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アメリカ大誤算。イラン制裁で進む米離れに雀躍の中ロ両首脳

11月5日、イラン制裁を再開したアメリカ。単独で強行された「史上最強措置」は、世界にどのような事態を引き起こすのでしょうか。国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんは今回の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』で、米国とイランの関係性を、石油利権争いの時代、シェール革命以降、トランプ政権成立後に区切り解説した上で、現在のトランプ強行路線の異様性に対し主要国の非難は高まるだろうと結んでいます。

トランプ、イランに「史上最強」の制裁、その中身は?

「アメリカがイラン制裁を再開した」というニュースが入っています。今回は、この重要問題について考えてみましょう。

アメリカ、イラン関係の推移(2000年代)

まず、これまでの流れを復習しておきます。アメリカが、イランの核問題を騒ぎはじめたのは、2002年頃です。ちょうどイラクの「大量破壊兵器保有」も問題になっていた。

02年、アメリカは、イラク戦争を開始しました。ところが、RPE読者の皆さんはご存知のように、イラクには大量破壊兵器がなかった。ちなみに、「イランが核兵器開発をしている」という話も、イラクの時同様、「大うそ」である可能性があります。「陰謀論」じゃないです。世界の原子力、核エネルギーを管理、監視、監督する国際機関といえば、IAEA(国際原子力機関)。そこのトップである日本人・天野之弥氏は、09年12月の事務局長就任直前に何と言っていたか?

イランが核開発目指している証拠ない=IAEA次期事務局長

 

[ウィーン 3日 ロイター] 国際原子力機関(IAEA)の天野之弥次期事務局長は3日、イランが核兵器開発能力の取得を目指していることを示す確固たる証拠はみられないとの見解を示した。ロイターに対して述べた。天野氏は、イランが核兵器開発能力を持とうとしていると確信しているかとの問いに対し「IAEAの公的文書にはいかなる証拠もみられない」と答えた。

(ロイター2009年7月4日)

どうですか、これ?09年半ば時点で、IAEAの次期トップが「イランは核兵器開発を目指していない」と断言していた。これは、いったい何なのでしょうか?

イラクとイランが叩かれる真実の理由」は2つあると推測されます。1つは石油です。2001年にブッシュ(子)が大統領になったとき、「アメリカ国内の石油は、2016年に枯渇する」と予測されていた。それで、アメリカは、イラクとイランの石油利権を支配しようとした。

もう1つは、「ドル基軸通貨体制防衛」。イラクのフセインは2000年、「原油の決済通貨をドルからユーロにかえる」と宣言し、実際かえてしまった。アメリカは、イラクを攻撃。その後、イラク原油の決済通貨をユーロからドルに戻した。イランも、イラクにつづき、「ドルは受け取らない」と宣言していました。この辺の流れ、「世界一わかりやすいアメリカ没落の真実」でしょう。超詳しく触れています。まだの方は、完全無料ですので、是非ご一読ください。

● 『世界一わかりやすいアメリカ没落の真実』(メルぞう)

アメリカは、イラクを攻めた。しかし、イランは逃げ切ることに成功しましたというのも、アフガンイラク戦争が予想外に長引いたからです。そうこうしているうちに、「リーマン・ショック」が起こり、ブッシュ(子)の時代は終わりました。オバマ時代がはじまった。

アメリカ、イラン関係の推移(2010年代)

2010年代になると、アメリカで、非常に大きな変化が起こりました。それが「シェール革命」。これで、アメリカは、「2016年に石油が枯渇する」などと心配する必要がなくなったそれどころか、今では世界一の産油国産ガス国になった。トランプの重要ミッションの1つは、「アメリカ産シェールガスの輸出先を探すこと」なのです。シェール革命で何が変わったか?アメリカにとって中東の重要度が下がった。それで、アメリカとイスラエル、サウジアラビアの関係がとても悪くなった。

2015年3月、歴史的「AIIB事件」が起こります。イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、スイス、イスラエル、オーストラリア、韓国など、「親米諸国群」がアメリカの制止を無視し、中国が主導する「AIIB」への参加を決めた。これでオバマは、「中国打倒を決意します。彼は、中国を打倒するために、他の諸問題を解決することにした。

オバマは、ロシアとプチ和解。ウクライナ内戦、シリア内戦は沈静化させ、2015年7月、「イラン核合意」が成立した。参加したのは、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、ロシア、中国、イランでした。

アメリカ、イラン関係の推移(トランプ時代)

