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実は「はやぶさ2」超スゲー。人気ブロガー・きっこが徹底解説

3月20 日に飛び込んできた、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の小惑星探査機「はやぶさ2」が、調査中の小惑星リュウグウの地表一面に水の成分を含む岩石があることを突き止めたという大ニュース。これがどれほどの快挙だったのか、人気有名ブログ「きっこのブログ」の著者にして、メルマガ『きっこのメルマガ』を創刊したばかりの「きっこ」さんが自身のメルマガで、その詳細を紹介しています。

はやぶさ2の持ち帰る玉手箱の中身は?

先週のメルマガを配信した3月20日、めっちゃ嬉しいニュースが飛び込んで来た。JAXA(宇宙航空研究開発機構)の小惑星探査機はやぶさ2調査中の小惑星リュウグウの地表一面に水の成分を含む岩石があることを突き止めたというニュースだ。あたしが何でこんなに喜んだのかと言うと、もともとリュウグウは、水や有機物が豊富にあると推測されるC型の小惑星だったから調査対象になったのに、昨年8月2日のJAXAの記者会見では「地表の90%を観測したが、これまでに水の存在は確認されなかったと報告されていたからだ。

一応、ザックリと説明しておくけど、水分子(H2O)や水酸基(OH)は、波長3μm(マイクロメートル)付近の赤外線を吸収する性質があるので、リュウグウが反射した太陽光のスペクトルデータを計測して、その範囲の波長が抜け落ちていれば、それは安倍官邸の指示で厚労省がデータを改竄したわけじゃなくて、「太陽光の当たった部分の岩などに水の成分が含まれており、それによって一定の波長が吸収された」ということになるわけだ。そして、地球から約3億4000万kmも離れたリュウグウで、こんな凄いことをやってくれたのが、近赤外分光計「NIRS3」なのだ。

さらに言えば、「はやぶさ2」は、約1カ月前の2月22日の「猫の日」に、見事にリュウグウへのタッチダウンを成功させて、すでに高い確率で岩石の回収に成功している。つまり、このまま残りのミッションと帰り道でトラブルが起こらなければ、「はやぶさ2」は来年2020年には「他の天体の水を含む岩石を世界で初めて地球へ持ち帰る可能性が極めて高いのだ。人類にとって、これほど素晴らしいことはない。利権にまみれた薄汚い東京オリンピックなどにまったく興味がないあたしとしては、来年2020年は「はやぶさ2」が地球へ帰還する記念すべき年であり、東京オリンピックよりも大気圏突入で燃え尽きてしまう「はやぶさ2」を観て、あたしは絶対に号泣するだろう

そんなこんなで、どうしてリュウグウの「水を含む岩石」を地球に持ち帰ることが素晴らしいことなのかは後からゆっくり説明するとして、まずは「はやぶさ2」のこれまでの道のりを簡単に説明したいと思う。

小惑星探査機「はやぶさ2」は、小惑星リュウグウの探査を目的として、2014年12月3日に種子島宇宙センターから打ち上げられた。地球から約3億4000万キロも離れた、直径約900mの「リュウグウ」へ到着させるのは、日本からブラジルにある6センチ四方の的を狙うほどの精度が求められると言う。一般的なタバコの箱が約9cm×約6cmなので、タバコの箱より小さな的をブラジルに置き、日本からその的を狙うような話なのだ。

「はやぶさ2」は、地球すれすれのところを周回して、地球の重力を利用して加速する「スイングバイ航法」でリュウグウを目指し、昨年2018年6月27日、ついに到着した。ここまでで凄いことは、種子島宇宙センターから打ち上げられた2014年12月3日も、リュウグウに到着した2018年6月27日も、どちらの日も水曜日だったという点だ。これなら「水を含んだ岩石を回収できそうだし、『水曜どうでしょうと言えば大泉洋」というわけで、名前からして「を連想させてくれる。

