MAG2 NEWS MENU

できるだけ報じたくない。読売の本音が透けて見えた沖縄県民投票

2月24日に行われた、普天間飛行場の辺野古移設の是非を問う沖縄県民投票。投票率は5割を超え、実に7割以上の全県有権者がNOを突きつけた結果となりましたが、その民意は反映されるのでしょうか。これまでもたびたび県民投票について取り上げてきたジャーナリストの内田誠さんが、自身のメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』で新聞各紙の伝え方を紹介するとともに、新基地問題の今後を考察しています。

沖縄県民投票を新聞各紙はどう伝えたか

ラインナップ

◆1面トップの見出しから……。

《朝日》…「辺野古『反対』72%」
《読売》…「適量ですか 高齢者の薬」
《毎日》…「辺野古反対7割超」
《東京》…「辺野古反対 7割超」

◆解説面の見出しから……。

《朝日》…「辺野古移設 明確な『NO』」
《読売》…「投票率52% 広がり欠く」
《毎日》…「沖縄 民意の盾」
《東京》…「単一争点 政府に圧力」

ハドル

当然ですが、「辺野古」が圧倒的です。《読売はかなり異彩を放っていますが、解説面では大きく取り上げていますので、これをテーマにしましょう。


基本的な報道内容

普天間飛行場の移設に名を借りた名護市辺野古での米海兵隊新基地建設を廻り、埋め立ての賛否を問う沖縄県民投票が行われ、「反対72.15%、「賛成19.10%、「どちらでもない8.75%という結果だった。投票率は52.48%と低かったが半数を超え、「反対」は宜野湾市を含む全41市町村で最多、合計43万4,273票となり、投票資格者総数の4分の1に当たる28万8,398票を大きく上回り、玉城デニー氏が昨年9月の県知事選で得た過去最多の39万6,635票をも越え、辺野古の海埋め立てに対する県民の強い反対の意志が示された。玉城知事には、安倍晋三首相とトランプ米大統領に対して結果を通知する義務が生じることになった。知事は政権に工事中止を迫るとしているが、政権はこれまでのところ無視を決め込んでいる

政権に必要なのは「謙虚に省みる」こと?

【朝日】は1面トップに2面の解説記事「時時刻刻」、4面に出口調査を分析した独自記事、10面社説、28面写真特集、31面社会面まで。見出しから。

1面

2面

4面

10面

31面

uttiiの眼

1面トップの最後に付けられた編集委員佐藤武嗣記者による「視点」は、「普天間返還の対米交渉に心血を注ぎ、沖縄とひざ詰めで向き合った」橋本龍太郎首相(当時)と安倍政権とを比較。現政権が「県民投票に先駆けて辺野古の土砂投入を強行。既成事実化を図り、県民投票前から、結果によらず埋め立て続行の考えを示してきたと批判。また、県民投票では「自主投票によって組織的運動をしなかった」ことを非難し、「計画見直しもせず、かといって県民を説得しようとの意思も欠いたまま、ただ惰性に任せているだけ」と難じている。

そして、安全保障の問題だからと言って地元を無視して良いわけではないこと、鳩山政権の失敗でいかに政治的リスクが高いかが明らかになり、安倍氏にトランプ氏と交渉しきる力はないことなど、重要な論点を重ねている。しかし、結論は「せめて自治体と向き合い、自らを『謙虚に省みる』姿勢が政権には必要だ」と弱々しい。こんなことを言うだけでは、それまでの立論が台無しになってしまうように感じる。本当に自らを謙虚に省みて、民意に従うのであれば、これは埋め立て計画のとりあえずの中止しかないではないか。

《朝日》はこの県民投票でも出口調査を試みている。4面記事は、投票した人の79%が安倍内閣の沖縄の基地問題に対する姿勢を「評価しない」と答え、さらにその85%が埋め立てに「反対」票を投じていたとしている。また、全市町村で反対が上回っただけでなく、すべての年代でやはり「反対」が多数となり、30代以下でも6割、年代が上がるほど「反対」への投票率が上がる結果となっている。さらに、自民支持層の45%公明支持層の55%無党派層では実に79%が反対」している。