ここまでの流れを整理すると

となります。ところが、トランプ時代になると、また大きな変化が起こった。トランプは、ネタニヤフ首相の親友で超親イスラエルなのです。そして、イスラエル最大の敵はイランである。それで、2018年5月、トランプはイラン合意からの離脱を宣言しました。この決定は、世界中で「理不尽」ととらえられ、トランプ政権の評判を大いに下げました。というのもイランは核合意を順守しているからです。

「イランは核合意順守」=IAEA
5/9(水)21:40配信

 

【ベルリン時事】国際原子力機関(IAEA)の天野之弥事務局長は9日、米国のイラン核合意離脱表明を受け「現時点では、イランは核開発に関する合意を順守している」との声明を出した。声明は「IAEAは動向を注視している」と説明。その上で「イランは核合意により、世界でも最も強力な監視体制下に置かれている」として、核合意が有効に機能してきたことを強調した。IAEAは定期的に、イランの合意履行状況を査察している。

そして、この合意に参加した他の国々(英国、フランス、ドイツ、中国、ロシア、イラン)も、アメリカの離脱に反対している。「核合意離脱」に賛成しているのは、反イランのイスラエルとサウジアラビアだけです。

イラン制裁の中身は

そして、アメリカのイラン制裁が再開されました。繰り返しますが、イラン合意に参加した、イギリス、フランス、ドイツ、ロシア、中国、イランは、「合意維持」を指示しています。それで、これは「アメリカによる単独制裁」となります。どんな内容なのでしょうか?

トランプ米政権は、2015年のイラン核合意から米国が5月に離脱したことを受け、イランおよび同国と貿易関係にある各国を標的とした制裁を全て再発動するとしている。今回の制裁では、石油輸出、船舶、金融など経済の重要部門全てが対象になる。
(同上)

「石油輸出、船舶、金融など経済の重要部門全てが対象となる」そうです。

今回の制裁は、700以上の個人、組織、船舶、航空機が対象となる。この中には大手銀行、石油輸出企業、船舶会社も含まれる。
(同上)

中でも影響が大きいのが「石油輸出禁止措置」ですね。石油はイランの主要な輸出品である。そして、他の国々にとっては、「イランからの石油輸入をアメリカから禁止される」ことを意味します。

ポンペオ国務長官は、制裁の見通しを理由に、世界的大企業100社以上がイランから撤退したと話している。ポンペオ氏はまた、イランの石油輸出が1日100万バレル近く減ったため主要財源が断たれつつあるとも述べた。
(同上)

イランにとっては、厳しい状況です。

さらに、ベルギー・ブリュッセルに拠点がある「国際銀行間金融通信協会(SWIFT)」が提供する国際金融ネットワークは、制裁対象となったイランの機関除外する予定となっている。そうなれば、イランは国際金融システムから孤立する。
(同上)

これも厳しいですね。ロシアはSWIFTから除外されることをもっとも恐れているといいます。ロシアの企業も「制裁で一番厳しいのは金融システムから締め出されることだ」という。イランはあっさり締め出されてしまい、大変厳しい状況になるでしょう。

バカげた制裁

この制裁、「戦略的にみるとどうなのでしょうか?私は、「大変バカげていると思います。アメリカは、中国と「覇権戦争」をしているのでしょう?それなら、ターゲットは中国にしぼるべきなのです。AIIB事件で覚醒したオバマさんは2015年、まずロシアと和解し、ウクライナ、シリア、イラン問題を次々と鎮静化させていきました。それでターゲットを中国にしぼり大バッシングを開始した。結果、中国経済は2015、2016年、とても悪かったのです。

トランプさんは、IAEAが「イランは合意を順守している」と宣言しているにも関わらず、合意から離脱して、イラン制裁を再開する。本来はアメリカの味方であるはずのイギリスフランスドイツはアメリカの敵であるロシア中国と一体化して、アメリカの合意離脱と制裁に反対している。つまり、トランプさんの制裁が、欧州と中ロを結びつけてしまっている。誰が一番喜んでいるのでしょうか?いうまでもなく習近平、そしてプーチンでしょう。

日本には、トランプファンが多いのですね。彼が「中国を打倒する!」と決意していることは、歓迎されるべきことかもしれません(日本も経済的打撃を受けるが)。しかし、そのこととトランプが「戦略的な人なのか?」は、違う問題ですね。

このイラン制裁。アメリカのパワーが強いので、「うまくいっている」ように見えるかもしれない。しかし、イラク戦争同様、いい結果にはならないでしょう。

image by: Evan El-Amin / Shutterstock.com

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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