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嵐で飛んだマンション駐輪場の屋根が車を直撃。誰が弁償するのか

大型台風など自然災害の増加で、飛来物によるマンション損壊や車の水濡れなど損害保険金請求額は増加していますが、実際に支払われるケースは加入保険ごとに複雑化しているため、被害者と管理組合で揉めるケースもでているようです。今回の無料メルマガ『まんしょんオタクのマンションこぼれ話』では著者でマンション管理士の廣田信子さんが、マンション自然災害被害の実例や管理組合の対処方法を詳しく解説しています。

超大型台風の被害想定と保険の確認・見直しを

こんにちは!廣田信子です。

先月、日本損害保険協会が、今年のおもな風水害の保険金支払額を発表しました。合計9,381億円と過去最高になりました。

一番、被害が大きかったのは、9月4日に、大坂、近畿を直撃した台風21号。最高瞬間風速58メートルという、過去に例を見ない記録的暴風雨をもたらした台風です。甚大な被害が発生し、損保各社の支払額は5,851億円と過去最高の支払額になっています。これに、全国に被害をもたらした台風24号が1,873億円、7月の東日本豪雨が1,657億円と続いています。

大災害が立て続けに起きたことで、損保会社の中間決算にも大きな影響が出ています。ただ、損保各社は、大規模な自然災害に備え再保険に入っているので、一部は、今後、そこから支払われ、また、支払額が一定規模以上になると積み立てている「異常危険準備金の取り崩しができるので、決算への影響は限定的になると思われます。

ただし、これだけ大きな災害が続くと、「異常危険準備金」は当然減少してしまいます。積立金への追加が必要になることが想定されます。再保険の保険料の上がりも考えられます。ということは、それがそのまま保険料に跳ね返ってくる可能性が高いということです。

火災保険の保険料を審議する第三者機関である「損害保険料率算出機構」が、今年6月に、保険料の参考となる「参考純率」を平均5.5%引き上げています。これを受けて、各損保会社は、来年秋ごろに保険料を引き上げる準備に入っているといいます。

6月と言えば、今年の大きな災害被害が発生する前です。その後の大災害の発生は、5.5%に考慮されていないということです。ますます今後、損害保険料が上がることを管理組合も覚悟しておかなければなりません。同時に、今加入している保険がどのような被害に対応しているのか対応していないのか再確認する必要があるでしょう。

今回の台風被害では、免責の問題雨水の侵入の損害植栽の被害飛来物による車や建物の破損等の扱いが、問題となりました。保険に入っているから安心…とは、必ずしもならないのです。

豪雨、台風によるマンションの共用部分や共用施設の破損等は、基本的には、マンション総合保険火災保険の対象となります。ただし、免責額が指定されている場合は、その免責額を差し引いて保険金が支払われます。

一事故当たり免責10万円となっていたら、修理費が10万円以下だったら、保険金は支払われず、10万円を越えたら、修理費の総額から10万円を差し引いた額が支払われます。台風被害の場合、一度に数か所の破損があっても1台風1事故として扱われます。ただし、被害額が免責額を超えた場合は、全額支払われるという契約の形もあるので、契約内容をよく確認する必要があります。

また、雨水の侵入によって水濡れが発生した場合、防水層やシーリングの劣化、クラックの存在等、がもともとあったと考えられ、水濡れ損害は保険の対象にはならないといいます。

台風被害で多かったのは、植栽の被害です。強風で植栽が倒れてしまった、折れてしまった等の被害も基本的には、マンション総合保険の対象ですが、どこまでが被害と認定されるかは、保険の内容、保険会社によっても対応が違ったようです。強風が直撃した場合、植栽の被害額は結構大きくなりますので、保険の内容を一度確認しておく必要があると思います。

一方、強風で建物や付属施設の一部が壊れたり飛ばされたりして、駐車場の車に当たって車が傷つく…というような事故も、今年の台風では、数多く発生しました。車の所有者としては、車を傷つけたのは建物や付属施設の一部なんだから、その管理者である管理組合に、損害を賠償して…と、いいたくなるのも分かりますが、台風等自然災害による事故については、管理者に法律上の賠償責任は発生しません

例外として、被害が予見できるにも係わらず、管理組合が予防措置をしていなかった場合は、対象となる可能性もありますが、それを客観的資料で証明するのはなかなか難しいと思われます。

管理組合に賠償責任が発生しないということは、「施設賠償責任保険」の対象にならないということで、車の所有者が自分で修理するしかありません。所有者が、自動車保険に車両保険を付けていたら、その保険から支払われますが、車両保険を付けていない場合は、自己負担で修理することになります。この場合、車の所有者との間でもめることが少なくありません。

同じようなケースとして、地下駐車場機械式駐車場の地下ピットの車が、台風や豪雨によって水没してしまった…というような場合があります。この場合も、個人の車両保険でしか保険対応できません

また、被害の前提が少し違いますが、地震によって電気温水器専有部分が転倒して下の階に漏水が発生したような場合、電気温水器の転倒は、自然災害によるもので、その住戸の管理者に法的賠償責任はないということで、「個人賠償責任保険」の対象になりません。上階からの漏水があった場合に備えた保険であるはずが、自然災害の時は対象にならないのです。

改めて、こう書いてみると、マンションで発生が予想される事故もいろいろあり、マンション総合保険に施設賠償責任保険、個人賠償責任保険を付けていても、補填されないものもあります。保険料の値上げも検討されていますから、保険契約の内容をよく見直し、個人で備えてもらわなければならないものについては、居住者にしっかり広報する必要があると思いました。

また、次の更新までに、保険の内容と建物付属施設植栽等の見直しを並行して進める必要があるかもしれません。駐輪場の補強工事や倒れにくい樹木への変更を検討し始めた管理組合もあります。

今年、豪雨、台風被害がなかったマンションでは、実感がないかもしれませんが、これから、地球環境の変化で超大型台風の襲来が恒常化するともいわれます。ぜひ、早めに、保険内容の確認見直しから始めてください。

image by: Shutterstock.com

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【著者】 廣田信子 【発行周期】 ほぼ 平日刊

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