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北方領土問題の解決なるか?プーチン「引き分け発言」真の意味

一時的に盛り上がった北方領土問題解決のムードでしたが、進展がないまま2020年を迎えてしまいました。しかし、ロシアのプーチン大統領が、去年の年末恒例の記者会見で平和条約交渉について『「引き分け」でなければならない』と述べ、北方領土返還時の懸念を示したのはキッカケとなるかもしれません。メルマガ『NEWSを疑え!』を主宰する軍事アナリストの小川和久さんは、この「引き分け」の意味を過去の事例から解説。安倍首相が任期中に歴史的業績を残すために駆使すべき外交テクニックを提言しています。

安倍首相が歴史的業績を残すには

はかばかしくない北方領土問題について、ロシアのプーチン大統領は先月19日、4時間にわたる年末恒例の記者会見の中で、あらためて持論を展開しました。

「ロシアのプーチン大統領は、年末恒例の記者会見で、日本との平和条約交渉について『「引き分け」でなければならない』と述べ、日ロ双方が受け入れ可能な解決策を見いだすべきだとする立場を確認しました。一方で、北方領土の島々を日本に引き渡した場合、日米同盟によってアメリカ軍が展開することにあらためて懸念を示しました。(中略)   一方で、アメリカが将来的に地上発射型の中距離ミサイルのアジアへの配備を目指していることについても言及し『島々にアメリカの新しい攻撃兵器が配備されないという保証はどこにあるのか』と指摘して、島々を日本に引き渡した場合、日米同盟によってアメリカ軍が展開することにあらためて懸念を示しました」(12月19日NHK)

これに対して、日本政府からの具体的なコメントはありませんでした。

そこで、おさらいです。おなじみ西恭之さん(静岡県立大学特任助教)が繰り返し述べてきたドイツ最終規定条約に準拠すれば、返還された北方領土への米軍の駐留や中距離ミサイル(INF)へのロシア側の懸念は払拭されるはずだからです。

東西ドイツの統一に当たり、西ドイツ、東ドイツ、米国、ソ連、イギリス、フランスの6カ国は1990年9月、ドイツ最終規定条約を締結しました。

この条約の第5条によれば、東ベルリンと東ドイツに駐留しているソ連軍が1994年末までに撤収したあとは、旧東ドイツ地域とベルリンへの外国軍隊の駐留と核兵器の展開が禁止されており、以来、25年間にわたって守られています。ソ連軍は1994年8月に撤収を完了しました。

返還された北方領土についても、日本、ロシア、米国という関係3カ国で同じような内容の条約を結べば、米軍の駐留と中距離ミサイルの配備というロシア側の懸念は払拭されるはずです。現在も機能している条約が前例ですから、ロシア、米国ともに反対しにくいと思います。

問われる安倍首相の外交テクニック

外交テクニックとしては、これを正面からぶつけるのではなく、安倍首相とプーチン大統領の首脳会談のおりなどに、それこそ「頭をかきながら」、相手の顔を立てる姿勢で提案するとよいと思います。

安倍首相が、「色々と調べてみたら、ドイツ最終規定条約が出てきた。当然、大統領は知っていると思うが、日本側は気がつかずにいた。お恥ずかしいことだが、ここはひとつ、ドイツ最終規定条約の考え方を北方4島に当てはめてみてはどうだろうか」

そして、プーチン大統領が首を縦に振ったら、これまた水面下で米国側と話し合い、「米国の戦略的根拠地である日本列島が北方4島まで広がる」という理解のもと、ドイツ最終規定条約に準拠した3カ国条約の締結を受け入れさせるのです。

米国側が受け入れを認めたら、あとはプーチン大統領主導の形で「3カ国条約の締結が北方領土返還の条件」と打ち上げてもらい、今度は水面に出た形で米国を加えた3カ国の協議に入り、条約締結へと進んでいくのです。

プーチン大統領の「引き分け」発言は、ロシアが中国やノルウェーと行ってきた「面積等分」による領土問題解決の手法を北方4島にも適用しようとしていると考えてよいでしょう。これは、谷内正太郎前国家安全保障局長の持論でもあり、これによって歯舞、色丹ばかりでなく、国後島の全部と択捉島の20%が戻ってくるわけですから、日本にとっても悪い話ではありません。

安倍首相が4選を考えていないとしたら、任期までに歴史的業績を残すうえで、面積等分による北方領土返還は具体的な可能性を持つテーマだと思います。(小川和久)

image by: Shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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