MAG2 NEWS MENU

このままでは莫大な赤字?「楽天モバイル」が一刻も早くすべき事

ついに始動した楽天モバイルの無料サポータープログラム。5000人の当選者限定とはいえ新しいキャリアのサービス開始に、価格競争の激化を期待する向きもありますが、道はたいへん厳しいようです。今回のメルマガ『石川温の「スマホ業界新聞」』では、著者でケータイ/スマートフォンジャーナリストの石川温さんが、KDDIが公開したローミング料金から、楽天独自の基地局整備が進まなければ莫大な赤字が出ると指摘。NTTドコモ、KDDI2社の社長の厳しい指摘とともに課題を浮き彫りにしています。

楽天MNOからKDDIに1GB500円のローミング料金――早急な全国ネットワーク展開なければ莫大な赤字発生か

KDDIが楽天モバイルへのローミング契約についての約款を公開。それによると、データローミングの通信料金が1GBあたり約500円(1パケットあたり0.0000596円)であることが明らかにされた。

この設定は、楽天モバイルユーザーがKDDIに支払うローミング料金となっている。そのため、楽天モバイルが実際にKDDIに支払う額とは異なるが、実態はあまり違いはないだろう。KDDIとしては、データチャージカードの1.5GBが1650円となっていることから0.5GBで約500円という設定が妥当であるとしているようだ。

楽天モバイルが10月から開始している「無料サポータープログラム」では毎月100GBのデータ通信が無料となっている。ただし、追加のデータ容量も無料であることから、実質使い放題という扱いだ。仮にサポーターが、100GBをKDDIローミング圏内ですべて使い切った場合、楽天モバイルはKDDIに5万円近いローミング料金を支払うことになる。

この設定は、無料サポータープログラム期間だけでなく、本格的な商用サービス時も適用され、2026年3月末まで継続されることを考えると、楽天モバイルのことがちょっと心配になる設定だ。商用サービスでユーザーから料金を徴収したとしても数千円程度であることは間違いない。確実に赤字が出るのではないか。だからといって、ユーザーに「auローミング料金」を基本料金とは別に負担してもらうわけにもいかないはずだ。

NTTドコモやKDDIが設定してる30GBの料金プランを作った場合、ローミングで使われたら1万5000円の負担になる。この設定金額を見てしまうと、楽天モバイルが「使い放題」のような料金プランを提供するのは現実的ではないような気がしてならない。

ローミング収入に対して、KDDIの高橋誠社長は「楽天モバイルはスロースタートになってしまったが、ローミング料金は定額の部分と従量の部分があるので、それに従って頂戴することになる。ローミングされ具合という面では、現状では東京23区を出ると、概ね、我々のネットワークを経由して繋がることは間違いない。あとは地下鉄やビルなどは貸しています。楽天モバイルは1.7GHzでエリアを作るので、しっかり整備しないことには、屋内浸透は厳しいのではないか」とした。結局のところ、「楽天は一刻も早く全国に基地局を整備しましょう」ということに尽きるようだ。

楽天の本格参入延期にNTTドコモとKDDIの両社長がコメント――「仮想化と実際のネットワークを作りは別問題

新聞などの一般メディアでは「10月に楽天モバイルが本格的に参入し、激しい料金競争が起きる」と書き立てていたが、結局、楽天は「無料サポータープログラム」というかたちでのスタートしかできず、料金競争はお預けになったかたちだ。

しかし、ほとんどの業界関係者が「楽天モバイルがすぐに既存3社と肩を並べるネットワーク品質を構築するのは難しく、料金競争など起きるわけもない」と冷ややかに見ていたのは間違いない。

楽天のスモールスタートをNTTドコモとKDDIはどう見ていたのか。当然、本音は語ってはくれないが、今週、両社の決算会見があったので、吉澤和弘社長と高橋誠社長にぶつけてみた。

吉澤和弘社長は「私自身は無料サポータープログラムは体験していないが、いろいろな報道などを見る限りは、エリア構築が十分ではないのかなという印象を受ける。キャリアとしての基本中の基本はつながるということだと思う。サービスが本格的に立ち上がる時期がいつになるか分からないが、本格スタートに向けて立ち上がってくると考えてる」とした。

ローミングパートナーである高橋誠社長はちょっと手厳しい。「今年の春先からずっと言っていることではあるが、仮想化ネットワークと、実際にネットワークを作ることは別問題。基地局の整備はそう簡単なことではない。10月1日に基地局が揃うとは思っていなかったので、『そうだろうなぁ』という感覚。ただ、話を聞く限りは、かなりの体制でやっているようで、いま1000から2000の間だろうが、これから2000、3000と基地局の数はこれから増えてくるだろう。私たちとしては来年度に向けて、引き続き気を引き締めてやっていきたい」とした。

NTTドコモとしては、楽天がMVNOをやりながら、MNOを本格展開する立場を快く思っていないのは相変わらずだ。吉澤社長は「現状、無料サービスだが、キャリアとしてのサービスを開始した。電波という資源を配分され、それを使って自分たちがネットワークを作っていく訳だ。基本的にはキャリアは配分された周波数を有効に使い、そこにお客さまを収容するべき。ネットワークの構築や周波数を有効利用する技術の導入に向けた努力をしないで、MVNOを提供し続けるのはいかがなものか

「そうは言いつつも、MNOとしてやっていくからには、いつかはMVNOとしての立場を解消するべきだと思う。今後、MVNOサービスをどうしていくのか、話し合いを進めるつもりだ。この問題は総務省にも投げている。ただし、これは楽天モバイルに限ったことではない。KDDIの完全子会社であるビッグローブや、ソフトバンクの子会社であるLINEモバイルはドコモ回線を使ったMVNOサービスを今でも提供している。これらの事例も含めて『どうするべきか』ということだ」

吉澤社長は、楽天のMNOを開始しながらMVNOを展開する立場に苦言を呈すが、実際にアクションを起こしてMVNOを強制的に巻き取るかといえば、そんなことはなさそうだ。楽天モバイルは現在、220万を超える顧客基盤を持つ、NTTドコモにとっても重要な顧客であることは間違いない。この回線数が一気に減るのはNTTドコモにとっても困ってしまうわけで、「声は上げるが、何もしない」というのが現実解なのではないだろうか。

NTTドコモとしては、本来、楽天モバイルは同社の最大のMVNOになることで、KDDIとソフトバンクとの「サブブランド対抗」という位置付けにできたのかもしれない。それが裏切られ、KDDIにローミング契約をうまいこと持っていかれたこともあり、NTTドコモとしては楽天とKDDIの関係を面白くないと思っているのかもしれない。

image by: rafapress / Shutterstock.com

石川 温この著者の記事一覧

日経トレンディ編集記者として、ケータイやホテル、クルマ、ヒット商品を取材。2003年に独立後、ケータイ業界を中心に執筆活動を行う。日経新聞電子版にて「モバイルの達人」を連載中。日進月歩のケータイの世界だが、このメルマガ一誌に情報はすべて入っている。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料お試し登録はこちらから  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 石川温の「スマホ業界新聞」 』

【著者】 石川 温 【月額】 初月無料!月額550円(税込) 【発行周期】 毎月 第1土曜日・第2土曜日・第3土曜日・第4土曜日(年末年始を除く) 発行予定

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け