ま、あんまり脱線している余裕はないので、ここからはサクサクと進むけど、昨年2018年6月27日に到着した「はやぶさ2」は、半年以上も掛けて、これからの本番に向けて一連の重要なシーケンスが正常に実施されるかどうかの「クリティカル運用期間」を過ごした。そして、それと同時に、宇宙空間から「リュウグウ」を調査して着陸地点を探していた。それは、リュウグウが予想していたよりも岩でゴツゴツした小惑星で、安全にタッチダウンできそうな広くて平らな場所が見当たらなかったからだ。それに、タッチダウンの直前に地表に向けて弾丸を発射して、飛び散った岩石を回収するから、最初に説明した近赤外分光計「NIRS3」で反射光を分析して「この場所なら水を含んだ岩石がある」という場所でないと意味がないからだ。

そして、やっとのことで見つけた唯一の場所はなんと半径3mほどの狭いエリアだった。高さ60cm以上の岩がある場所にはタッチダウンできないので、直径約900mのリュウグウを半年以上も掛けて調査したけど、この一点しか見つからなかった。「はやぶさ2」は重さが約600kgで、本体の大きさは1m×1.6m×1.26mほどだけど、両サイドに伸ばした翼のようなソーラーパネルまで入れると幅が6mもある。この本体を半径3mほどの狭いエリアにタッチダウンさせるのだから、目の前で操作していても難しそうなのに、それを「はやぶさ2」自身が自分でやらなきゃならない。

地球からリュウグウまでは約3億4000万kmも離れているので、通信に往復に40分ほど掛かってしまう。そのため、タッチダウンを開始してから危険な状態になっても、地球からの通信で操作してストップすることはできない。タッチダウンの工程を事前にプログラミングしておくだけでなく、危険な状況になったら「はやぶさ2が自分で判断して緊急上昇するようにもプログラミングしておかなくてはならない。その上、リュウグウは球体ではなくサイコロのような形の小惑星なので、同じ高度でも場所によって重力の大きさが違う。サイコロの角に当たる部分は重力が大きいため、タッチダウンの時にそちらに引っ張られて軌道が狂ってしまうので、そういうことまですべて計算してプログラミングしたのだ。もう、この時点でシビレちゃうよね。

そして、日本時間2月22日の午前7時29分、「はやぶさ2は見事にタッチダウンに成功したのだ。その誤差は約1mで、「最大誤差2.7mまでならセーフ」と予測されていたから、上出来も上出来、パーフェクトと言っても過言じゃない。だって、地球を出発した時には、リュウグウはもっと平らな小惑星だと推測されていたから、事前には半径50mの場所にタッチダウンする」という計画だったんだよ。それなのに、到着してみたら推測がハズレていて、急遽半径3mの場所にタッチダウンするという計画に変更されたのだ。JAXAの担当者は「当初の設計では半径50m以内の着地を想定していたので、野球場に行くだけのつもりがピッチャーマウンドに降りろと言われ、最後はストライクまで決めてしまった、という感じでしょうか」と述べている。

実際の映像を観ても、「はやぶさ2」が地表に近づいてタッチダウンする直前に細かい岩が舞い上がっているから、本体の下部にあるサンプラホーンという1mほどの筒からプロジェクタイルと呼ばれる金属製の弾丸を発射してちゃんと地表に当たっていることが分かる。そして、前回の「はやぶさ」のサンプル回収システムに改良を加えたシステムも正常に稼働したので、高い確率で岩石を回収していると思われる。ただし、サンプルが回収できたかどうかを確認することはできないので、来年地球に帰って来た時のお楽しみだそうだ。そして「お土産は帰って来た時のお楽しみ」ということから、この着陸地点にJAXAは「タマテバコ」という地名を付けた。

ちなみに、前回の初号機から使われている「はやぶさ」という名前は、わずか1秒ほどのタッチダウンの間に、地表に弾丸を発射してサンプルを回収する工程が、まるで「ハヤブサが地表の小動物を捕らえる姿のようだからという理由で付けられたものだ。だから、往復の長い旅も数々の調査もすべて重要だけど、中でもとりわけ重要視されているのが、この「サンプル回収」ということになる。

そこで、2月22日の実際のタッチダウンの瞬間の映像を、以下のリンクから観てみてほしい。「映像」と言うか、これは高速で連続撮影した画像を繋げて映像のように編集したものだけど、実際の5倍速に編集してあるので、とても観やすくなっている。実は、この画像を撮影した高性能小型モニタカメラCAM-H」は、2012年に「はやぶさミッション」を応援する市民から集まった寄付金の中から約1176万円を使ってJAXAが製作して、今回の「はやぶさ2」に追加搭載することになった機器で、あたしも少しだけ寄付をしている。