この県民投票で示された民意の意味するところは明らかだろう。「どちらでもない」が選択肢に加えられても、「反対」が多数となることは確実視されていた。しかし、「反対」に投票した人は有資格者数の4分の1を大きく越え、玉城デニー知事の得票数をも大きく上回った。自公のだんまり作戦にもかかわらず、投票率は50%を越え、「反対」は全市町村で、全年代で賛成を上回る結果となった。勿論、政府に対する法的な拘束力はないが、そうであるがゆえに、安倍政権は自分の意思で何かをしなければならなくなったとも言える。軟弱地盤の問題などでいずれは裁判所の判断が必要になる局面も出てくるかもしれないが、そのとき、裁判官の心証にこの県民投票の結果が影響するかもしれない。その他、様々な場面で、この圧倒的な結果が効いてくる可能性があるだろう。

盛り上がりに欠けた県民投票?

【読売】は1面トップを外し、中央にベタ記事並みの小さな本記。関連で2面と3面。見出しから。

1面

2面

3面

uttiiの眼

またまた《読売には恐れ入った。1面トップには《読売》得意の医療ものコラムの第1回を持ってきている(「安心の設計」)。

続いて違和感をもったのは、《朝日が72.15%としている反対の投票率を、《読売が71・73%としていること。これは、《読売》が母数に「無効・その他」の3,506票を含めているから。《朝日》は含めずに、3つの選択肢に投票した人の総計を100%として計算している。《朝日》にせよ《読売》にせよ、このようなケースでの無効票の扱いは一貫しているのか否か、分からない。少なくとも、両社の数字は違っていて、《朝日》が72%、《読売が1ポイント低い71%としている事実を確認しておく。

今朝の《読売》はこの問題での関連記事も薄く、「できるだけ報じたくないという本音が透けて見えるようだ。しかも、報じた中身は県民投票の意義を少しでも小さく見せようという努力の結晶”とでもいうべきもので、そのエッセンスが昨日までに行われた全国世論調査の結果として2面記事に書き込まれている。もし、沖縄県民投票が先に行われていれば、おそらく全国世論調査に影響を与えただろう。投票結果が出る前に調査を終えることを、《読売が意図したのではないかと想像するが、勿論、証拠はない。

「証拠」ではないが、見出しに現れた世論調査の「結果」なるものには、例えば「沖縄米基地『役立つ』59%」にせよ、「辺野古 賛成36%・反対47%」、そして内閣支持横ばい49%にせよ、沖縄県民を日本全体の世論とかけ離れた、「特殊に追いやるような内容になっている。こうした調査を見て、自分たちは愚弄されたと感じる県民もいることだろう。沖縄への米軍基地押しつけ沖縄差別を世論調査で表現したらこうなるという見本のようなものだからだ。

3面の解説記事「スキャナー」は、投票率が全県選挙としては最低だった2014年衆院選並みであったこと、総数に占める反対票の割合が37.65%だったことを指摘。盛り上がりに欠け説得力のない結果と腐している。そもそも、「人を選ぶ」公職選挙法上の選挙と、今回のように「意見を表明する」投票を、投票率で比較するのは間違っている。県民の有資格者は、一人一人、政府の政策に対する賛否を問われたわけで、これは、立候補した人の中から誰かを選ぶよりもしんどい作業。しかも、狭いエリアの住民投票ではなく、都市化された部分を含む人口140万人の島での県民投票。高い投票率を実現するのは大変なことだ。半数を超えたのは努力の賜だろう。

さらに、県民投票を前に土砂投入を強行し、あるいは《読売》自身も指摘しているように、運動を行わず、盛り上がらせない方向に努力した自公両党の努力の結果、投票率が下がったとも言えるわけで、それにも関わらず、総数の3人に1人が投票所に足を運んだ事実の重さというものも噛みしめる必要があるだろう。いずれにせよ、この先は、軟弱地盤を巡る闘争が繰り広げられることになる。《読売》の記者は設計変更を巡る裁判なども想定して、「日米両政府が早ければ2022年度の実現を目指している辺野古への移設と普天間飛行場の返還は、数年単位で遅れる可能性が高い」と、まるで沖縄県のせいで普天間返還が遅れると言いたいかのようだ。

