厚生年金において、とある職業の人だけは現在も年金額が通常よりも高めに支払われることをご存知でしょうか。今回の無料メルマガ『年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座』では著者のhirokiさんが、職業によって年金額が変わる特殊な例を紹介しています。
過去にこの職業の期間がある人は厚生年金期間を優遇して通常より高めの年金を支払う
厚生年金計算をする時は今まで加入した月数と、給与(標準報酬月額)と賞与(標準賞与額)を使ってその人それぞれの年金額を算出します。
ちなみに年金には過去の法改正の急な変化を緩和するために、経過措置といって、法律が変わってもそのまま過去の法律を使い続けるという事をしたりします。年金はこの経過措置がある為に大変な複雑な制度となっており、ここで大半の人がイヤになっていくわけですね(笑)。
最新の法改正情報を押さえるのはしなければならない事ではありますが、過去にどういう事があったのかを把握していないと年金受給者様との話が噛み合わなくなったりします。
なお、僕はメルマガでは1から年金計算をして最終的にはこうなるという事を示しますが、年金受給者様の年金については実務上はすでに年金事務所のパソコン上で年金額が確定しています。
よって年金事務所では、既に確定してる年金額がどうしてその年金額になってるのか?を追求するという逆のパターンになります。なんでこの年金額なのか?どうしてこうなっちゃってるのか?等…原因を探るという感じですね。その原因をひたすら突き止めるというか。
ちょっと話は逸れましたが、ちょっと今日は普通に加入した月数で計算してしまってはいけない事例で年金額を見ていきたいと思います。それは過去に船員とか炭坑夫(坑内員という)として働いていた人です。
この職業で働いていた人は、昔は戦前戦後の産業戦士として非常に過酷な労働者であったために年金を早めに支給したり、ちょっと加入月数に上乗せしたりして優遇されていました。特に石炭業は戦前戦後日本の経済を立て直すための要となった職業だったからですね。
まあ、昭和30年代になると石炭よりも輸入で安い石油のほうに代わっていき始めたので(エネルギー革命)、石炭業は急速に斜陽化していきました。そのために大幅な人員整理としての解雇が進められましたが、それに反対する労働組合と会社との戦いが繰り広げられたりしました。昭和34年の三井鉱山の三池炭鉱の閉山による三池争議という最大の労働争議はご存知の方も多いでしょう。
現代はストライキっていう言葉はあんまり聞かなくなりましたが、昭和30年代、40年代は大規模なストライキ(労働者が仕事に行かずに会社のやり方に抗議する。労働者が働かないから会社が困る)が多い時代でもありました。学生の闘争も各地で頻発していましたよね。
石炭業は昔は人気の職業でしたが、今ではもう過去のものになりました。
ところでよく就職活動時には「今」人気で有名の会社を狙って入社したら安泰と思う人が多いでしょうけど、人気だけで選ぶと将来斜陽化した時にクビになったり会社潰れたりして途方に暮れる事にもなります。年功序列、終身雇用の時代はとっくに終わったのであまり他力本願だとダメな時代であります。
会社だけでなく今流行りの婚活市場というのも年収年収!って基準が一番の女性なんかは、配偶者が失業したり病気して働けなくなった時に安易に離婚ですっていうからおままごとみたいに2~3年もしたら離婚に走る人が多くなってしまったのかなと思います。人生には浮き沈みがあるものなので、良い時ばかり見てはいけない。
おっと!そういう話はこの辺にしてこの記事では過去に船員や坑内員だった期間がある人の年金額を見ていきます。
1.昭和32年3月4日生まれの男性(今は62歳)
● 何年生まれ→何歳かを瞬時に判断する方法!(参考記事)
20歳になる昭和52年3月から昭和54年3月までの25ヶ月間は大学生として国民年金には強制加入ではなく、任意加入だった。加入はしなかったために、将来の老齢の年金受給期間最低10年以上を満たすためのカラ期間となる。