『2019年2月22日 はやぶさ2のタッチダウンの瞬間』

小惑星リュウグウには、大きな7つのクレーターとたくさんの岩塊があり、特に大きな13カ所には、それぞれ名前が付けられている。ただ、「ウラシマクレーター」や「オトヒメ岩塊」は、「タマテバコ」と同様にリュウグウ繋がりということで違和感はないんだけど、他に「キンタロウクレーター」や「モモタロウクレーター」や「キビダンゴクレーター」まであるのだ。『浦島太郎』の物語に金太郎や桃太郎まで登場しちゃったら、まるでどこかのケータイ会社のCMみたいだ(笑)

すべてのネーミングを『浦島太郎』関連でまとめるのはネタ不足だったのかもしれないけど、あたしなら「ウミガメクレーター」とか「タイ岩塊」とか「ヒラメクレーター」とか「サンゴ岩塊」とか、いくらでも思いつく。ま、それはともかく、いよいよ本題、リュウグウの「水を含む岩石を地球に持ち帰ることがどうして素晴らしいことなのかについて、ここから、分かりやすく説明したいと思う。

まず、あたしたちの住んでいる地球がある太陽系は、太陽を中心として「水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星」の順に8つの惑星があるけど、太陽系ができたばかりの原始太陽系には火星と木星の間にスノーライン」、日本語で凍結線があった。これは、原始太陽系を形成する原始星において、水やアンモニアやメタンなどの水素化合物が気体や液体から固体になってしまう境界線のことだ。

いろんな水素化合物を挙げると分かりにくくなるので、ここでは「水」のことだけ説明するけど、このスノーラインの外側にある木星、土星、天王星、海王星などは、もしも水があったとしてもカチンカチンに凍ってしまっていた。何故なら、太陽から離れているからだ。そして、太陽に近い水星、金星、地球、火星は、もしも水があったとしても太陽の熱で蒸発してしまう。その上、45億年前に誕生した地球は、最初は地表がマグマで覆われていたから、水なんて存在できなかった。そして、何億年も掛けて地球が冷えてマグマが固まってからも、太陽の熱で水は蒸発してしまうから、やっぱり水は存在できなかった。だけど、現在の地球は全体の7割もが海で覆われている「水の惑星」だ。この大量の水はいったいどこから来たのだろう

唯一、考えられるのが雨だけど、そもそも雨は、海を始めとした地表の水分が水蒸気になって空へ上り、それが降って来るという循環システムだ。

だから、もともと水のない乾いた天体には雨は降らない。そこで、現在、最も有力なのが「スノーラインより外側にある凍った小惑星や彗星などが地球に衝突し水と有機物を運んで来たという仮説なのだ。もちろん、1つや2つの小惑星が衝突したくらいじゃ大したことないけど、45億年前に地球が誕生してから20億年くらいの間に、数多くの小惑星や彗星などが原始的な地球に衝突して、海の素と生命の素を運んで来たと考えられている。このころには、太陽の熱も安定して地球の水分をすべて蒸発させてしまうほどじゃなくなっていたから、十分に考えられるのだ。そして、この仮説が正しければ、地球に衝突した数々の天体は、水だけじゃなくて有機物も運んで来たわけだから、地球に生命が誕生した謎の解明にも繋がるのだ。

で、リュウグウだけど、リュウグウは全体の5割以上が隙間だらけのスカスカの構造で、構成する岩石の成分が均一なことから、太陽系が誕生した時に大きな天体同士が衝突を繰り返す中で、飛び散った破片が集まって出来たと考えられている。そして、リュウグウの軌道や構成する岩石の特徴から「親の天体」を探したところ、火星と木星の間のスノーライン上にある小惑星ポラナ(直径約55km)かオイラリア(直径約37km)のどちらかという結論に達した。ポラナは14億年前までに、オイラリアは8億年前までに少しずつ水が失われた天体だけど、このどちらかから出来たのがリュウグウであれば、リュウグウにはこのどちらかの天体の水を含んだ岩石があり、それを回収して地球に持ち帰ることができれば、太陽系が誕生した時と同じ原始太陽系の水が手に入るのだ。ね?凄いでしょ?

