3月19日、JOCの竹田恒和会長が6月の任期満了をもって身を引く意向を表明しました。本人は「後進に道を譲るため」としていますが、東京五輪の招致を巡る汚職疑惑が大きな理由となっていることは否めません。この騒動を新聞各紙はどう伝えたのでしょうか。ャーナリストの内田誠さんが、自身のメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』で詳細に分析しています。
JOC竹田会長の「6月退任」を新聞各紙はどう伝えたか
ラインナップ
◆1面トップの見出しから……。
《朝日》…「JOC竹田会長 6月退任」
《読売》…「竹田JOC会長 退任表明」
《毎日》…「「透析再開」要請聞かず」
《東京》…「竹田会長 6月退任」
◆解説面の見出しから……。
《朝日》…「竹田会長 耐えきれず」
《読売》…「親の体罰禁止 法律で」
《毎日》…「外圧 竹田氏に引導」
《東京》…「イメージ悪化 耐えきれず」
ハドル
各紙の全体像を示しながら、共通テーマを「竹田退任」としてやってみることにします。
IOCの水面下の圧力
【朝日】は1面トップから2面の「時時刻刻」、14面社説、23面スポーツ欄、38面社会面まで、「竹田退任」一色の紙面。23面には一問一答も掲載。
1面には「はやぶさ2」の成果、患者殺害事件の再審決定、地方圏の住宅地地価上昇の重要ニュース。3面はいよいよ始まる統一地方選第一弾中心の紙面になっている。
uttiiの眼
「竹田退任」については、2面の「時時刻刻」が大きな紙幅を割いている。見出しを列挙してみる。
- 竹田会長 耐えきれず
- 圧力・批判 国内外で噴出
- IOC イメージ悪化懸念
- 疑惑解明 終わりにするな(視点)
記事は、昨日の理事会の後、記者会見した竹田氏が、退任の理由を飽くまで「世代交代」と言い張ったことに対し、「実際は違う」と断言。本人の意向を含め、会長続投が基本路線だったのが、風向きが変わったのだという。
記事はここから「竹田批判」の具体的な中身を列挙し始める。
1月の会見で質問を受け付けず世論の反感を買ったこと。定年制に例外を設けようとしてスポーツ庁の動きに反するとされたこと。20年大会組織委員会内部からも批判が出ていたこと。仏司法当局による身柄拘束を恐れて海外渡航ができなくなり職務に支障が出たこと。そしてJOC常務理事会では、本人を前にして「続投への異議」が唱えられるに及んだこと。
海外からの目も厳しくなっていたようだ。7月に予定されている開幕1年前のイベントへの出席を求められたIOCバッハ会長は、竹田氏の疑惑を理由に断ってきたという。これは重要な“サイン”だったのだろう。
IOCは捜査に協力する中、具体的な情報を得ている可能性があり、疑惑報道が続くことによるイメージダウンを恐れて、竹田退任を裏で画策してきたと《朝日》は言っている(具体的には何も書かれていないが…)。
記者による「視点」は、招致活動の大詰めで電通が推薦したコンサル会社に支出された2億3,000万円の意味は、皆分かっていたはずだとして、竹田氏以外にも、招致委に出向していた文科省や外務省の官僚、都庁の役人を含むオールジャパンで承認した契約だった点を強調。だからこそ、竹田氏退任で幕引きにするなと言っている。
23面記事は、招致に成功した後のJOC弱体化について重要な議論をしている。100億円に拡大した国のスポーツ振興資金についてはその一部しか任せられず、競技団体の不祥事のときも、対応を主導できなかったなど。
予審となれば8割は裁判に
【読売】は1面トップが「竹田退任」の本記。2面の関連記事は、競技団体理事の任期に関するスポーツ庁の方針というテーマ。17面はスポーツ面での取り上げ、39面社会面までと、やはり「竹田退任」漬けではあるものの、《朝日》ほどには熱心でないようにも見える。3面解説記事「スキャナー」は、親の体罰禁止問題にシフトしていて、「竹田退任」問題の解説的な中身は社会面まで辿っていかなければ行き着かない。
1面には他に再審決定や地方の地価上昇などの重要ニュース。2面もむしろ外国人労働者の問題などがメイン。
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「竹田退任」に関しては、1面記事に「竹田氏の続投に理解を示していたIOCも、退任を求める方向に傾いた模様だ」となっていて、この点、《朝日》と似通った理解。末尾に桜田五輪相のコメントまで紹介しているのは、無用な形式主義だろう。「体制を整えてしっかりと準備を進めてほしい」と語ったとされるが、無意味だろう。
39面は、竹田氏の会見の模様に加え、仏司法当局が進めている予審手続きについて説明が為されている。複雑な事件の場合、実際の裁判に掛けるかどうかを予審判事の捜査によって決める手続きで、捜査には平均で2年半程度掛かり、8割ほどが裁判になるという。
基本的にはこれまで各紙が書いてきた内容と同一だが、重要な指摘が一つ。フランスで閣僚が捜査の対象となったような場合、予審手続きの開始は重みのある司法判断と受け止められ、自身で進退を決める基準と見做されることがあるという。要するに、予審がスタートすれば要職を辞するということ。竹田氏に掛かった嫌疑は、それほど重いものということだ。
