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それは妖怪の仕業じゃ。鳥取・水木しげるロードが賑わう納得の理由

漫画家・水木しげる先生の故郷である鳥取県境港市が展開する「水木しげるロード」に観光客が殺到しています。10連休だけでも同市の人口の13倍もの人々が訪れたその人気の秘訣はどこにあるのでしょうか。フリー・エディター&ライターでビジネス分野のジャーナリストとして活躍中の長浜淳之介さんが詳細に分析しています。

プロフィール:長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)
兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)、『バカ売れ法則大全』(SBクリエイティブ、行列研究所名儀)など。

「水木しげるロード」絶好調の要因

鳥取県境港市の妖怪によるまちづくりで知られる観光商店街、「水木しげるロードの集客が好調だ。同市出身の漫画家で、「ゲゲゲの鬼太郎」など妖怪漫画のパイオニアで知られる水木しげる氏にちなんで命名された商店街である。

10連休となった今年のゴールデンウィーク(4月27日~5月6日)の来場客数は、昨年より83%増の43万6,000人となり、昨年より1日多くカウントされてはいるが(昨年は4月28日~5月6日)、それを差し引いても顕著に伸びている。

最多だった3日の来場者数は6万1,000人で、昨年1年間で最も多かった8月14日の5万1,000人を大幅に上回った。境港市の人口3万4,000人は、鳥取県に4つある市でも最小ではあるが、この10連休だけでなんと人口の13倍近くもの観光客が訪れたことになる。地方活性の稀に見る成功例と言えるだろう。

好調の要因は、昨年4月よりフジテレビ系列で始まった、「ゲゲゲの鬼太郎第6シリーズのアニメ放映である。2018年は「ゲゲゲの鬼太郎」が最初にアニメ化された1968年から50周年にあたり、前回の第5シリーズが09年に終了しているので、声優陣も一新され9年ぶりの復活となった。

また、このアニメ放映に合わせて、境港市では「水木しげるロード」の大規模リニューアルに着手して昨年7月に完成。特に日没から22時までの夜間にライトアップの演出を開始したのが新しい。この効果で、今まで弱かった夜間の滞在者が増えている。妖怪は夜のほうが断然雰囲気が出るし、怖さもひとしおで、怪談の季節でもある夏休みはより一層の集客が期待できる。

随所に凝らされた「飽きない工夫」

「水木しげるロード」の成功要因を探ってみた。

「水木しげるロード」のスタートは1993年。「ゲゲゲの鬼太郎」をはじめとする水木漫画に登場する妖怪のキャラクターのブロンズ像23体でスタートした。

境港市は日本海のみならず、国内屈指の漁港であり、商店街が漁業の繁栄に伴って栄えていた。しかし、モータリゼーションの進行により大規模店が郊外にできたことなど、地方に共通する商業の中心が駅前・市街から郊外に移る流れから、当時は中心市街地の空洞化シャッター通り化が止まらなくなっていた

境港市では当初、観光による集客よりも、商店街が注目されて人の流れが戻ってくることを期待していた。水木氏の好意により、当初はブロンズ像の著作権は発生しない取り決めになっていた。

しかし、ユニークな妖怪によるまちづくりは、マスメディアで注目を集め、全国から妖怪ファンが集まるようになった。いざ妖怪像を置いてみるとなかなか迫力があり、妖怪たちの世界とリアルな街がリンクする、拡張現実のような独特な空間の魅力が、醸し出されるようになった。

その後も徐々に妖怪像を増やし、96年に82体、2010年に139体、18年には177体に達している。

JR境港駅から「水木しげる記念館」に至る南北約800メートルの道路が「水木しげるロード」として整備されており、鬼太郎、目玉おやじ、ねずみ男、ねこ娘、ぬりかべ、一反木綿、砂かけ婆などの像がいたる所に設置され、まさに妖怪のオールスターがこの地に集結しているかのようである。

「水木しげるロード」には、目玉おやじをイメージした球体の御影石が回る清めの水や一反木綿の形状をした鳥居が特徴の妖怪神社、河童や小豆洗いなどといった水にまつわる妖怪のほか鬼太郎の小便小僧なども配した河童の泉などもあり、歩いていて飽きない工夫が随所に凝らされている。

妖怪像の増加と「水木しげるロード」の整備により、観光客は急増し、街を一変させるほどの変革を起こしている。

観光客数は、93年の2万1,000人から、97年には38万人に急増。2007年には、テレビアニメ「ゲゲゲの鬼太郎」第5シリーズの放映効果もあって、初めて100万人を突破して147万人に達した。

