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総額200兆。認知症で財産凍結される前にすべき「家族信託」とは

高齢化が進み、人生100年時代とも言われる今、認知症や介護のリスクがより高まっています。そんな時代背景もあり注目され始めているのが「家族信託」。今回の無料メルマガ『まんしょんオタクのマンションこぼれ話』では著者でマンション管理士の廣田信子さんが、勉強会で得た家族信託についての情報をシェアしています。

家族信託の目的は介護費用、不動産、そして…

こんにちは! 廣田信子です。先日の家族信託の勉強会では、また多くのことを学びました。気づいたことをシェアしたいと思います。

まず、商事信託信託銀行等の商品と家族信託の違いは、預ける相手が、商事信託は、銀行や保険会社(信託業法が根拠)家族信託は、信頼できる家族等という違いがあります。で、商事信託は有償ですが、家族信託は無償が原則です。また、預ける財産は、商事信託は現金のみですが、家族信託は不動産も対象です。

まだ日本ではあまり知られていない家族信託ですが、アメリカでは、生前に信託するのが資産がある人にとっては当たり前になっているといます。

日本では、平成19年の信託法改正で可能となりましたが、あまり普及していません。なぜこの10年間普及しなかったのかというと、まず、普通の人は法律をくわしく知らないし使いこなせません

ビジネスとして成立すれば、士業の人が積極的に広げるでしょうが、税理士さんにとっては、家族信託そのものでは相続税対策にならずビジネスにならないので注目しなかったといいます(家族信託そのものは相続税対策にはなりませんが、家族信託の後、自由に相続税対策ができます)。

司法書士さんにとっても、家族信託は、その方の資産や家族の状況を正確に知らなければ、契約書の作成はできないので、手間暇がかかってビジネスになりにくいので、一部の人が取り組んでいたに過ぎませんでした。

で、最近注目され出したのは、長寿命化による認知症の増加と認知症の方の財産凍結という課題成年後見制度の限界不自由さ相続人が決まらず放置される空き家問題等社会問題を解決するのに有効な手段だと気づき出したことによります。

90歳代まで長生きするのが珍しくない社会は、認知症発症と長期化する介護のリスクと共存する社会です。親が認知症になると家族はたいへんです。介護を誰が担うか、施設に入居するとして費用を誰が負担するか、兄弟でもめることにもなります。それが遺産相続の争いにもつながります。介護に使える財産を持っているのに、認知症になって、それが動かせなくなり、有効に使えていない高齢者がたくさんいるのです。

それによって、結婚しないで自宅に同居している子供等が介護を抱え込むことになり、介護離職、介護離職の長期化による社会からの孤立というような介護する側の問題にもつながっています。

認知症を発症すると、法律行為法律的な義務や権利が生じることができなくなります。具体的には、下記のことができなくなります。

これが財産凍結です。認知症によって凍結した財産は200兆円に達します。普通預金にあるお金だと、本人じゃなくてもキャッシュカードで引き出せるから大丈夫、暗証番号知っているし…という方もいると思いますが、振り込め詐欺等の対策で、銀行側のチェックも厳しくなっています。一旦、お金の引き出し方がおかしいと認知されると、キャッシュカードが使えなくなります。その時点で財産凍結です。

長生き社会では、両親、子どもも含め、誰が認知症を発症するか、誰が長く生きるかも、予想がつきません。例えば、典型的な、銀行預金や不動産は父親名義という家族で、母親が認知症を発症していたが、元気で母親のめんどうを見ていた父親の方が急死したような場合、認知症の母親が父親の財産を相続することになりますが、その財産を相続するためには成年後見人をつけなければならず、成年後見人は、法定相続分の2分の1を請求し、(さらに、民法が来年改正になると
自宅は母親が相続することになります)以後、相続財産は有償で法定後見人が管理することになります。父親が子供と相談して考えていた相続税対策もいっさいできなくなります

改めて、高齢の両親のたどる道にもいろいろなパターンが考えられます。父親が認知症になったら…父親が先に亡くなったら…母親が認知症になったら…母親が先に亡くなったら…、さらに第一受託者とした長男が母より先に亡くなったら…等々。

信託契約書を作るという作業は、将来のあらゆる状況に備えて、自分の気持ちや意思を確認しながら、本人や親族が困らないように組み立てるという作業で、人生の総決算のようなものです。勉強会の講師の方が扱った家族信託77人のケースをパターン分類すると、

第1位 介護費等の捻出、実家売却
第2位 相続税を減らしていくため
第3位 親亡き後の生活支援をするため(障害、引きこもり、浪費、アルコール依存症)
第4位 家督相続型(長男の嫁に渡したくない等)

になるといいます。やはり、介護費用捻出のために自宅が売却できるようにという目的で検討するケースが多いのです。

そして、私は、第3位の親亡き後の生活支援…が目を引きました。障害を持っている子供や引きこもりの子供がいる高齢の親の苦悩を聞くことがあるからです。自分たちの介護や認知症の心配より、自分たちが亡き後、この子はどうやって生活していくのか…兄弟に負担をかけられないがどうやって財産を残せばいいのか…と。

この問題を、せめて親が元気なうちに兄弟とも話し合うことができれば親も兄弟もずっと心が軽くなるはずです。みんなが力を合わせて知恵を出し合うこともできます。親族の話し合いの結果を踏まえて、家族信託の契約書には、生きている間のこととしては、

亡くなってからのことは、

などをきめ細かく書くことになります。たとえ、結果的に、信託契約書にする必要がなかったとしても、高齢の両親と子供たちが、家族信託の検討を契機に、将来のことをざっくばらんに話し合う機会をもてるということだけでも、どれほど親も子も心が軽くなるか…と思いました。

勉強会でお話しいただいた日本財託の横手彰太講師の著作は会場で完売しました。『親が認知症になる前に知っておきたいお金の話』(ダイヤモンド社)です。興味を持たれた方はぜひ!

image by: Shutterstock.com

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【著者】 廣田信子 【発行周期】 ほぼ 平日刊

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