年金を貰い始めるタイミングを遅らせた場合、受給額が増えることは知識としてご存知の方も多いかと思います。しかしながら増加した分、税金等もアップするのもまた当然なのですが、「それでも得」とするのは、無料メルマガ『年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座』の著者・hirokiさん。今回の記事中ではその根拠をわかりやすく、かつ詳しく紹介してくださっています。
年金を貰うのを遅らせて年金を増やしたけど、その分税金や社会保険料負担も増えるがやはり得
年金を増やす時は年金を貰うのを遅らせると増えるって話題が関心を集めるようになりましたよね。もちろん65歳から発生する老齢基礎年金と老齢厚生年金を最大70歳までの期間の間で遅らせる事で年金は1ヶ月毎に0.7%ずつ増えていきます。
年間で8.4%も増えて、5年間だと42%の計算になります。まあ65歳時に200万円の年金が1年で2,168,000円になって、5年後には284万円になるという事ですね。本当に増えるのか?と怪しげな感じですが、これは事実です。でも制度上の様々な条件があるし、もうさっさと年金貰いたいという人も多いので実際利用者は2%に達しません。
● 制度的に利用者が2%にも満たない様々な理由(2018年11月有料メルマガバックナンバー)
さて、年金額は物凄く増えますが、収入が増えるという事は税金や社会保険料が増える事にもなります。じゃあ年金増やしたけどその分どのくらい税金がかかってしまうのかを見ていきましょう。ちなみに65歳未満の人は年間108万円未満、65歳以上の人は158万円未満の人は税金はかからない。
1.昭和23年12月24日生まれの男性(今は70歳)
● 何年生まれ→何歳かを瞬時に判断する方法!(参考記事)
65歳時点の年金額。
- 老齢基礎年金78万円
- 老齢厚生年金130万円(経過的加算含む)
- 配偶者加給年金39万円(52歳の妻有り)
- 合計247万円
なお、65歳時点では退職金がまだ1,500万円あったから、70歳までは年金を貰わずに退職金で過ごそうと思った。65歳時に年金はしばらく貰わない年金の繰下げを希望していた。平成30年12月23日に70歳に到達したので、繰下げの申し込みを年金事務所にしに行った。そうすると平成31年1月分から年金が42%増える。
- 老齢基礎年金は78万円×142%=1,107,600円
- 老齢厚生年金は130万円×142%=1,846,000円(経過的加算含む)
- 配偶者加給年金は増えずにそのまま39万円
70歳到達月の翌月からの年金額は、
- 老齢基礎年金1,107,600円+老齢厚生年金1,846,000円+配偶者加給年金39万円=3,343,600円(月額278,633円)
繰下げしたから65歳時の年金247万円より、年間873,600円増額しましたね。ですが、年間の受給額が158万円以上だから源泉徴収税額が年金からなされる。源泉徴収するかどうかは2月15日支払いの前日時点(2月年金の締め日である1月20日ごろ)の年金額で判断する。
この男性の年金からはいくら源泉徴収されるのか?まずこの男性の偶数月に支払われる年金額は278,633円×前2ヵ月分=557,266円であります。で、税金を源泉徴収する場合は扶養親族等申告書が送られてくるのでそれを出したとします。
課税対象者であれば一般的には毎年10月ごろに送られる(この男性は平成30年中は年金貰ってないから10月には送られてないが、年金貰い始めた2月ごろに送られる。この記事では深く考えなくて読み進めてください^^;)。
そうすると皆、一律に基礎控除が使える。
- 65歳以上の基礎控除→2ヶ月分の年金557,266円×25%+65,000円×2ヵ月分=269,316円
ただし、月額135,000円の最低基礎控除があるので、135,000円×2ヵ月分=27万円の基礎控除を使う。
妻の所得は年間38万円以下とします(配偶者控除月額32,500円使える。今なら所得85万円までの人は使える)。夫婦ともに障害などは無いとします。よって
- 557,266円-基礎控除27万円-配偶者控除65,000円=222,266円(課税所得)
源泉徴収される所得税は222,266円×5.105%=11,346円。この11,346円が毎回の偶数月から引かれる。だから
- 毎回の年金振込額557,266円-源泉徴収額11,346円=545,920円
源泉徴収額は年間11,346円×6回の年金振込=68,076円支払う。65歳時の年金額247万円だったなら年間源泉徴収額は25,000円くらい。繰下げによる収入増で、差額は68,000円-25,000円=43,000円の負担増。
