国際交渉人が憂慮。大戦の火種が燻る北アフリカ・中東地域の混乱

 

それを受けて今週、それぞれを支援するトルコ(暫定政権側)とサウジアラビア(武装勢力側)が、リビアの地で代理戦争を再開してしまいました。これは、先に起こったカショギ氏殺害に関わる事件での両国の対立を想起させるような争いになりますが、サウジアラビアにとっては、憎きイランの肩を持つトルコへの対抗という見方もできます。または、北アフリカ・中東地域における覇権争いを、サウジアラビアが、トルコに対して挑んでいるとも言えます。(少なくともトルコ・エルドアン大統領はそう感じているようです)。

サウジアラビアとトルコの間に直接的な武力衝突はまだ起きないと思いますが、他の対立軸が偶発的な衝突を起こした暁には、どのような悲劇が待っているかわかりません。そして、これらの対立軸の背後には、「地域外の大国」が控えていることも、アジア地域で見られる対立とは違う構図で、それが一層、事態をややこしくしています。

アジアについては、対立軸の核が、地域の大国で、かつアメリカと覇権争いを繰り広げ、新冷戦状態の片棒となっている中国ですが、この地域には、実力的にアメリカと覇権争いをする国はいません。(現在、イランがアメリカと対峙していますが、直接的な戦争は、軍事的にも経済的にも不可能です)。

サイクスピコ協定で勝手にアラビア半島を分割した英仏と、第2次世界大戦後の英国政府の3枚舌外交の弊害、そして1991年の湾岸戦争以降、一気にプレゼンスを高め、権益を握るアメリカ、そして失地回復したいロシア、新規参入したい中国が、それぞれ自分たちの「手足」を選択して代理戦争しているのが、北アフリカ・中東地域です。

ゆえに、対立の構図が非常にややこしくなるばかりか、すでに地域に属するそれぞれの国々の意思で争いを止めることが出来ないというジレンマが固定化されています。ゆえに、一度、どこかで火の手があがり、そこに背後の国々が反応し始めたら、あとは一気にslippery slopeを滑り落ちるかのように、世界的な大戦争に発展しかねない状況だと言えます。

トランプ大統領のAmerica Firstは、他国の「自国第一主義」の復活と復権を招き、国際協調の時代から、再度、自国中心そしてブロック化した国際社会に逆戻りする流れが日に日に強くなってきています。言い換えれば、第1次世界大戦や第2次世界大戦直前の国際秩序に類似してきているのです。

ちなみに日本の立ち位置は、非常に稀有な存在です。トランプ大統領のアメリカと非常に密接な信頼関係を築く一方、イランとも友好関係・信頼関係を“まだ”保持できています。そして、近年、日本人がテロに巻き込まれるケースが起こっていますが、まだまだ中東・北アフリカ地域は親日です。

今、日に日に緊張が高まり、戦争へのslippery slopeを滑り落ちそうになっている地域とその背後の国々に効果的に働きかけることができる珍しい立ち位置にいるということを、日本政府と安倍総理は気付いているでしょうか。「それにちゃんと気付いていて、世界で最も優秀とされる官僚組織と共に外交戦略を練って、有事に備えている」

そのような声を聞くことが出来るといいなと願いつつ、同時に、自らも調停官としての役割が満載な北アフリカ・中東地域が、次の大戦の火種とならないように、第2次世界大戦終戦から74年経つ今、切に願い、最大の努力をしたいと考えています。

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世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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