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なぜ沖縄県中部地区の住民には心筋梗塞や脳卒中患者が多いのか

2018年10月10日、世界保健機関(WHO)ヨーロッパ地域事務局は、騒音に曝されることによって、心筋梗塞や脳卒中、糖尿病を発症する可能性が高まるということを明言し、新騒音ガイドラインを発表しました。1年半前の沖縄帰郷で、自身も騒音汚染に苦しんだ現役医師の徳田安春先生は、自身のメルマガ『ドクター徳田安春の最新健康医学』で、沖縄県内の騒音による健康被害の実態を解説。日本が含まれるWHO西太平洋地域事務局でも新ルール適用の必要性を訴えています。

騒音汚染に悩む私

2017年4月から沖縄に戻りました。約10年ぶりの帰郷です。帰郷してホッと一息つくことができたものの、私と家族はある汚染に苦しむことになりました。それは「騒音汚染」です。騒音の出現元は自動車だけでなく、米軍基地所属の航空機があります。

騒音によって、血液中のアドレナリンとコルチゾールが上昇します。アドレナリンは交感神経や副腎髄質から分泌されるもので、血圧と心拍数を上昇させます。コルチゾールは副腎皮質から分泌され、これも血圧を上げる作用があります。また、全身の血管は収縮します。これらにより、心筋梗塞や脳卒中、糖尿病が起こりやすくなります。

夜間の騒音は睡眠を妨げます。睡眠の質は低下し、疲労とストレスが蓄積します。睡眠負債が増えていきます。夜間の騒音により、睡眠開始時刻は遅れ、覚醒時刻は早まります。睡眠の深さは浅くなり、途中覚醒が増えていきます。長期化することによって、日中の活動でのパフォーマンスは低下します。

騒音のおかげで、私の睡眠の質は低下しました。家族の血圧も上昇し、減塩もかなわず、病院に通院して血圧を下げる薬を飲むことになりました。少しでも静かな環境を求めて、私と家族は県内の別の市町村に引っ越ししました。今のところ、移り済んだ家では自動車騒音は少ないですが、米軍機は相変わらずです。最近私は、睡眠時にはノイズキャンセリング付きのヘッドフォンを装着するなどをして対応しています。

基地と騒音、そして健康被害

世界的にも、騒音がもたらす健康被害は空港周辺が最も深刻となります。イギリスのヒースロー空港周辺の騒音は歴史的にも有名です。民間空港をはるかに超える騒音被害をもたらすのは軍事空港です。実際、米軍戦闘機の騒音は凄まじいものがあります。

私は琉球大学医学部を卒業してから約15年間沖縄県立中部病院で診療していました。その頃から私は、心筋梗塞や脳卒中が沖縄県中部地区の住民にかなり多いことに気づいてました。その原因の大きな部分は、米軍機がもたらす騒音であると考えています。

嘉手納基地爆音差し止め訴訟で専門家意見を提出した、北海道大学の松井利仁教授は次の試算を発表しました。米軍嘉手納基地の航空機騒音によって心筋梗塞や脳卒中にかかる人は、毎年約30人にもなると試算されています。夜間騒音が原因の睡眠障害に悩まされている基地周辺住民は約1万人います。松井氏は、戦後70年の間に約300人が騒音による心筋梗塞と脳卒中で死亡したと試算し、これは「大規模な公害病だ」と述べました。

騒音汚染対策が始まったヨーロッパ

世界保健機関の試算で、日常的に騒音に曝露し、健康被害を被っている人々は現代世界でかなり多いことがわかっています。子どもたちへの長期間の騒音曝露は知能発達の障害をきたします。睡眠障害、騒音に関連する心筋梗塞と脳卒中、そして騒音による難聴や耳鳴りは蔓延しています。

そんな中、2018年10月10日、世界保健機関ヨーロッパ事務局は新しい騒音ガイドラインを発表しました。そこでは、エビデンスに基づく提言がなされており、高く評価できます。真新しい点をいくつか紹介しましょう。まず、騒音曝露は心筋梗塞や脳卒中、糖尿病の重要な原因の一つであるとはっきり述べたこと。問題となる騒音源として飛行機、鉄道、自動車に加えて、レジャー関連の騒音源を入れたこと。これには、コンサート、ライブハウス、ナイトクラブ、スポーツイベントが含まれています。

世界保健機関ヨーロッパ事務局はまた、騒音評価と健康被害のモニタリングをきちんと行うことを推奨し、基準値以上の騒音を出している騒音源には対策を実施することも含まれています。世界保健機関にはこれを世界に拡大して適用してほしいものです。日本を含むアジア太平洋地域内に位置する私の家の騒音についてもそのようなルールが適用されることを願っています。

参考文献: ●WHO Europe. Noise guideline 2018.

image by: Michaelstockfoto, shutterstock.com

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