フランスのシラク元大統領の国葬が9月30日に行われました。大の親日家として知られ、内外に影響を与えた大人物の国葬に、日本政府が参列させたのは駐仏大使でした。この政府及び安倍首相の対応を「お粗末」と問題視するのは、メルマガ『NEWSを疑え!』を主宰する軍事アナリストの小川和久さんです。小川さんはわが国が過去にも「弔問外交」の機会を逃している例を上げ、その理由が言い訳に過ぎないと指摘。そういったことに触れもしないマスコミについてもチクリと疑念を表明しています。
またやっちゃった!弔問外交できない日本
フランスのジャック・シラク元大統領が9月26日、86歳で亡くなりました。その国葬の模様は次のように伝えられています。
「フランスのシラク元大統領の国葬が30日、パリの教会で行われ、ロシアのプーチン大統領ら約30カ国の首脳を含む約2000人が参列し、最後の別れを告げた。
シラク氏はロシアの言語や文化に精通し、プーチン氏と親交が深かったとされる。2003年の米国主導のイラク戦争に共に反対した。仏紙パリジャンによると、国葬に先立ちプーチン氏はシラク氏について、『国民から尊敬され、先見の明を持って自国の利益を擁護する首脳として国際的な権威を有した』と称賛した。
国葬にはこのほか、クリントン元米大統領やイタリアのマッタレッラ大統領、ベルギーのミシェル首相らが出席。日本政府からは木寺昌人駐仏大使が参列した。
仏政府は30日を『国喪の日』とし、午後3時から1分間の黙とうを学校や政府機関などで実施。また、国内全ての公共施設で半旗が掲げられた」(9月30日付時事通信)
シラク氏は引退後を含めて40回以上も来日したほどの親日家。大相撲が大好きで、優勝力士へのフランス共和国大統領杯(シラク杯)を創設したり、愛犬に「スモウ」の名をつけたりしていたことも、事細かに報じられました。現職時代には、京都に「カノジョ」がいたという話も囁かれていたほどでした。
しかし、です。上記の時事通信の記事を読んで違和感を覚える方も少なくないでしょう。これほど親日家ぶりが報道されたシラク氏の国葬に、日本は国家元首級の人物を送らず、駐仏大使で済ませてしまったのです。これでは、いくら自分で「国際国家」や「世界のリーダーの一員」を標榜しようと、日本の国際感覚が疑われるのは間違いありません。
このような大人物の葬儀では、「弔問外交」という言葉があるくらい、首脳たちの接触が行われるのが常です。故人を偲ぶ、故人の思い出を語り合うという名目のもと、実は生臭い国益をかけたやり取りが行われたりします。
スケジュール的に可能であれば、安倍首相は国葬の場でプーチン大統領にシラク氏の思い出などを聞きたいと持ちかけ、食事くらいをともにしてさらに打ち解ける機会を持つことができたでしょう。そこまではいかなくても、フットワークが軽快な河野防衛大臣にゼロ泊3日の弾丸出張をしてもらうとか、小泉元首相に参列してもらえば、日本としてのきちんとした弔意を示したことになったと思います。
けれども、シラク氏の国葬に日本の存在感は感じられませんでした。これでは、まるで弔問外交という言葉さえ知らない国と思われても仕方ありません。
日本はこれまで、ロシアのエリツィン元大統領(2007年4月25日)、ローマ法王ヨハネ・パウロ2世(2005年4月8日)の葬儀の時、首相級を送らずに弔問外交で失敗しています。
ローマ法王の時は、川口順子首相補佐官が派遣されましたが、これについて鈴木宗男衆議院議員(新党大地)は2007年5月、国会で質問を行い、政府側は出席した各国の首脳について「米国からブッシュ大統領、英国からチャールズ皇太子及びブレア首相、フランスからシラク大統領、ドイツからケーラー大統領及びシュレーダー首相、イタリアからチャンピ大統領及びベルルスコーニ首相、カナダからマーティン首相、ロシアからフラトコフ首相ら」と答弁しています。むろん川口さんは首相補佐官ですから。大国の首脳と会談することはできませんでした。
エリツィン元大統領の時は、「葬儀に間に合うエアラインの便がなかった」というのが理由として説明されました。しかし、その当時でも長距離を飛べるビジネスジェットを13機、政府は保有していたのです。
航続距離の長い順に言えば、ガルフストリームV(海上保安庁が2機保有、12000キロ)、グローバルエクスプレス(国土交通省が飛行点検機として2機保有、11000キロ)、ファルコン900(海上保安庁が2機保有、7400キロ)、ガルフストリームIV(国土交通省が飛行点検機として2機、航空自衛隊がU-4として5機保有、6500キロ)。どの機体も、途中で1~2回給油すればエアラインと同じ飛行時間でモスクワまで飛ぶことができたのです。
シートがエコノミー仕様でVIPに申し訳ないとか、機材を搭載していて狭苦しいとか、色々な「飛ばない」理由が挙げられましたが、定期点検に入っている以外は飛ばすのが国家というものです。国家の任務として「特使」には我慢してもらうのです。いまは国交省のグローバルエクスプレスとガルフストリームIVはセスナサイテーション(航続距離3300キロ)に変更され、ファルコンも5700キロを飛べるファルコン2000が3機導入されようとしています。
そんなことを知ってか知らずか、私の目に触れたマスコミには、日本の弔問外交のお粗末ぶりに触れることもなかったようです。私は安倍首相の「地球儀を俯瞰する外交」に賛成してきた立場ですが、今回の失態について安倍さんはどのようにけじめをつけるのでしょうか。(小川和久)
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