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中国の最大かつ真の弱み「他力本願」を狙い撃つ、米国の兵糧攻め

未だ収束する様子のない「米中貿易戦争」は、今や経済の枠組みを超えて、「次世代の覇権争い」の様相を呈してきています。一部では「経済破たんも時間の問題」と言われている中国ですが、日本は今後何を注視していけば良いのでしょうか。メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』の著者で台湾出身の評論家・黄文雄さんは、米中貿易戦争の「裏側」を読み解き、さらに対中国の戦略として、米国にならって日本も「台湾を重視すべきだ」と力説しています。

※ 本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2019年3月20日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:黄文雄(こう・ぶんゆう)
1938年、台湾生まれ。1964年来日。早稲田大学商学部卒業、明治大学大学院修士課程修了。『中国の没落』(台湾・前衛出版社)が大反響を呼び、評論家活動へ。著書に17万部のベストセラーとなった『日本人はなぜ中国人、韓国人とこれほどまで違うのか』(徳間書店)など多数。

米中貿易戦争以後の日本・中国・台湾の未来

目下進行中の米中貿易戦争については、さまざまな説や予測があります。たとえばこれは百年戦争という長期戦だとする見方もあれば、短期決戦だという予測もあります。未完だった東西冷戦の延長・再来だとしてイデオロギーを主題とする見方もあれば、文明の衝突だという分析もあります。

トランプ大統領のような非典型的な奇人変人による恣意的で突発的な、一過性の対立だという見方もあれば、ペンス副大統領が述べたように、アメリカ国民の我慢の限界であり、超党派で中国に対峙しているために一過性ではないという分析もあります。

私の考えでは、米中貿易戦争は単なる貿易や経済の問題やグローバリズムの衰退、アメリカの保護主義や独善への回帰ではありません。もちろん「中国こそ自由貿易の守り神だ」とする習近平体制下の中国の挙動など、信用できるはずもありません

19世紀中葉の「アヘン戦争」という名称はコミンテルン史観からくるもので、清の開港をめぐるイギリスと清との戦争についてイギリスではTrade War」と教えています。一般的にアヘン戦争は、清がイギリス商人のアヘンを没収・焼却したことがきっかけとされていますが、戦争前にそのごたごたは一件落着していたのです。

むしろ、その後に起こったのは「貿易戦争」であり、当時、中国側の公行が貿易を独占していたため、イギリスはこれを打破して中国市場を開放させようとしたのです。いわば、自由貿易と保護貿易をめぐる戦争だったのです。

現在のトランプ大統領は「保護主義」だといわれますが、しかし、中国は国営企業に多額の補助金を出し、安く製品を作らせ、それを海外で売りさばくことで外国の市場を荒らしてきました。また、外国企業を買収し、その技術を強制的に自国に移転してきました。

巨大な国の金と力を背景とした国営企業に、自由主義経済の企業がかなうはずがありません。中国でもかつては国営企業は「ゾンビ企業」と呼ばれ、改革の必要性が叫ばれていましたが、習近平政権では国営企業同士を合体させてさらに巨大化させ、世界市場を操ろうとしてきたわけです。

かつての米ソ中心の東西冷戦は、イデオロギーの違いによる、キリスト教文明内部の宗教戦争という側面もありました。東方正教であるソ連・東欧の社会主義体制の崩壊によって、冷戦が終結したという見方もあります。

しかし、米中貿易・経済戦争は、「人類の普遍的価値」と「中国の核心的利益との文明衝突という性格が強いのです。東西冷戦は、右の全体主義であるファシズムと左の全体主義であるコミュニズムという両極端の対決が主だったのに対して、米中貿易戦争はイデオロギーよりも、文化・文明をめぐる総力戦だと見るべきです。

アメリカが関税引き上げによる「兵糧攻め」という戦略をピンポイントで行っているのは、中華文明の最大にして真の弱みを知っているからです。それは古代から今日に至るまで、「他力本願」ということです。

地上の資源のほとんどが祖先たちに食いつぶされてしまった中国では、改革開放後から世界最大の通商国家となり、ほとんどの資源を海外に依存するようになりました。

改革開放から現在に至るまで、中国の経済規模は200倍、あるいはそれ以上に成長したとも言われます。米中貿易・経済戦争について、最初、中国政府は自信たっぷりで、「最後まで付き合う」「中国は長期戦に強いという伝統がある」「自力更生の時代に戻ればいい」など、強気な発言を繰り返してきました。

ただ、私はたいてい中国政府の発言については、「逆」に考えるべきだと見ています。実際、先の全人代では、アメリカを意識してか、「中国製造2025という名称すら使わなくなりました

「自力更生」から「他力本願」へと転換した中国は、通商国家になるだけでなく、他国からのパクリによって技術力を向上させるようになりました。易姓革命の国の本質としては、敵から略奪し、盗むことが生き残りの条件なのです。ですので、アメリカが「技術を盗むな」と要求することは、中国にとっては「死ね」と言われているに等しいわけです。

私が中国についてもっとも不思議なのは、はたしてこの国は債務国なのか債権国なのか、現在も不明だということです。世界一の外貨準備高を有しているといいますが、実際には外国企業の投資金額も含まれているので、実際にどのくらいの外貨準備高なのか、計算方法によって異なってしまうのです。