だから、あたしは、1日も早く「はやぶさ2」に帰って来てほしいし、ちゃんとサンプルが回収できているか知りたいのに、「はやぶさ2」には
まだまだ重要なミッションが残されている。それは、これまた「世界初」の試みなんだけど、リュウグウの地表に人工的なクレーターを生成するという任務だ。適正な場所を探して、上空から重さ約2kgの金属の塊を秒速2kmで地表に撃ち込み、その衝撃で大きなクレーターを生成するのだ。リュウグウの地表は全体的に、太陽風や小さな隕石の衝突などで風化が進んでいるけど、地下の岩石などはそうした影響を受けていない。そこで、人工的にクレーターを生成して、地下の岩石を露出させ、それを調査するのだ。

このミッションは来月4月5日に予定されているので、計画通りに進めば、このメルマガの配信日の9日後に行なわれる。そして、しばらくクレーター部分の露出した岩石を上空から調査した後、クレーター付近に着陸して、露出した岩石の回収を試みるという。もちろん、生成されたクレーターや周辺の地形を念入りに調査して、安全に着陸することが難しいと判断した場合には着陸は諦めるそうだけど、あまりの壮大なミッションに、あたしは想像しただけで鳥肌が立ってしまった。

2月22日の「猫の日」に行なわれたタッチダウンの成功だけでも、我が家の庭に遊びに来た黒猫のチェルシーと手を取り合ってタンゴを踊りたくなるほど嬉しかったのに、今から9日後には、その何倍も凄いミッションに挑戦するのだ。だから、今回のエントリーを読んで「はやぶさ2」に興味を持った人は、ぜひ、4月5日のミッションに注目してほしい

実は、ここだけの話‥‥とは言っても、宇宙マニアの皆さんにはお馴染みの話だけど、NASA(米航空宇宙局)も2016年9月9日に「オシリス・レックス」という名前の小惑星探査機を打ち上げていて、昨年2018年12月に目的地の小惑星ベンヌに到着している。そして、到着後の調査で「水を含んだ岩石」を発見しているのだ。ただし、ベンヌもリュウグウと同様に、予想以上に地表の岩石がゴツゴツした小惑星だったため、タッチダウンもリュウグウと同様に難しいそうだ。そして、リュウグウのようにタッチダウンに成功すれば、回収したサンプルを積んで2023年に地球に帰還する。

つまり、JAXAの「はやぶさ2」もNASAの「オシリス・レックス」も、どちらも予定通りにミッションを遂行し、予定通りに帰路に着くことができれば、「はやぶさ2」は2020年、「オシリス・レックス」は2023年に地球に帰還するので、「水を含んだ岩石のサンプルを地球に持ち帰る世界初の探査機はやぶさ2」ということになる。でも、前回の初号機「はやぶさ」の場合は、2007年に地球に帰還する計画だったけど、2005年に発生したトラブルによって通信ができなくなり、奇跡的に通信が回復してからすべての計画を組み立て直して帰還させたため、地球に帰還できたのは当初の計画より3年遅れの2010年だった。

もしも、今回の「はやぶさ2」に何らかのトラブルが起こり、前回の初号機のように3年遅れで地球に帰って来るようなことにでもなれば、2023年の地球への帰還は、NASAのオシリス・レックスとの競争になってしまう。もちろん、前回の初号機「はやぶさ」で得られた数々のデータをもとに改良を加えたのが「はやぶさ2」なのだから、トラブルが起こる可能性は極めて低いし、トラブルが起こった時のリカバリー能力も極めて高い。

でも「はやぶさ2」は、このまま「猫まっしぐら」に地球に帰って来るわけじゃなくて、4月5日に難易度の高い人工クレーター生成という人類初のミッションが待っている。そして、地表の状況によっては再度の着陸とサンプル採集という、さらに難易度の高いミッションまでこなさなくてはならない。だから、あたしは、これから先の「はやぶさ2」のことを考えると、ワクワクが止まらないだけじゃなくて、ドキドキも止まらないのだ♪

image by: Go Miyazaki [CC BY-SA 4.0], ウィキメディア・コモンズ経由で/p>

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