「土地を返す代わりに海を差し出せ」

【毎日】は1面トップに関連記事は2面と3面の解説記事「クローズアップ」、社会面26面と27面にも。見出しから。

1面

2面

3面

26面

uttiiの眼

《毎日》は、開票率99.87%段階での記事になっている。従って、間違いのないところで辺野古反対7割超という表現になる。不思議なことに、72.15%とか71.73%などと言われるよりも、意味がハッキリしているように感じられる。3人中2人で67%くらいだから、7割超ということはそれ以上という感じ。圧勝の印象

2面。那覇支局長の遠藤孝康記者による解説は、沖縄・基地問題のそもそもから説き起こしていて重要かつ有益。県民投票において、「沖縄の人は考え抜いた末に『埋め立て反対』の結論を出した」と評する記者は、問題の原点を74年前の沖縄戦に求めている。「沖縄は本土防衛の『捨て石』とされ、地上戦で県民の4人に1人が命を落とした。占領した米軍は人々の土地を力で奪い、基地を造った。米軍普天間飛行場もその一つだ。そして、国土面積0.6%の島に全国の米軍専用施設の役70%が集中する現実」のなか、その沖縄に対して「土地を返すから代わりに海を差し出せ」と求めているのだと巧みに表現。こう書かれれば、理不尽さが際立つ。

さらに記者は、軟弱地盤の問題を指摘し、「政府は投票結果を真摯にとらえ、工事を止めて計画を見直すべきだ」と明言している。

3面記事中、重要な指摘が一つ。この先、県は新たな訴訟を提起する構えだが、ある防衛省幹部は「県民投票の結果が司法判断に影響するのではと不安視しているという。上記、《朝日》のところでも書いたように、やはり、県民世論の「反対」の声の大きさは、様々なプロセスに影響を与える可能性があるし、逆に言えば、影響するのが自然なことだろう。

辺野古の新基地建設断念を

【東京】は1面トップに2面の解説記事「核心」、3面関連記事、5面社説、20面21面は見開きで「こちら特報部」、23面社会面にも記事。見出しから。

1面

2面

uttiiの眼

1面記事の末尾に付けられた解説(関口克己記者)は、「これまで、安倍政権は新基地建設の是非が問われた知事選などの結果を民意の表れと受け止めることを避け、計画を進めてきた。だが今回の県民投票は直接民主主義の手法に基づき、単一争点で行われた。それでも民意を拒否していいのか。もはや政府には、新基地建設断念を検討していくほかに選択肢はないはずだ」と、ほぼ最上級の表現で辺野古の新基地建設断念を求めている

この地合は3面の解説記事「核心」にも引き継がれる。今後、玉城デニー知事が拠り所とするのは、「多様な争点があった過去の大型選挙と異なり、一つの争点に絞った県民投票で民意がはっきり示された点」であり、「建設推進の立場を変えない政府に対し、法廷闘争や、工事の設計変更への承認で徹底抗戦し、建設中止に追い込む戦略を描く」(リードより)とする。

思うに、政府が進める大規模な工事に対して、地元の住民からかくも巨大な「ノー」を突きつけられたことがあっただろうか。政府の施策が強く拒否されたことで、安倍政権はそのまま瓦解してもおかしくはない。住民の基本的な支持がない外国軍隊の基地を、既に基地が集中する沖縄で、美しい海を汚して造る安倍政権。政府にせよ、裁判所にせよ、今度こそ「本土」の側がキチンと事態を受け止めなければ、これから先に吹き出してくる「琉球独立論今までとは全く違う次元の強烈な勢いを持ったものになるかもしれない。

内田誠この著者の記事一覧

ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

有料メルマガ好評配信中

  メルマガを購読してみる  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 uttiiの電子版ウォッチ DELUXE 』

【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け