中国の政府総債務残高は40兆元(650兆円)とされていますが、地方政府は40兆元以上の簿外債務を抱えているという観測もあり、全体で地方政府の負債総額は1000兆円かそれ以上とも目されており、デフォルトが懸念されています。

中国の青少年たちは生きるために「先行消費」というかたちで多大な銀行債務を抱えています。一人っ子政策で「小皇帝」として甘やかされた彼らは、まったく未来が見えない状態で、大卒の半分近くが就職できずに郊外やビルの地下で共同生活する「ネズミ族」「アリ族」にならざるをえないため、精神異常に陥ったり凶悪犯罪に手を染めることも少なくありません。自分の未来まで食いつぶしているわけです。

戦後の日本の学者や文化人は、中国の「台湾は中国の絶対不可分の一部」という主張に同調する者が多いですが、それは台湾の民主主義への弾圧に日本の文化人が加担しているのも同然です。

日本の文化人が中国の主張に同調するのは、「間違いだらけの歴史」を「正しい歴史認識」とする独善的な主張に洗脳されているからです。自国に自虐史観を植え付けるのみならず、台湾の民主主義も、あるいは民族自決を求めるチベットウィグル人の思いも踏みにじっているわけです。

台湾と日本のあいだには、共通する歴史や文明のしくみなどが少なくありません。たとえば日本列島に人類が住み始めたのは2万5000年ほど前と言われますが、台湾でもほぼ2万5000年前までの人類の骨が出土しています。縄文文明も日本と台湾では共有しているのです。かつては台湾琉球九州までが同一文明圏の時代がありました。

豊臣秀吉が天下統一後、高山国(台湾北部の鶏籠国)に進貢を求める書を送ったことは有名ですが、その他にも、江戸幕府はかつてオランダやスペインと「台湾領有」を争ったこともあり、オランダ人が安平に築城する以前には淡水と安平には日本人町がありました。

台湾のみならず、南洋各地には日本人町があり、江戸鎖国以前日本人の海外渡航者は30万人いたと推定されています。

アメリカの軍艦は、下田に現れる前に台湾南部にも上陸しましたが、牡丹社の先住民に撃退されました。遭難して台湾に漂着した宮古島島民が、支那人に間違われて牡丹社の先住民に殺害された牡丹社事件では、日本政府は維新後初の海外出兵を行いましたが、3000人の兵を率いた西郷従道が出征前に、ハリス領事から征討のアドバイスをされたこともありました。

日本と台湾との関係は、日清戦争後の下関条約で日本への「永久割譲が決定されてからでは決してないのです。国共内戦後に成立した中華人民共和国が台湾を「絶対不可分の一部」だと主張するなら、オランダも日本も同様の歴史的根拠があることになります。

そのことについては、アメリカの対台湾プレゼンスはきわめてはっきりしています。朝鮮戦争当時、アメリカのトルーマン大統領は、「台湾は20隻の不沈空母に匹敵する」と語り、戦略的意義のある地として、第7艦隊を送って台湾を防衛しました。

現在でも日本の船舶が1日に300隻も台湾海域を通過します。台湾こそ日本物流の生命線なのです。沖縄米軍基地に対する反対運動は、こうした日本の生命線を脅かすものであり、その罠に嵌らないように祈っている毎日です。

もちろんアメリカの対台湾政策が変わりつつあることは、はっきりしています。アメリカの国内法として「台湾関係法」を制定していますが、トランプ大統領になってからは、国防権限法で対中強硬策が盛り込まれ、台湾旅行法を制定して米台政府高官の往来を可能にするなど、関係強化路線を走っています。

また、蔡英文政権において台湾と断交してきたドミニカ、エルサルバドル、パナマといったラテンアメリカの国々に対しては、アメリカは大使召還を行い、さらにはアメリカ艦船が半世紀ぶりに台湾周辺海域の巡回強化に動きました。アメリカの駐海外機構としてAIT(台湾事務所)は最大級の規模で、しかも99年もの土地租借になっています。

このように、アメリカの台湾政策は確実に変化してきているのです。ところが、日本では生命線であるはずの台湾情勢について、あるいはアメリカの対台湾政策について、あまり報じられませんし、日本人の関心も薄いのが現状です。

むしろ、沖縄基地問題についてはあたかも日本政府とアメリカが悪者のような報じ方をメディアや知識人が行っていますが、南シナ海、東シナ海をめぐる中国軍の軍事進出や、台湾を含めたアジアの安全保障についてまったく論じられないのはなぜなのでしょうか。

中国や韓国はアジアにおける日本の存在を大きくしないために歴史問題をいつまでも持ち出すのです。それに同調して反日・反米行動を続ければ、アジアでの覇権を狙う中国の思う壺です。それも中国の「正しい歴史認識」に洗脳されているからなのでしょう。

台湾はかつて日本でした。前述したように同一の文明圏だった時代もありました。中国以上に日本と台湾は近いのです。日本には、台湾周辺地域をふくめ、東アジアの安全保障について一定の責任があるはずなのです。そのことに、日本政府も日本人も、もっと目を向けるべきです。

image by: Alexander Khitrov / Shutterstock.com

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