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【書評】この国の若者は幸せなのか。日本を滅ぼす「2050年問題」

何かと共通点が多いと言われる日本とドイツですが、将来に関して危うい設計しか見えていないところまで似ているようです。そんなドイツ在住の著者が日本の現状とこれからを的確な筆致で綴る一冊を、無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』の編集長・柴田忠男さんがレビューしています。

偏屈BOOK案内:『老後の誤算 日本とドイツ』

老後の誤算 日本とドイツ
川口マーン惠美 著/草思社

ドイツ生活今年36年の著者が語る「ドイツと日本老後はどっちが快適か?」というテーマの日独比較論だろうと思ったが、「日本の高齢化と少子化は究極の相乗効果を発揮しつつ、どんどん国富を蝕んでいる。一番その割を食うのが若年層である。それは正視するのが恐ろしい」と、次世代の負担を強いる日本の状態を憂える内容に重点を移していく。半分ドイツ人(?)の指摘は鋭い。

現役世代何人で高齢者一人を支えるか」という数値がある。15~64歳を現役世代として、その人数を65歳以上の高齢者の人数で割ったものだ。2015年では現役2.3人で一人の老人を支えてきた。それが2030年に1.9人2050年は1.4人になると考えられる。ドイツのその数値は、3.1、2.2、1.8である。ともに将来設計が危うい。「日独、どっちが快適か?」なんて言ってる場合ではない。

では、どうしたらいいのか。もしかしたら、日独比較は役に立つかもしれない。両国の試行錯誤の経過を観察すれば、それぞれの長所も見えてくるし、特有の問題も浮上するだろう。ということで、ドイツと日本の老後の実際をいろいろ比べているが、ずいぶん違いがあり、優劣をつけることはあまり意味がない。

日本の「2025年問題」はすぐそこに迫っている。2025年には団塊の世代が後期高齢者になる。医療費が爆発的に増える。健保連の推計では2025年の日本の医療費は57.8兆円と、2015年から4割近く増加する。その増加分の殆どは後期高齢者の医療費で、高齢者の医療費に限ってみれば、7割近くの増加となる。

当然、医療保険料を値上げしなければやっていけないが、その一方でそれを払い込む現役世代の人口は減少するのだ。日本の医療保険が持続可能な形になっているかは、大いに疑問である。日本の医療関係者は少ない上に負担が大き過ぎる。こんな先進国は日本以外にない。日本のシステムは持続可能かというと、2025年問題の解決策を真剣に考えない限り、おそらく難しいと断言できる。

これ以上、医療関係者にしわ寄せを押し付けることはできない。医療保険の構造改革も必要だが、人々が(とくに高齢者が)考え方を変えることが何より重要なことである。若い人たちの、自らの責任ではない負担が、刻一刻と増え続けている様子を見ながら、高齢者たちだけが逃げ切ればいいわけがない

年金制度の改革を行おうとしたとき、「長年、働いてきた人を斬り捨てるのか」と煽って批判する人たちがいる。制度の改革は、変化した状況に適応させるために行うもので、敬老の精神とは切り離して考えるべきだ。いずれにせよ、日本では、年金にしろ、医療費にしろ、支援が高齢者のところに集中している。

それに比べて、これから働き、子供を作り、しかも、高齢者を支えていかなければならない若い世代が、貧しい。支援すべきはまずは若者だ。医療保険がこげついている今、医療は治療の効果の出る人を優先すべきだし、また、高齢者は実費の何割といわず、支払い能力に応じて、若い人の分まで負担すべきだ。

そして、同時に、高齢者の不要な医者通いも厳重に制限する。そのためには、無駄な診療や投薬では、医者に儲けが出ないシステムを作ることが必須だろう。「意識もなく寝たきりの人々のおかげで、日本の平均寿命が世界一に押し上げられているのなら、1位は返上しても差し支えないのではないかと私は思っている」。読者である私もそう思っている。ピンピンコロリといきたい。

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock.com

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