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西郷隆盛と並び称される「怖い」男、横井小楠が「夢見た世界」

1869(明治2)年の冬、ある儒学者の乗った駕籠が刺客に襲われ命を落とします。彼が理想とする政治の実現は道半ばにして潰え、その後日本は戦争への道を歩んでいくこととなりました。今回の無料メルマガ『致知出版社の「人間力メルマガ」』では横井小楠を紹介。彼の「国家の壁を乗り越えて世界平和の希求を実践する」思想は我々に何を語りかけているのかについて考察しています。

幕末に国家をデザインした男

2,000社の会社を指導し、多くの経営者から師と仰がれる東洋思想研究家の田口佳史氏。その田口氏がここ最近、深く心酔しているのが、横井小楠だといいます。あの勝海舟が恐れ坂本龍馬が師と仰いだ幕末の思想家・横井小楠。いまから150年も前に、現代日本の進むべき道を示していたことに驚きを覚えるはずです。

横井小楠の人と思想には、田口氏の渾身の思いが込められています。その迸るような思いが綴られた「序章」の一部をお届けします。

命に対する念いと戦争の愚かさ

人間は、いつになったら、殺し合い、戦争を止めるのだろうか。命の掛け替えのなさ、貴重さに、心の底から感じ入り、これだけは絶対守らなければならないと決断するのだろうか。

私は25歳の時、タイ国バンコク市郊外の田圃の中で、突如巨大な水牛二頭に襲われ、身体を引き裂かれて内臓が流れ出し、絶対絶命の危機に襲われた。俗にいう臨死を経験したわけだが、それ以来、命に対する念いは人一倍強い

さらに現在、人生の終盤となって、今度は余命という危機が迫ってきている。だからだろうか、命に対する念いは、ますます強くなった。

そうなればなるほど、戦争というものの愚かさが痛感されてならないのだ。それがどれほどの憤怒、義憤の末のことであろうと、大量の命を奪うことを目的とする戦争だけは絶対に行ってはならない。兵士はもちろんのこと、多くの民衆に多大な犠牲者が出ることを思えば、一刻も早くこの地球上からなくさなければならない。

戦争をするくらいなら、命懸けで話し合ったらよいではないか。命懸けで回避をしたらよいではないかと思うばかりだ。取りわけ核兵器の悲惨さについては、人類初めての無差別殺戮による、原爆の被害国でもある日本の国民としては、決して忘れられないものである。

今年も被爆犠牲者の慰霊の日がやってくる。毎年われわれは誓うのだ。

絶対にこの過ちを繰り返さない

しかし、核兵器保有国は少しも、減る様子はない。かえって世界的な自国有利の状況をつくり出す、有効な手段にさえなってしまっているではないか。最早言葉でいくら誓おうと、お題目を並べるに等しい虚しさを感じるのである。

勝海舟が恐れた二人の人物

そんな時、私は「横井小楠」と出会った。いや、歴史上の人物としての横井とは、大分以前から出会ってはいた。

幼少期に見せられた自家の家系図の中に「勝義邦」通称麟太郎、号海舟という名前があることを見て、ひどく感激したものである。その影響から、勝の自伝の氷川清話』は中学生の頃から読んでいた。その中に次のよく知られている文章がある。

おれは、今までに天下で恐ろしいものを二人見た。それは、横井小楠と西郷南洲とだ。横井は、西洋の事も別に沢山は知らず、おれが教へてやつたくらゐだが、その思想の高調子な事は、おれなどは、とても梯子を掛けても、及ばぬと思つた事がしばしばあつたヨ。

この「恐ろしいもの」という表現は、少年の“怖いもの見たさ”の好奇心をすぐるのに充分であった。そこで私にとって横井小楠と西郷南洲は忘れてはならぬ人物となった。したがってその人物像については、かなり以前から知ってはいた。

しかし、「恐ろしい」と海舟ほどの人物に言わしめたその横井の思想の真髄に、真正面から対峙したのは、ここ10年の事である。

知れば知るほど興味深さが増す人物なのである。更に、伝記・評伝、研究書など良書が意外なほど多くあり、最近になればなるほど素晴らしい著作が続々と世に出てくる。

その紹介された横井の思想の中には、冒頭に述べた人類社会の悲願であり、しかし達成されぬまま持ち続けるしかないと思われていた「戦争を起こさぬためにあるいは世界を平和にするという大命題に対する有効な解決の道筋さえもがあるのだ。

「国家主義」と「平和主義」という矛盾を乗り越えての理想社会の構築への具体的な方法論それを揺るぎないものにする為の理念」とが、鮮やかに示されているのである。しかもそれは、私が約50年読み続けてきた『四書五経』の一つ『書経(尚書)』の深読みなど、儒家思想によって為されているという驚きがあった。

それは、私のこれまでの「漢籍解釈の知見を一変させるほどの衝撃的な体験であった。

image by: See page for author [Public domain], via Wikimedia Commons

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【著者】 致知出版社 【発行周期】 日刊

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