ただ、フランス刑法では民間人のカネのやり取りが贈収賄に問われる可能性があるが、日本の場合はないこと。従って、仏当局が仮に竹田氏の身柄を要求しても、日本側が応じるかどうかは不透明だ、として、記事を閉じている。
外圧に押し切られた
【毎日】は1面中央付近に「竹田退任」の本記。そこから3面の解説記事「クローズアップ」と社会面に流す形。1面記事がトップであればオーソドックスなスタイルだが、そこには公立福生病院関連のスクープ(都の立ち入り検査報告内容)が収まっている。
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「竹田退任」に関しては、繰り返しになるが、1面中央から3面、社会面での扱い。主な内容は3面「クローズアップ」にまとめられている。
リードに示される《毎日》の認識は、「竹田会長退任」を、飽くまで「東京五輪・パラリンピック招致を巡る疑惑」の進展として位置づけられていること。この点では「幕引き」を戒めていた《朝日》とも共通する。さらに、《毎日》の特徴は、竹田氏退任の要因を「外圧」と単純化して捉えていて、「竹田氏は一貫して潔白を主張するが、外圧に押し切られた格好だ」と言っている。ここは「内外の要因」を細かく列挙していた《朝日》と大きく違うところ。
では「外圧」とは何か。
竹田氏が退任を切り出す数時間前、政府関係者は「退任のボタンを押したのはIOC。表には決して出てこないけどね。間違いない」と語ったという。そのような発言をする政府関係者は一人ではないとも。
IOCのバッハ会長は、竹田氏をIOC委員として重用し、「推定無罪」と高を括っていたというが、捜査の進展で温情が消え、水面下で「ノー」を突きつけ始めていたとする。「若者のスポーツ離れやドーピングなどの不正で『五輪ブランド』は傷ついている」として、招致を巡る不正はリオ大会でも起きたばかりだったので、これ以上のリスクを嫌ったのだと。
「クローズアップ」の後半は、疑惑の火種について。仏当局の捜査が続く以上、招致委がカネで投票を買った疑惑はついて回る。JOCは16年9月に調査チームの報告書で「違法性なし」としたが、この調査チームには「独立性・中立性に問題がある」(第三者委員会報告格付け委員会による指摘)と言われるような代物。竹田氏が会長を辞めれば終わり、というわけにはいかないとする。
竹田氏以外にも捜査の手が及ぶ?
【東京】は1面トップが「竹田退任」の本記で、記者による「解説」が付いている。関連は2面の解説記事「核心」と5面社説、12面、社会面31面に及び、フルスペックと言って良い大きな扱い。
1面には再審開始の記事もあるが、記者会見した元看護助手の西山美香さんの笑顔の写真が掲載されている。2面は「竹田退任」の解説と並んで、玉城デニー沖縄県知事が首相と会談した記事が写真付きで載せられている。
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「竹田退任」の記事の構成については上述した。解説的な内容で重要なのは2面の「核心」。
竹田氏が退任するのは、「イメージダウンを懸念する大会組織委員会などの圧力に屈した形だが、フランス当局の捜査は進行中。竹田氏に留まらず、多方面に捜査が及ぶ可能性も否定できない」とする。《朝日》とも《読売》とも《毎日》とも違う要因分析になっている。
記事が最初に強調するのは、「突如として先週、『退任は不可避』と各メディアが報道」、竹田氏を支持していたIOCも「退任を求めている」とされた、という。それまでは「推定無罪」などとして、続投が基本路線だったと。JOCの幹部は「竹田さんと対立する組織委や政治家の一部がうその情報を流し、規定事実化させたのではないか」と陰謀説を語っているようだ。「うそ」とは、「6月に捜査が動く」という出所不明の噂のことを指しているもよう。
ただ、海外では実際に動きがあることも確かなようで、JOCから2億3,000万円のコンサル料を受け取ったシンガポールの会社代表、イアン・タン氏が、「IOC委員の親族が所有する企業との不正取引をめぐり、捜査当局に虚偽説明をしたとして、シンガポール地裁から禁固1週間の有罪判決を受けた」らしい。この「IOC委員の親族」というのが、東京五輪招致疑惑でも収賄側と見られているパパマッサタ・ディアク氏。「両氏の不適切な関係が明らかになった格好」とする。
思うに、この情報は当然、仏当局も把握しているだろうから、東京五輪招致疑惑との接点が出てくる可能性は実際にあるだろう。
もう1点。招致委の当時の幹部は「海外のことは分からない」と知らん顔を決め込み、全責任を竹田氏に押しつけるような雰囲気だというが、フランス法の専門家によれば、捜査は「長期にわたり金銭の流れが調べ上げられている。竹田氏が公判請求される可能性は高いのではないか」としたうえで、「他の招致委のメンバーも関わったとみなされれば、共同正犯として捜査の対象になることもありうる」(南山大学の末道康之教授)と。招致委の元幹部らがこれを聞いたら、背筋が寒くなるような話ではないか。
image by: チームがんばれ!ニッポン!(Japan Olympic Team) - Home | Facebook