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五反田55億地面師事件、なぜ積水ハウスは「ど素人」に騙されたか

昨年8月に発覚し、その被害額の大きさに世間が驚愕した「積水ハウス55億円詐欺事件」が今月急展開を見せ、関わった人間のうち9人(10月24日現在)が逮捕されましたが、土地の所有者の「なりすまし役」は設定もろくに覚えられない「ど素人」とも言うべき高齢女性でした。なぜ日本を代表する住宅メーカーがいとも簡単に55億円もの大金を騙し取られたのでしょうか。今回のメルマガ『伝説の探偵』では同事件直後に「探偵が調査。積水ハウスから63億円を騙し取った『地面師』の黒幕」で詳細なレポートを届けてくださった現役探偵の阿部泰尚(あべ・ひろたか)さんが、その謎に迫っています。

積水ハウス巨額詐欺事件で、偽の土地所有者役をやらされた「ど素人」

積水ハウス55億円詐欺事件で、逮捕者が相次いでいる。「伝説の探偵」では事件当初に「探偵が調査。積水ハウスから63億円を騙し取った『地面師』の黒幕」でこの事件をレポートしたが、新たな局面を迎えたといえるだろう。

積水ハウス五反田地面師事件とは

東京、五反田駅から徒歩3分ほどのところに「海喜館うみきかん)」という古い旅館があり、これが約600坪がまとまった土地で、この所有者になりすました地面師(土地に関する詐欺師)集団が、不動産大手の積水ハウスを騙し55億と7億円相当のマンションを騙し取ったという事件である。

逮捕者を見る限りプロの地面師だらけだが

積水ハウス巨額詐欺事件では、すでに逮捕者が出ている。指名手配となった首謀者は2018年10月に海外逃亡を図っている。「戻り次第」と言うことだが、果たして戻って来るのか、疑問である。

他にもAPAの土地所得事件で逮捕起訴されているメンバーや新橋資産家怪死事件(資産家女性が怪死、所有不動産が転売された事件)の関係者、政界の資金源ではないかと言われている会社経営者、地面師で得た資金を元手に闇金へ高利貸しをして資金を転がす人物までいる。

もはや、海喜館を舞台に積水ハウスを騙すために結成されたプロの詐欺集団というところだろう。地下では、「オーシャンズ12」になぞられて、「小山ーズ12」と呼ばれているらしいというバカバカしい噂さえ飛び交う。

ただ、解せないのは所有者役となった高齢女性である。この人物のみ他のメンバーと比べると、異質なのだ。

手配師は有名地面師

積水ハウス巨額詐欺事件において、私が注目したのは、手配師となった高齢女性A氏だ。APAが13億程度やられたという不動産詐欺事件や新橋資産家怪死事件にも関与し、それ以前も複数件の地面師が起こした詐欺事件で逮捕を繰り返しされている地面師としては有名人である。

都内繁華街を根城にしており、異名すらもつ70過ぎの婆さん。ある意味、詐欺妖怪とも言えるだろう。このA氏が所有者役として連れてきたのが、現在逮捕され、唯一容疑を認めている羽毛田正美容疑者であった。

所有者役はど素人

この所有者役の詐欺師は、とんだど素人であった。女手配師は、所有者役の夫役などを手配し、この夫役らが演技指導(情報の暗記)をした。

ところが、この所有者役は、出来が悪かった。本人確認のための、「干支を間違えたり所有先である住所を間違えた。結果、取引では話をするなと指示が出て、相槌しかしなかった。

所有者役の羽毛田正美容疑者は、元は生命保険のセールスレディであった。女手配師A氏は、単に人当たりが良く、日常のコミュニケーションができる人物であり、詐欺自体に勘付かない程度の間が抜けた人物であれば、それで良かったという。

それにしても、情報を正確に覚えられないというのには、詐欺グループの誰もが閉口したはずだ。「なんて覚えの悪い奴を連れてきたんだ!」と。ただし、結局はこの所有者役は最もリスクを背負い逮捕される要員である。なりすまし役は最も逮捕されるリスクが高いが、他は、このなりすまし役に騙された知らなかったで逃げ切るつもりだからだ。

なぜ騙されたのか?

そんな杜撰な計画は、他の不動産会社は軒並み見抜いていた。五反田界隈の土地所得には気をつけろという話は、不動産会社では有名な話であった。手配師が用意した所有者役の身分証であったパスポートは、透かしなども完璧であったというから、そもそもの人選にもミスがあったのだろう。

では、なぜ積水ハウスほどの大手が騙されたのかという疑問が残る。内部の話によれば、この巨額詐欺事件では社長の決済の方が担当者が会ったより先であったという。つまりは、積水ハウス上層部の決定によって担当部署が動いたということになる。

お家騒動もあった積水ハウス、地面師らの逮捕によって、何か変化が起きるであろうか。

地面師はグループで行動するが、集散する

国内で確認する限り(私が知る限り)国内には有名な地面師グループは6つほどある。一部は暴力団の資金源となっていたり、なりすまされた所有者が謎の死を遂げているものもある。

そして、この地面師は逮捕されることはあるが、起訴されることは少ない上、起訴されても、しばらくすると社会復帰し、また詐欺をやる。刑期は形骸化し、反省どころか犯罪人脈を深めて出所するというきらいもある。ブラックマーケットや闇資金との繋がりも深く、一度だまし取られるとその金の行方は、必ずどこかで現金化されて消え失せてしまうのだ。

ただ、こうした金が闇金の資金源となったり、資金洗浄されてどこかに別名目でプールされていたり、次の詐欺の資金源となったりする。

また一方で、なりすましをやった地面師は逮捕起訴されるリスクが高いが、この積水ハウス55億円地面師詐欺事件のように、ど素人が手配されるということも起きた。つまりは、ちょっとした儲け話のつもりが犯罪に手を染めてしまうというわかりやすい罠は、どこにでも転がっているということなのだ。

知らぬ儲け話には手を出さない。これに限るのだが、法改正、民間取引についてのチェック機関の設立など、各所に渡る総合的な整備が必要だろう。

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image by: MAG2 NEWS

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社会問題を探偵調査を活用して実態解明し、解決する活動を毎月報告。社会問題についての基本的知識やあまり公開されていないデータも公開する。2015まぐまぐ大賞受賞「ギリギリ探偵白書」を発行するT.I.U.総合探偵社代表の阿部泰尚が、いじめ、虐待、非行、違法ビジネス、詐欺、パワハラなどの隠蔽を暴き、実態をレポートする。また、実際に行った解決法やここだけの話をコッソリ公開。
まぐまぐよりメルマガ(有料)を発行するにあたり、その1部を本誌でレポートする社会貢献活動に利用する社会貢献型メルマガ。

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