昭和54年4月は国民年金強制加入となり、この4月分の国民年金保険料は納めた(1ヶ月国年納める)。昭和54年5月から平成4年3月までの155ヶ月は船員として厚生年金に加入する。
なお、昭和54年5月から昭和61年3月までの83ヶ月の平均給与(平均標準報酬月額)は40万円とし、昭和61年4月から平成3年3月までの60ヶ月間の平均給与は42万円とし、平成3年4月から平成4年3月までの12ヶ月間の平均給与は44万円とします。
※注意
船員や坑内員だった人の昭和61年3月までと昭和61年4月以降、平成3年3月までの加入月数は年金計算の時は異なるので分けてます。
なお、船員保険は昭和61年4月から厚生年金に統合されたので、年金受給する時は船員期間は厚生年金期間とみなして支給している。
平成4年4月から平成8年5月までの50ヶ月はサラリーマンとして厚生年金に加入する。この間の平均給与は28万円とします。平成8年6月からは自営業として国民年金保険料を平成16年7月までの98ヶ月は未納。
平成16年8月から60歳前月である平成29年2月までの151ヶ月は国民年金保険料を納める。更に国民年金保険料に上乗せとして付加保険料(月々400円)を同じく151ヶ月納めた。60歳以降は国民年金には強制加入ではなくなって、それ以降は何も年金には加入しなかった。
さて、この男性は62歳(平成31年3月受給権発生の翌月分から年金発生)から老齢厚生年金が発生します。
● 厚生年金支給開始年齢(日本年金機構)
その前に厚生年金期間の整理をします。
昭和54年5月から昭和61年3月までの83ヶ月は3分の4倍にして、110.6ヶ月とします。昭和61年4月から平成3年3月までの60ヶ月間は5分の6倍にして72ヶ月にします。平成3年4月から平成4年3月までの12ヶ月間は実期間。民間企業で50ヶ月。合計加入期間は244.6ヶ月となる。
なお、110.6ヶ月の1ヶ月未満の端数は、年金を支給する時に1に切り上げて111ヶ月にして支給する。だから全体の厚生年金期間の244.6ヶ月は245ヶ月となる。
これで老齢厚生年金を計算する。
- 62歳からの老齢厚生年金(報酬比例部分)→40万円×7.125÷1,000×111ヶ月+42万円×7.125÷1,000×72ヶ月+44万円×7.125÷1,000×12ヶ月+28万円×7.125÷1,000×50ヶ月=316,350円+215,460円+37,620円+99,750円=669,180円(月額55,765円)
65歳まではこの年金額が続く。
じゃあ65歳からの年金総額を計算します。老齢厚生年金の報酬比例部分はそのままの金額ですが以下が加算。
- 老齢厚生年金(経過的加算または差額加算ともいう)→1,626円(令和元年度定額単価)×245ヶ月(割り増しされた厚生年金月数)-780,100円÷480ヶ月×(155ヶ月+50ヶ月)=398,370円-333,168円=65,202円
いつもは差額加算は数百円とか数十円とか微々たる金額の事が多いですが、過去の船員期間を割り増してるので結構高い金額になった。
- 国民年金からの老齢基礎年金→780,100円÷480ヶ月×(保険料納付済み期間→1ヶ月+83ヶ月+60ヶ月+12ヶ月+50ヶ月+151ヶ月)=580,199円
※注意
国民年金の基礎年金を計算する時は厚生年金のように3分の4倍したり、5分の6倍したりしてかさ上げしない。実期間で計算。厚生年金期間を特例的に優遇してるので国民年金まで優遇しませんという事です^^;
- 付加年金→200円×151ヶ月=30,200円
よって、65歳からの年金総額は、
- 老齢厚生年金(報酬比例部分669,180円+差額加算65,202円)+老齢基礎年金580,199円+付加年金30,200円=1,344,781円(月額112,065円)
※追記
この男性の厚生年金期間の実際の期間は155ヶ月+50ヶ月=205ヶ月ですが、船員期間による加入期間のかさ上げで245ヶ月(20年以上)となってるため、65歳時に65歳未満の生計維持してる配偶者が居れば配偶者加給年金390,100円も65歳時に加算される。
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