さらに、10年には水木しげる夫人の武良布枝氏の自伝を原作とする、NHK連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」放映によって、集客は頂点となる372万4,000人を数えた。

その後は漸減傾向となり、17年には204万1,000人まで減ったが、18年に先述した理由により再び増加に転じ274万4,000人まで戻している。

今後もゴールデンウィークのような活況が続けば、今年は過去最高の結果も狙えるほどの好調ぶりである。

近年は海外からのクルーズ船が境港に寄港するようになっており、香港、韓国を中心にインバウンドの観光客も増えている。

求められる宿泊施設の充実

このように従来は駅前商店街として地域に密着した商売を行っていた「水木しげるロード」であるが、観光商店街化して、遠方からの観光客が集まるようになったため、店舗のラインナップも妖怪にまつわるグッズや菓子など土産物や甘味を売る店にどんどんと変わっている。目玉おやじを模した饅頭、ぬりかべのようなぬれせんべいなど、思わず笑ってしまうようなユーモアに富んだ商品も多い。

今では空き店舗もほとんどなくなり、隣の通りにまで賑わいが広がっていきそうな勢いがある。

食事ができる飲食店、ゆっくり休めるカフェなど外食は案外と少ないが、境港はマグロ、ベニズワイガニの水揚げ量で日本一となるほどの水産物の拠点でもあり、「水木しげる記念館」から歩いても20分ほどの距離にある「境港水産物直売センター」まで行くと新鮮な山陰の海の幸がふんだんに楽しめる。

「水木しげるロード」でも、海鮮丼、刺身、カニ料理などを出す店が出てきているが、境港のもう1つの売りである水産物をもっと積極的に売ればさらに水木しげるロードの魅力は高まるのではないだろうか。

2年前、駅前にビジネスホテルの「ドーミーイン」が新業態として、初の和風プレミアムホテル天然温泉境港夕凪の湯御宿野乃」(195室)をオープンした効果も大きい。これまで境港市には宿泊施設が乏しく、夜は隣の米子市にある皆生温泉などに宿を取る人が多かった。そのため、昼間はたくさんの観光客が訪れても、夜が早かった。

ホテル内にも飲食店はあるが、「水木しげるロード」周辺部で、夜も営業する飲食店が少しずつ増えてきているようだ。

ホテルがもっと充実してくれば、夜の観光も盛んになってくるだろう。

さらなる妖怪ワールドのバージョンアップ目指して

さて、昨年7月に実施した「水木しげるロード」リニューアルの目玉は、51種類の妖怪が影絵となって道に映し出される演出照明で、夜の観光を強化する目的を持っている。鬼太郎をはじめ、提灯お化け、松の精霊、夜雀などの妖怪たちが現れては消え、とても幻想的である。

いかにも妖怪が出そうなおどろおどろしい形状の樹木が植樹され、夜はライトアップで青や赤のようなネオンカラーに光るので、怪しげな雰囲気が満点である。こういう環境だから、妖怪たちのライトアップもより効果的に見える。

また、戦後間もない頃まであったようなレトロな街灯、井戸水を汲むホンプなども設けられ、昭和にタイムスリップしたような空間演出がはかられている。

道は、これまで車は対面通行だったが、一方通行に変更された。歩道を広げて車道を狭め歩行者優先となった。

こうした施策で、「水木しげるロード」のテーマパーク化がより進み徹底されてきたと言えるだろう。

「水木しげるロード」の影響は最寄りの交通機関にまで及び、JR境線の全駅には妖怪の愛称が付けられている。境港駅は鬼太郎駅、米子駅はねずみ男駅、米子空港駅はべとべとさん駅といった具合だ。

走っている列車も、「ゲゲゲの鬼太郎のキャラクターでラッピングされている。

米子空港は、米子鬼太郎空港と名乗るようになった。どれだけ地元が妖怪に期待しているかが、伝わってくる。

「小さな子供さんから、おじいちゃん、おばあちゃんまで、3世代で楽しめるのがゲゲゲの鬼太郎の魅力です。水木しげる先生の世界観を境港から発信していきたいですね」と、境港市役所観光振興課では手を緩めることなく、さらなる妖怪ワールドのバージョンアップを目指している

Photo by: 長浜淳之介

長浜淳之介

プロフィール:長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)

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兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)など。

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