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安倍政権の八方塞がり。北方領土問題解決も改憲もままならぬ惨状

これまでも「プーチン激怒、ブンむくれ金正恩。安倍首相の外交が失敗続きの理由」や「内閣支持率が10ポイント急落。遠のく改憲、近づく安倍政権の終焉」等で、安倍首相の外交面での失策や改憲が無理筋であることを指摘し続けてきた、ジャーナリストの高野孟さん。今回も高野さんはメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』で、安倍政権の「やっているフリ」外交を具体例を挙げ批判するとともに、首相悲願の改憲を含め、現政権が何一つ「レガシー」を残せぬまま終焉を迎えるであろうとし、その理由を記しています。

※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2019年11月4日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール高野孟たかのはじめ
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。

安倍政権の行方に灯った「黄信号点滅」──もうどう足掻いてもレガシーは作れない

安倍晋三政権の末期症状を象徴する出来事の1つが、10月27日に挙行された日露共同経済活動の「初のパイロット事業」と位置づけられた「北方領土ツアー」である。

残念極まりない見せかけの「北方領土ツアー」

安倍首相が昨年末から外交上の目玉とすべく取り組んだ「2島返還方式による北方領土交渉打開のシナリオは空振りに終わり、6月の日露首脳会談では日露共同経済活動を進めていくことのみが確認された。共同経済活動と言うからには、シベリアの天然ガス開発など大型案件でも飛び出すのかと思いきや、その最初の事業は、日本から客を募って国後・択捉への観光ツアーを行うことであり、その何が面白いのかと言えば、同じビザなし渡航であっても従来からの「墓参」目的とは違って初めての観光目的だというにある。

ところが、大手の観光業者はどこも乗ってこず、入札を開くこともできないまま、官邸が「ワールド観光サービス」の菊間潤吾会長に泣きついて無理矢理実現した。ツアー代金は34万円で、50人を一般公募でなく同社が「秘境観光ファンを一本釣りした」(月刊誌「選択」11月号情報カプセル欄)というが、実際は北海道職員や運動関係者などを掻き集め、しかもこの料金では採算が合わないため観光庁の予算から穴埋めしなければならないという悪戦苦闘だった。

さらに、悪いことは重なるもので、当初は10月9日から7泊8日で北海道内の観光名所を2日間巡った後、11日に根室を出て国後・択捉を旅し、16日に帰るという日程で組まれたが、ロシア側の技術的事情で延期、改めて10月29日根室発、2日間を国後で過ごしてから11月1日に択捉に渡ったが、悪天候のため2時間居ただけで引き返さざるを得ないという惨憺たる旅となった。かくして「北方領土は後退する一方なのに、交渉が進んでいると国民に錯覚させる官製の『見せ掛けツツアー』」(「選択」)であることが露呈された、お粗末の一席となったのである。

「やっているフリ」で国民を騙し続けられるのか

ここに、物事の本質を掴んで大きな戦略を立て、国会と国民の同意を積極的に求めて世界に向かって正々堂々と交渉を進めていくという本来あるべき政治からは対極にある安倍政治の惨めな姿がある。このことは、本誌は昨年10月から繰り返し指摘し、対ロシアでも対国民でも、安倍首相の北方領土交渉は失敗するに決まっていると分析してきたので、これ以上繰り返さない。

とはいえ、この「やっているフリ」は対露外交だけのことではなく安倍政権の体質そのものであり、いくらマスメディアの協力があるとはいえ、こんなものにいつまでも国民が騙され続けているのか、もうウンザリでどうでもいいやと諦めているのかは判らないが、何のかんのと言って今月20日には桂太郎を超えて歴代首相として最長の在任期間を記録することになる。

「改憲」はレガシーとならないことがほぼ確定

実はこの北方領土ツァーの無理矢理は、安倍首相が3,000日を超えようかという任期の長さにも関わらす、これという歴史に残る遺産レガシーを何一つ残せそうにないことへの焦燥の表れである。

北方領土交渉と前後して「日朝首脳会談」というテーマがあった。安倍首相は積年、北朝鮮を拉致問題を理由に露骨に敵視し、「対話のための対話は不要で、圧倒的な(軍事的・経済的)圧力を掛け続けることで米国と100%一致している」と国会でも国連総会でも豪語し続けてきた。ところが、トランプ米大統領が北との対話に転じ「金正恩とフォール・イン・ラブ」とまで言い出すに至って、捨てられた正妻が錯乱したようになって、では今度は一体何%、米国と一致することになったのかの説明もないままに、「私が自ら金正恩委員長と向き合いたいとか言い出す始末である。

しかしそれもまた、口先だけの「やっているフリ」で、何ら具体的な外交的な打開策を講じている訳でもないから、成果が上がることはない。そこで一転してプーチンとの“親密な”関係に頼って北方領土をクローズアップさせ、参院選前までの短期に成果を得ようとしたがこれもダメ。結局、自らの原点とも言うべき「改憲」でレガシーを達成するしかないかというのが参院選後の安倍首相の思いだったのだろう。しかし、秋の臨時国会が始まるまでの間に、すでに改憲は軌道に乗らないことが次第に明らかにとなってきた。それでますますオロオロし、「やっぱり北方領土で何か成果を出さないとまずいんじゃないか」と一層軽薄に「やっているフリ」症候群を発露したのが今回の「北方領土ツツアー」のお粗末だった――というのが脈絡である。

安倍首相流の「改憲」が無理筋であるということも、本誌はさんざん書いてきたので詳しくは避ける。

閣僚2人辞職はすでに黄信号点滅

そういう地合いの中での閣僚2人の相次ぐ辞職というのは、深刻極まりないことで、すでに政権として黄信号点滅。これでもう一人、例えば萩生田光一=文科相が後に続くことになれば、黄信号点きっぱなしになり、そこに突っ込んでいけば交通違反。安倍内閣は一気に瓦解に向かうだろう。

年末か年始に解散・総選挙を打って局面を打開するか?などと未だに期待を繋いでいるのは親安倍メディアだけで、その可能性はすでに封じられた。理由は単純で、この流れの中で無理に総選挙に打って出てもテーマは「政権の延命」という安倍首相の自己都合以外には何もないことが見え透いてしまうので、自民党は惨敗するしかないからである。それを何とか取り繕うために、安倍首相は「改憲が争点だと言い募って勝負を賭けたいのかもしれないが、自民党の伊吹文明=元衆議院議長は24日の二階派の会合で、改憲を争点にした解散・総選挙は違憲だとの認識を示した。「改憲の発議権は国会にあり、解散権は内閣にある。(首相が)自分の権限の外にあるものを理由に自分の権限を行使するのは許されない」と。

これは、言われてみればその通りで、首相は行政の長として憲法遵守義務があるだけで、自分の考えに沿った改憲をテーマにして総選挙を打つなどもっての外。改憲を国民に問いかけることができるのは国会の3分の2を超える合意のみである。こういう原理原則に立ち返って安倍首相の盲動を抑える言葉が、自民党の大長老から発せられたということ1つで、すでに安倍首相の改憲策動は封じられたといって過言ではない。

何一つレガシーを作れないまま、これがダメならまたあちらという具合に、ただバタバタして無駄に在任期間を過ごしすだけの安倍政権は、私の直感で言えば、いくら長くても来夏の五輪後までに終わる

image by: 自由民主党 - Home | Facebook

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早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。

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