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甘い取材が招く歴史誤認。図表でも誤報が現れたメディアの大罪

「ニュース情報」というと、どうしても記事そのものに目を奪われがちですが、同時掲載されている図や表も立派な情報です。あるニュースに掲載された表を例に誤報の危険性を語るのは、メルマガ『NEWSを疑え!』の著者で軍事アナリストの小川和久さん。小川さんは、表を用いて簡素化する前に丹念な取材を経たうえで表を作成することが重要、との姿勢を前面に出し、誤報が誤報を招き史実化することに対しても警鐘を鳴らしています。

誤報は図表にも現れる

記事そのものではないのですが、記事と一緒に掲載されている図表や写真、写真説明に気になる情報や誤報が含まれていることがあります。10月31日付読売新聞朝刊は次の記事を掲載しました。

公明 自衛隊派遣に注文続々…党内論議 中東は「重要」、一定理解も

公明党は30日、外交安全保障調査会などの合同会議を開き、政府が検討している海上輸送の安全確保に向けた中東への自衛隊派遣について、党内論議に着手した。派遣目的の明確化などを求める注文が相次いだため、政府に対し詳細な説明を求める構えだ。(中略)

公明党が自衛隊の海外派遣について慎重に吟味するのは、国連平和維持活動(PKO)への参加やイラクの人道復興支援などを巡り、支持母体である創価学会の説得に苦慮してきた歴史があるからだ。同党は『平和の党』の看板を掲げており、支持層には『自衛隊を派遣すれば紛争に巻き込まれかねない』と懸念する声も根強い。(後略)

どこが気になったかというと、記事の横に掲載されていた表です。自衛隊の海外派遣をめぐる主な出来事と公明党の対応、として、次の3点を挙げています。

いずれも、公明党が自民党政権の突出に「歯止め」をかけたと自負している出来事です。

私もそれを評価しているのですが、PKO協力法のくだりは、この表の通りだと「誤報」になってしまいます。もっと言うと、これが「真実」ということになってしまうと、歴史をねじ曲げることになりかねないのです。

PKO5原則とは、PKO協力法(国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律、1992年6月15日成立)に示された基本方針で、以下の項目で構成されています。

  1. 紛争当事者の間で停戦合意が成立していること。
  2.  当該平和維持隊が活動する地域の属する国を含む紛争当事者が、当該平和維持隊の活動及び当該平和維持隊への我が国の参加に同意していること。
  3.  当該平和維持隊が特定の紛争当事者に偏ることなく、中立的立場を厳守すること。
  4.  上記の基本方針のいずれかが満たされない状況が生じた場合には、我が国から参加した部隊は、撤収することが出来ること。
  5.  武器の使用は、要員の生命等の防護のために必要な最小限のものに限られること。

このPKO5原則、実を言えば公明党が関与するより前に、自民党の有力政策集団「自由社会フォーラム(FLS)」が作成し、公明党とすり合わせて生まれたものなのです。

宮澤喜一政権のもと、PKO協力法が成立に向けて動いている一方、1992年4月2日の段階になっても、肝心の自衛隊派遣の準備は防衛庁・自衛隊ともに未着手の状態でした。

それを陸上幕僚監部で確認した私は、宮沢首相の官房副長官役を務めていた浜田卓二郎代議士に伝えました。浜田氏こそFLSの代表で、谷垣禎一氏、高村正彦氏といった若手の有力議員を率いて、自民党内で大きな発言力を備えつつありました。FLSは浜田議員が病気のため政界から身を引いたことで解散しましたが、多くの有力議員を輩出しています。

宮沢首相の了解のもと、浜田氏と私は陸上幕僚監部の聞き取りを行い、カンボジアの情報収集など具体的な準備が始まることになったのです。

そのとき、FLSの事務局長だった小沢鋭仁氏(のちに民主党政権で環境大臣)とFLSのスタッフたちがまとめたものが、最初のPKO5原則なのです。

PKO5原則が閣議で了解された直後、FLS事務局から私のもとに「しばらくは他言無用に願います」と記されたFAXが届き、いまも手元にあります。

正しい報道ということになれば、ここまで踏み込んだものでなければなりません。今回の読売新聞の記事の場合、表ということなので経過の説明は無理でしょう。しかし、FLSの活動にまで踏み込んだ取材が読売新聞側にあれば、もう少し違った表現になったのは間違いありません。

ジャーナリズム論に関わる立場として、このような形で誤報が誤報を生み、あたかも歴史の真実であるかのように定着していくことは避けなければならないと思っています。

このような事態は、どこにでも転がっていると思いますが、歴史を正確に編んでいくためにも、政府に記録を残させることの重要性を強調しておきたいと思います。

image by: GagliardiImages / Shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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