国際交渉人が憂慮。大戦の火種が燻る北アフリカ・中東地域の混乱

 

それがオバマ政権下でのイラン核合意を受け、地域における軍事的な緊張が緩んでいたのですが、それをリセットしたのが、ご存知トランプ政権です。イスラエルも非常に対イラン強硬派のネタニヤフ首相が率いるということもあり、イラン非難は激化していますが、アメリカが仕掛けるホルムズ海峡をめぐる緊張の激化を目の当たりにして、批判の度合いを下げ、また「有志連合への参加」のレベルも落として、何とか不測の事態を避けようとしています。(この点については、イランも同じです)。

この状況をさらにややこしくしている第3の軸が、サウジアラビアです。分断されたアラビア半島の中心に位置し、世界最大ともいわれる原油の埋蔵量に裏打ちされた経済力をバックに、地域のスンニ派諸国の雄の立場を確立してきましたが、それに真っ向から対立するのがシーア派の盟主イランです。

今のところ、直接的な軍事衝突には至っていませんが、イエメンのフーシー派をめぐる内戦ではサイドを分けて代理戦争の状態になっていますし、ホルムズ海峡でイランの対岸にあるオマーンでも両国の“代理戦争”は継続しています。そして、シリア内戦でも同じような構図が作られ、それがシリア内戦の“解決”を阻んでいると言っても過言ではありません。中東地域での不安定要因の多くは、この両国間で戦われている代理戦争で、こちらもいつ両国の直接的な軍事衝突に発展してもおかしくない状況です。

ちなみに、サウジアラビア他にとってイスラエルは決して友好国ではなく、同胞であるパレスチナ人から“神の土地”を奪った張本人として敵対していますが、今は、イランとの対決を優先し、イスラエルとは小康状態になっていますが、こちらもいつでも火を噴く材料は揃っています。

そこに緊張をさらに加えているのが「北アフリカ地域でのアラブの春と独裁体制の終焉」です。第1波を何とかしのいだアルジェリアやモロッコも、リベリアのカダフィ体制の崩壊後、民主化の波に常にさらされていますし、ついに今年4月には、長年続いたアルジェリアのブテフィリカ大統領の体制が終焉しました。

アラブの春で民主化を平和裏に達成したと言われたチュニジアも、今や、リビアと並んでISの新たな拠点化していますし、北アフリカとアラビア半島をつなぐ位置にあるエジプトも、シシ大統領が憲法改正によって半ば終身大統領になり、地政学的な位置付けから期待された仲介・調整役は望めなくなってきました。その証が、今週起きたリビアでの内戦の激化と国連職員3名の殉職です。

リビア・カダフィ政権崩壊後、首都トリポリとベンガジという大都市に陣取る2大勢力が争いを続けていますが、その背後にはトルコとサウジアラビアがいると言われています。「トリポリ対ベンガジ」の戦いです。トリポリを拠点とする暫定政府(シラージュ暫定政権)とハフタル司令官が率いるベンガジ拠点の武装勢力が10日に国連の仲介の下、停戦合意に至っていたのですが、その次の日の11日にベンガジで自動車を用いた爆弾テロが発生し、国連職員3名がその犠牲になったことで、両勢力の非難の応酬に加え、国際社会からの非難が再燃しています。

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