9月9日早朝に千葉県を襲った台風15号による大規模停電は、2週間経っても完全復旧に至っていません。台風通過から5日後、停電が広範囲で解消されない事態に、Twitterで問題提起したのは、危機管理専門家として消防庁や静岡県で活動する軍事アナリストの小川和久さんです。今回、小川さんの提起は、考えていたような議論や理解は得られなかったようです。主宰するメルマガ『NEWSを疑え!』で、その顛末とともに、問題提起の意義に疑問を感じたり意欲を失うことはないと、専門家としての覚悟を示しています。
こんなものがあったらいいな
またTwitterで罵声を浴びています(笑)。しかし、「叩かれた」とか、「フルボッコ」とか、「炎上」という感覚はありません。めげたり、凹んだりしていませんので、ご心配なく。
それは、仕事としてTwitterでも問題を提起し、それに対する世の中の当たり前の反応だと思っているからです。私の最初のツイートは次の通りです。
生命を左右する機能だからライフラインという。復旧は動脈をつなぐがごとく素早くが不可欠。電柱を立てるより落ちた電線を絶縁して通電を優先せよ。危機管理は拙速でなければダメ。拙速を旨とする軍事組織=自衛隊だけが円滑に機能している。政府も電力、電話会社も日本の危機管理は巧遅に陥っている。
— 軍事アナリスト 小川和久 (@kazuhisa_ogawa) September 14, 2019
そして飛んできた罵声は、電気の世界の人たちからで、あとは便乗組の悪罵です。電気の世界の人たちは言います。
「高圧電流が通っている落ちた電線に通電したら死ぬ」
確かに、その通りなのでしょう。しかし、私は通電するにあたっての絶縁(感電防止措置)に具体的に言及したわけではありません。それを頭から否定して怒鳴り散らすのは、よほど自分たちの仕事に自信があるのか、それとも経験が乏しいのか、視野が狭いか、いずれかなのでしょう。
そういう中で、ある電気工事関係者の方から次のツイートがあり、救われた思いがしました。
「確かに電柱無視で切れた送電線をつないで送電は不可能じゃないですが、それって保安上も危険ですし、接続部が地上に近ければ近いほど結線部の絶縁処理に手間がかかるのでお勧め出来ませんね」
これに対して、私も次のように返信しました。
有難うございます。私が最初にイメージしたのは、お書きになった「お勧めできない」やり方でした。まずは何らかの感電防止措置(絶縁と書いてしまいましたが)をとり、通電によって生命維持装置などがを止めないようにし、並行して電柱の再建などを進めていくというものです。困難とわかりました。 https://t.co/EMgnYuWUWe
— 軍事アナリスト 小川和久 (@kazuhisa_ogawa) September 16, 2019
しかし、最初のツイートが「電気の問題」になってしまったのが残念でなりません。
私は静岡県で同じ被害が出たとき、どれだけ早く対応できるかを危機管理の面から模索しており、優先順位からして電力の復旧を最優先すべきだと思い、「電柱を立てるより落ちた電線を絶縁して通電を優先せよ」とツイートしたのです。
これは、危機管理対策を打ち出すための会議で、電力、電話、水など重要インフラの関係者を集め、「例えば、こんなことはできないだろうか」と問題提起するのと同じなのです。
会議の場では、「それは技術的に無理」といった説明があるにしても、罵声が飛んでくることはありませんし、私が危機管理専門家として問題提起したことについて「無知」という話にもなりません。それがTwitterの場合は、色んな人が片言隻句に噛みついてきます。
電気工事関係者を名乗っていても、発言内容を見ればピンからキリまでごちゃ混ぜになっており、キリの人が少なくないこともわかりました。そんな罵声を読んで嬉しくなるほど倒錯してはいないつもりですが、人の世の縮図を見せられているようで、複雑ではあります。
それでも、建設的な方向でツイートしてくれたり、危機管理に関する私の考えを理解してくれたりする人も少なくありませんでした。励みになります。
いま、阪神淡路大震災の直後を思い出しています。市街地火災に対するヘリコプターによる空中消火を提案した私は、消防当局と消防関係者から一斉攻撃を受け、頭から否定されました。多くのマスコミも、当局の見解を根拠として私の提案を否定しました。しかし、当時の消防当局はヘリの運用に無知で、米国の事例についても情報を持っていなかったのです。
その後、私の検証作業によって消防当局の主張は完全に覆り、空中消火はごく普通のこととして行われるようになりましたし、消防当局で私を支援してくれた人たちの推薦もあって、総務省消防庁の消防審議会委員(足かけ10年の年限のあとは専門委員)として危機管理に取り組んでいます。
ヒートテックを生み出したユニクロの製品開発ではありませんが、「こんなものがあったらいいな」「こういうものができないのかな」から始めることは、外交、安全保障、危機管理の分野でも同じなのです。そういう口火を切るにあたっては、素人も玄人もないのです。(小川和久)
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