会社の業務に慣れると、確認作業を怠ったり、独自基準で業務を強行するなど、不祥事に繋がる種が芽吹く危険が増えてしまうものです。このような事態、どう防げばいいのでしょうか。今回の無料メルマガ『致知出版社の「人間力メルマガ」』では、そのヒントとなり得る、世界が認めた「トヨタ生産方式」の現場で繰り返し言われ続けている「言葉」が紹介されています。
トヨタで繰り返し言われている言葉 海稲良光
トヨタ自動車とリクルートグループの共同出資によって設立されたオージェイティー・ソリューションズは、ものづくりの現場で長年キャリアを積んだエキスパートを現場指導に派遣し、問題を抱えた多くの企業を蘇らせてきました。
その指導のベースとなっている考え方を交えながら、ものづくりの場をいかに高めるかについて、同社専務を務められた海稲良光氏のお話をご紹介します。
日々の知恵と改善により、ものづくりの場を高めていくために、トヨタで繰り返し言われている言葉があります。それらの言葉をまとめ、『トヨタの口ぐせ』(中経出版)という本を刊行しました。そのいくつかをご紹介したいと思います。
「者に聞くな、物に聞け」
者とは人のことであり、物とは現場や商品・製品のことです。現場の作業者から聞いたことと、実際に現場で起きていることが食い違っていることがよくあります。
ですから、管理監督の立場にある人は、部下からの情報に頼り切るのではなく、実際に自分の目で現場を見て、何が起きているかをつかまなければなりません。
「やってみせ、やらせてみせ、フォローする」
「やらせてみせ」までは実施していても、その後の「フォローする」まで徹底している会社はほとんどありません。
教えたことを本当に守り、実践するまでフォローすることが重要なのですが、実際には、「たぶんやっています」というレベルにとどまっているケースが多く見受けられます。「教えたとおりにやっています」と言い切れるところまできっちりフォローしていかなければなりません。
「あなたは誰から給料をもらうの?」
現場では、目先の問題に振り回され、事の本質を見失ってしまいがちです。この質問に対して、上司の名や会社をあげるのではなく、給料はお客様からいただいている、ということを出発点にすることで、品質やコストにも気を配ったお客様第一主義のものづくりが実践できるのです。
訪問した会社の管理レベルは、現場で作業をしている従業員さんに、「この部品は次にどこへ行くのですか?」と聞いてみればだいたい分かります。「隣の箱に置くんだよ」という答えには、「自分は誰から給料をもらっている」という問題意識は見受けられません。
一人ひとりが、「この部品はこういう工程をたどり、最終的にこの製品になってお客様のもとへ届けられます」と答えるところまで持っていくことができれば、その会社の現場レベルは相当なものになっているに違いありません。
「陸上のバトンリレーのようにやりなさい」
トヨタ流の仕事のやり方を、私はこの言葉で表現しています。陸上のリレー競技では、前の走者から次の走者へとバトンを渡すバトンゾーンがあります。そのゾーン内であればどこで渡してもいい。バトンゾーンを有効に使うことで前走者と次走者の引き継ぎが円滑になり、全体のタイムを縮めることができます。
これは仕事も同様で、例えばベテランから新人にバトンを渡す場合、ベテランはバトンゾーンのギリギリのところまで走って新人を助けてやればいい。バトンゾーンがあることで、自分の範囲を超えて仕事をしたり、アクシデントが起きた時には逆に助けてもらったりできます。お互いに自分の領域を少し超えながら、助け合ってリレーを走ることができるのです。
「横展しよう」
横に展開すること。すなわち、自分たちが持っているノウハウを広めたり、その反対によそでやっているよいものはどんどん取り入れることです。
そのためにも、部門を超えた交流会の開催などを通じて、普段から社内に多様なネットワークをつくっておくことが重要です。
「マルを描いて立ってろ」
人間はなかなかじっとしておられない生き物です。動いてしまうがゆえに見えない現場の問題点があるのです。例えば足元にマルを描いてその中に立ち、一か所にとどまって現場を観察することで様々な発見があるものです。
「自社の『基準』は何か」
在庫を減らしたい、と考える会社は多いのですが、なかなか実現できないケースがよくあります。基準が明確でないために、いまの在庫数で正常なのか異常なのかが判断できないのです。
例えば、工場の整理整頓を進めたい場合、ただ整理を指示するのではなかなか足並みが揃いません。そこで、床に白線を一本引き、その白線内に納めるように指示を出せば、すぐにきれいに整頓されます。何が正常で何が異常かが一目瞭然だからです。感覚的に何となく雑になってる、という捉え方では、なかなか改善は進まないのです。
これは在庫も同様で、過去のデータをもとに、自社の基準を常に明確にしておくことで改善が進みます。
(『致知』2007年5月号より)
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