏み切ったのだ。

「ゲームをやっている人がすごいと思われるような世の中にしたい。また、そういうドラマが生まれるゲームを開発したい」と板垣氏は目を輝かせる。

ゲーマー社員たちは、広報部員としても働き、ゲームの宣伝をすることで、ポノスのみならず業界全体を底上げする任務を担っている。

ゲーマー社員が獲得したメダルやトロフィーの数々

ポノスでは実際に、4月にスマホ向け1対1の対戦型アクションゲームアプリ『ファイトクラブ』をリリース。最高賞金5万円のデイリー大会などの賞金を出すサービスを毎日実施している。残念ながらこの『ファイトクラブ』は11月30日14時を以て、わずか7ヶ月でサービスを終了することとなったが、eスポーツに一石を投じたと言えよう。

残念な結果となった要因として、格闘ゲームとしてはスピード感に欠ける面があったという意見も聞くが、毎日賞金を出すシステムに無理があったようだ。

また、賞金の出る大会では同じ能力のレンタル装備で遊ぶので、全プレイヤーが平等な条件で開催されることが浸透しなかったと、指摘するゲーマーもいる。

日本では課金ガチャによって、高額な課金で得たアイテムを装備しないと勝てないオンラインゲームが多い。グリー、モバゲーのようなソーシャルゲームは特にそうだ。そのイメージで大会が見られると、参入者が増えなくなってしまう。eスポーツの公平性を、いかに世間に周知させるのかが課題だろう。

ポノスでは、他にもリリースに向けて仕込んでいる幾つかのゲームがあるそうなので、改めて期待したい。

「ゲーマーが夢を抱くことのできる社会」を日本でも実現したい

ところで、ポノスのユニークな8名のゲーマー社員たちは、どういった経緯で入社したのであろうか。

ポノスのゲーマー社員。左から、トンピ?氏、ガリレオ氏、もけ氏

ガリレオ氏は、山口県の出身で高専卒業後、京都で8年間会社員として勤めていたが、ゲームが好きでよくゲームセンターで遊んでいた。13年にブレイブルーというアークシステムワークスの対戦格闘ゲームで日本チャンピオンとなり、14年には世界大会で優勝した。その後は仕事に追われて、2年ほどあまりゲームができず、上司からは「世界大会で優勝もしたし、そろそろゲームはやめて結婚したらどうか」と説教もされた。ゲームに対して世間の偏見が根強いことに心を痛めていたが、ポノスがゲーマー社員を募集するのを知って、その悪しきイメージを少しでも変えていきたいと入社した。

プレイ中のガリレオ氏。出典:ポノスHP

現在は、競技としてブレイブルーやドラゴンボール(バンダイナムコ エンターテインメント)の練習がメイン。それにプラスして、ゲームの広報や、ゲーム開発時に実際にプレイをしてアドバイスをする仕事をしている。

もけ氏は、新卒で入社した22歳。小学1年生の頃から格闘ゲーム、対戦ゲームの競技性に惹かれてプレイしてきたが、ゲームをやることにコンプレックスを感じ、友達にも隠して密かに腕を磨いていた。ちょうどアメリカ最大のエボリューションという大会で、ストリートファイターで5位に入賞。トップ8が全員プロゲーマーという中、唯一アマチュアで上位に入って注目を集めた。やはり、世間からのゲームに対する偏見を変えたいというのがゲーマー社員になった切っ掛けだった。

仕事はガリレオ氏と同様だが、試合に出る時にポノスの社名とチームカラーの入ったユニフォームを着て広報活動の一環として戦うことに、誇りとやりがいを感じるという。

トンピ?氏は、ガリレオ氏、もけ氏とは立ち位置が異なり、ゲーム実況を行うキャスターとして入社し、活動している。日本で5名ほどいる、ゲーム専門キャスターのうちの1人で東京ゲームショウ2018でも、開催期間中は連日、何らかの実況活動を行った。元々eスポーツのプレイヤーで、前職ではeスポーツを行う学生などを支援する仕事に就いていたが、もっと直接的にeスポーツ選手のセカンドキャリア構築や、世間の偏見を払拭できる仕事をしたいといった思いで、ゲーマー社員になった。

キャスターとしては、ゲームの複雑なルールをわかりやすく解説して、観戦者が楽しめるようにしたり、今起こっている状況をリアルに伝えたりと、野球、サッカー、格闘技、競馬などの実況のように、いかに臨場感を持って競技を盛り上げられるかに注力している。その他、広報としてゲームファンのオフ会、ファンミーティングを開くことも行っている。

また、今年から始まった、スーパーセルが運営するクラッシュ・ロワイヤルのアジアのプロリーグ戦に出場するチームメンバー5名が、スーパーセルから選手を預かる形で社員化している。

海外ではプロゲーマーは、ゲームで賞金を稼ぐだけでなく、有名になるとCM出演、雑誌の表紙やお菓子のパッケージになるなど、一種のタレント業も含めてアイドル的な人気を博す。その点では、一般的なスポーツ選手と同様である。そういったゲーマーが夢の抱ける社会を日本でも実現したいと、ポノスの板垣氏は力を込めた。

世界に遅れをとった日本にとって、2018年は「eスポーツ元年」

まだ黎明期とも言える日本のeスポーツ業界だが、あの吉本興業も参戦。5つのチームを運営するだけでなく、今年3月には3名のゲーマー社員を入社させたと発表。YouTube Gamingなど配信プラットフォームでのゲーム実況とキャスターの育成、同社が運営している劇場などでのeスポーツイベントの開催など、ポノスと同様に幅広い分野で、盛り上げをはかっている。

従来は乱立していた国内のeスポーツの団体も、主要3団体が合併して2月に一本化。日本国内のeスポーツ振興と競技力向上、スポーツ精神の普及を目的とした「一般社団法人 日本eスポーツ連合」(JeSU)が設立された。初代会長には、セガホールディングスの岡村秀樹社長が就任。

JeSU公認のプロライセンスも次の8タイトルで認定している。「ウイニングイレブン2018」(コナミデジタルエンタテインメント)、「コール オブ デューティ ワールドウォーⅡ」(アクティビジョン・パブリッシング)、「ストリートファイターⅤ アーケードエディション」(カプコンU.S.A.)、「鉄拳7」(バンダイナムコ エンターテインメント)、「パズドラ」(ガンホー・オンライン・エンターテイメント)、「ぷよぷよ」(セガ)、「モンスターストライク」(ミクシィ)、「レインボーシックス シージ」(ユービーアイソフト エンターテインメント)。

オリンピック、アジア大会などの国際大会に選手を派遣する体制が整ってきた。

今年になって急速に発展しつつあるeスポーツ。まさに「eスポーツ元年」と言えるのではないだろうか。プロゲーマーが、プロの野球選手、サッカー選手、ゴルファー、格闘家のように世間に認知されるまではまだまだ平坦な道程ではないだろうが、諸外国に後れを取ってしまった現状を変えようという動きが活発化している。

photo by: RK-studio / Shutterstock.com

長浜淳之介

プロフィール:長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)

この著者の記事一覧はこちら

兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)など。

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け