なお、65歳以上になると原則として介護保険料や国民健康保険、後期高齢者医療保険料、個人住民税が引かれる。ザっとですが、年間334万円くらいだと介護保険料なら年間12万円(月額1万円)の、国民健康保険は年間22万円(月額18,000円)くらいとします(この社会保険料の負担は各市区町村で確認してください。僕は適当に市区町村のHP選んで概算しました^^;)。合計社会保険料34万円(月額約28,000円)。
繰下げしない65歳時点の247万円なら介護保険が年間8万円(月額6,666円)、国民健康保険料は15万円(月額12,500円)くらいとします。合計社会保険料23万円。繰下げによる収入増で、差額は34万円-23万円=11万円負担増。
※注意
65歳以上の社会保険料は年金からの天引きが原則ですが、この男性の場合は70歳になるまで年金貰ってなかったから10月ごろまでは納付書で納めてもらう必要がある。
なお、65歳になってもすぐ天引きが始まるのではなく、おおむね半年から1年間は天引き処理までに時間がかかる。だからそれまでは口座振替とか納付書支払い。
個人住民税が年間114,000円とする(住民税に関しても各人の負担額はお住いの市区町村に確認ください)。繰下げしなかった場合は38,000円とします。
※参考
- 繰り下げしない場合の個人住民税→(247万円-公的年金等控除120万円-基礎控除33万円-配偶者控除33万円-社会保険料控除23万円)×10%=38,000円
- 繰り下げした場合の個人住民税→(334万円-公的年金等控除120万円-基礎控除33万円-配偶者控除33万円-社会保険料控除34万円)×10%=114,000円
差額は114000円-38,000円=76,000円。つまり、
- 繰下げ増額した873,600円-負担増の源泉徴収額43,000円-負担増の社会保険料11万円ー負担増の個人住民税76,000円=644,600円
というように繰下げで年金収入を増額させた事で、増額させない場合よりも税金や社会保険料が増額となって、繰下げ効果が下がりました。なので、負担する税金や社会保険料などは考慮しておく必要があります。なお、介護保険料や国保、後期高齢者医療などは市区町村で異なるので、この記事ではあくまで概算としています。
ちなみに源泉徴収税を計算する時は天引きされる社会保険料も所得控除で使えるから(年金天引きされない分は翌年1月1日以降5年以内に還付申告する)、源泉徴収税額はもっと低くなる。だから
- 上記の2ヶ月分の年金557,266円-基礎控除27万円-配偶者控除65,000円-社会保険料控除(28,000円×2ヵ月)=166,266円(課税所得)
166,266円×5.105%=8,487円の源泉徴収税額。年間だと8,487円×6回=50,922円。所得税が下がりましたね。社会保険料控除使った事で住民税も下がるでしょう。だから繰下げ増額で増えた873,600円の効果は下がってしまいますが、入ってくる収入は十分増えるのでやはりお得ではありますね^^
※追記
繰下げすると、65歳から貰うのを70歳から貰うと、70歳から11年11か月後の81歳11ヶ月で損益分岐点を迎えます。81歳11ヶ月以降は70歳から貰った人のほうがトクになる。これはどのタイミングから繰下げ申し込みしても11年11ヶ月は同じ。
たとえば65歳時に100万円の年金が70歳で142万円に増額したら、65歳から70歳まで普通に年金貰うとすれば500万円。その500万円を増額分の42万円で割ると11.9になる。小数点以下の0.9は12ヶ月掛けて月に直すと、10.8になって11ヶ月となる。だから11年11ヵ月。こうして70歳から足すと、81歳11ヶ月で損益分岐点という事。
ただし、繰下げ増額しない年金がありましたよね?配偶者加給年金の39万円。たとえば今回の例の男性なら65歳から配偶者加給年金含めて年間247万円貰える人が、そのまま70歳まで貰う年金総額は1,235万円。1,235万円を70歳まで繰下げ増額した873,600円で割ると、14.1になります。小数点以下の0.1を12倍すると1.2ヶ月になるから、14.1ヶ月で損益分岐点を迎える。つまり70歳+14年1ヶ月=84歳1ヶ月にならないと、65歳から貰う人よりも総額が低くなるという事です。今回の事例のように税や社会保険料が引かれるからその損益分岐点は更に長くなる。
増額されない配偶者加給年金や振替加算が支給されてる人の損益分岐点の算出は注意が必要です。まあ…保険だから何歳になったら元が取れるとかいう話は特別大切な話ではないんですけどね^^;
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