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新大綱で1兆円超えるF-35導入計画。日本は価格抑制に成功するか?

政府が12月に策定する新たな「防衛計画の大綱」の骨格が明らかになり、航空自衛隊の次期戦闘機(FX)として導入するF-35が、100機追加され計140機となる見込みとなりました。この次期戦闘機(FX)の選定に関わった軍事アナリストの小川和久さんは、自身のメルマガ『NEWSを疑え!』で、60機が必要とされながら、価格高騰のために13機しか導入できなくなったAH-64Dアパッチ戦闘ヘリコプターの轍を踏まないためにも、ロッキード・マーチンとの価格交渉が非常に重要になると指摘しています。

「当初計画」通りに進むF-35導入

この年末に改定が予定される防衛計画の大綱に、航空自衛隊の大増強計画が盛り込まれそうです。

「政府は最新鋭ステルス戦闘機『F35』を米国から最大100機追加取得する検討に入った。取得額は1機100億円超で計1兆円以上になる。現在導入予定の42機と合わせて将来的に140機体制に増える見込み。現在のF15の一部を置き換える。中国の軍備増強に対抗するとともに、米国装備品の購入拡大を迫るトランプ米大統領に配慮を示す狙いもある。(後略)」(11月27日付日本経済新聞)

実を言えば、この大増強計画の伏線となるF-35導入計画の修正は、中期防衛力整備計画(現行は2014年度から2019年度)にも次のように明記されていたのです。

「近代化改修に適さない戦闘機(F-15)について、能力の高い戦闘機に代替するための検討を行い、必要な措置を講ずる」

たまたま航空自衛隊の次期戦闘機(FX)の選定に関わることになった私は2011年秋、1機300億円にもなると噂されていたF-35の価格の内訳や経済効果について、ロッキード・マーチン側に確認を求めました。60機が必要とされながら、価格高騰のために13機しか導入できず、無用の長物と陰口をたたかれる結果となったAH-64Dアパッチ戦闘ヘリコプターの轍を踏ませるわけにいかなかったからです。

価格の内訳については、FXの候補機に名乗り出ていたユーロファイターもF/A-18も同じで、これまでにも価格を高騰させる原因となってきた「日本側の問題」を排除することによって避けられることが明らかになりました。「日本側の問題」とは、政治がらみの汚職が発生しやすい土壌です。 経済効果については、ロッキード・マーチン側の提案は次のようなものでした。

「10年間で100機を年間10機のペースで導入するのが最も経済効果が出る。そのためには110機の非近代化改修F-15(Pre-MSIP)の後継機としてもF-35を導入するのが望ましい」

むろん、ロッキード・マーチン側の商魂たくましい提案ではありますが、これは日本の航空戦力を短期間に向上させることでもあり、歓迎すべき提案でもありました。

F-4ファントムの後継機としてFXの導入計画を決めた段階では、F-15の後継機種として第6世代戦闘機が登場するとの期待感があり、それでF-35は42機となったのです。しかし、近い将来に第6世代戦闘機が登場する可能性は遠ざかり、非近代化改修F-15の後継機としてもF-35が相応しいことが明らかになっていったのです。

そういう経過をたどり、F-35は「日本側の問題」を排除する目的のもと、財務省から防衛省に下ろされる形で決定に至りました。 日経が報じた「合計140機」の内訳としては、F-15の後継機として導入されるF-35のうち40機ほどが垂直離着陸可能なF-35Bになると見るのが自然でしょう。同じとき、F-35Bのプラットホームになると考えられる多目的運用母艦の建造が大綱に盛り込まれる方向なのとあわせると、離島防衛能力の強化が加速されるのは明らかだからです。

課題は日本側に調達能力が存在しないことです。西恭之さん(静岡県立大学特任助教)のコラム(2017年2月2日号)によると、2007年に1機2.79億ドルだったF-35Aの価格は2016年には1.02億ドルと3分の1近くにまで低下しているのです。これはトランプ大統領がロッキード・マーチン側に価格抑制を要求した2017年以前から始まっていた流れです。

大量に導入する日本としては、これを1機0.90億ドル(約100億円)以下に抑え込むほどでなければ、国際的な交渉力の不在が浮き彫りとなり、ほかの通商問題などに好ましくない影響が出るのは避けられないでしょう。(小川和久)

image by: U.S. Air Force photo by Master Sgt. Donald R. Allen [Public domain], ウィキメディア・コモンズ経由で

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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【著者】 小川和久 【月額】 初月無料!月額999円(税込) 【発行周期】 毎週 月・木曜日発行予定

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