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自民よりタチが悪い。野党がかんぽ不正事件を本気で追及しない訳

先日掲載の「令和元年最後の闇。かんぽ不正事件はどこまで腐っているのか?」等でもお伝えしている通り、膿の噴出が止まらないかんぽ生命を巡る問題。なぜこのような言語道断な「事件」が起きてしまったのでしょうか。米国在住の作家・冷泉彰彦さんは今回、自身のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』で、3つの論点からこの問題の分析を試みています。

「かんぽ生命」スキャンダル、3つのナゾとは?

かんぽ生命に関しては、高齢者をターゲットに不適切な販売が行われていたというスキャンダルが出たと思ったら、今度は、その問題に対する総務庁の「処分案などの情報がかんぽ生命側に漏洩していた」というスキャンダルが飛び出しました。

その結果として、総務省の鈴木茂樹事務次官がクビになっています。どんどん悪が暴かれて、どんどんウミが摘出されているようで、何となく「良いニュース」のように受け止められていますが、本当なのでしょうか?

どうもこのニュースの全体に不自然な感じがしてなりません。3つ考えてみたいと思います。

1つ目は、今回の「情報漏洩」です。報道によれば、漏洩の対象はかんぽ生命の親会社にあたる日本郵政の鈴木康雄副社長が相手で、その鈴木康雄副社長が10年前に総務省の事務次官だったことから、「同じ総務省、同じ郵政出身、同じように事務次官まで上り詰めた」関係で、しかも10年の差のある先輩・後輩だったので、「情報漏洩」があったというのです。

ですが、よく考えてみれば、悪いことをしたので処分するという情報を事前に漏洩しても、そんなに実害はないはずです。特に今回の不適切販売の問題では、少なくとも証拠隠滅はできないように監査がスタートしているはずです。

また「どのぐらいの処分になるのか」が事前に漏洩していたとして、該当する人物をコッソリ左遷しておけば、処分を逃れることができるとか、あるいは処分対象のポストにある人物を異動させて、その人物に「代理で処分されてもらう」というようなヤクザまがいの行動がされるということも、さすがに無さそうです。

処分案が事前に漏れている…というような言い方をすると、ずいぶんスキャンダラスに聞こえますが、よく考えると、この問題はそれほど深刻ではないと思われます。

むしろ、怪しいのは「もっと前から総務省の行動が郵政サイドに漏れていた」という可能性です。それこそ、問題が暴露されるほとんど最初の時点から監督官庁の動きがバレていたとか、あるいは郵政サイドと「ツーカー」でやっていたとなると、これは深刻です。それこそ証拠隠滅など、悪質な行為が起きていた可能性があるからです。その辺を曖昧にして、高市大臣のパフォーマンスで幕引きというのでは、余りにお粗末です。

2点目の疑問は、どうして「無理な不適切営業が必要になったのか?」という問題です。そもそも民営化以前の簡保というのは、猛烈なシェアを誇っており、日本最大の生保であったわけです。そのスケールは今でも維持されているはずで、むしろ民営化によりコストダウンが進んだり、運用の幅が広がったり、収益拡大の要因はあっても、「無理な営業をしないといけない」ぐらい「経営が苦しい」というのは不自然です。

また、経営が苦しくないのに、首脳陣が「より強欲に」なって無理な営業を強いたというのも妙です。そこで浮かび上がってくるのが、郵便局の経営です。郵便局に関しては、民営化のプランの中では「郵便局会社」という独立会社にする計画でした。つまり郵便の会社、簡保の会社、郵貯の会社ができていって、それぞれが独立していって、そうした3つのサービスを売る郵便局というのは、販売専門の独立会社になっていくはずだったのです。

ところが、2012年に当時の民主党政権が郵政民営化の骨抜きをやったわけです。その時は、かんぽ生命と、ゆうちょ銀行の株を100%売却して民営にはしない」という決定がされたのですが、同時に「郵便局会社郵政会社が1つの会社にされてしまいました。

ここからは私の推測ですが、その後、予想を上回るスピードで「郵便事業の低迷が進んでいったわけです。つまり、ネットの普及による郵便の利用低迷と、ネット通販の拡大による運賃引き下げ圧力が襲ったのです。そこで、郵便事業がどんどん苦しくなったわけですが、郵便局会社は郵便事業と一体化しているので、その全体の経営が苦境に陥ったと思われます。

もしかしたら、その郵便局の営業成績について、郵便事業の損を保険の利益で埋めるという無理な動きになったのかもしれません。そうなると、悪いのはかんぽ生命ではなく、郵便と郵便局を管轄する「日本郵便」の側に責任があるし、同時に全体を統括する「日本郵政」に大きな責任があるわけですが、その原因が民主党による民営化の骨抜き」にあったという考え方もできると思います。

3つ目は、今回の「不適切契約」の多くが「保険の切り替え」がらみの問題となっているという点です。この問題の背景には「かんぽ」という名前の元になった「簡易保険の特殊性があります。

簡易保険というのは、民営化前の郵便局が販売していた生命保険ですが、どうして「簡易」なのかというと、生命保険に入る場合に、普通なら必要な「医師の診断書」などが不要だからです。ところが、そのままでは「深刻な病気を抱えた人に通常の保険料で保険を販売する」というリスクが発生してしまいます。

そこで民営化の際には、この「簡易保険」を止めるということになりました。つまり、新しく生命保険を買う人はちゃんと医師の診断書を出さないといけないという仕組みにしたのです。但し、民営化以前に「簡易保険」に入っていた人には、同じ保険を継続することで、そのまま保険に入り続けることができるとしています。

ということは、健康問題を抱えた人が安い保険料で生命保険に入り続けているわけで、民営化後の「かんぽ生命」には、その「旧契約」を「新契約」に切り替えていくというのが「経営上の課題」であった可能性は十分にあります。そして、そのような「切り替えを全国の郵便局を通じて進めていたと考えられます。

仮にそうであれば、多くの高齢者や健康問題を抱えた人にとっては、契約を切り替えることは不利益になる可能性がありますが、それを承知で進めていた可能性です。勿論、二重契約などは論外ですが、そもそもかんぽ生命としては、コストの高い加入者、つまり「民営化以前の簡易保険」を継続しているが、高齢になったり健康問題が出ている加入者については、できるだけ「診断書の必要な」そして「病気であればリスクの分だけ保険料が高くなる」ような新契約への切り替えを進めたい、そうした意図を持った経営をしていた可能性があるわけです。

単に個別のノルマがどうとかいう問題ではなく、最初から「簡易保険をそのまま引き継ぎたくない、という方針があった可能性です。仮にそうであるのなら、「かんぽ」などという平仮名にした社名は誤解の元ですから、今回の処分の一環として社名変更をするぐらいの構えが必要ではないでしょうか。

反対に、どうしても「旧契約の加入者が高齢化して」しまったために、猛烈な保険金支払いリスクを抱えているのであれば、これは正直に開示して政策判断を仰ぐなり、やればよかったのです。ですが、それを正直にやってしまうと、郵政民営化そのもののタテマエが崩壊するのでできない、そんな事情もありそうです。

いずれにしても、この3点の論点を検討しただけでも、この「かんぽ問題」の複雑性がお分かりいただけたと思います。

そこで怪しいのが、野党の動きです。立憲民主党にしても、国民民主党にしても、旧民主党系の野党の側は、この大スキャンダルの追及に迫力が感じられません

例えば「かんぽ問題でNHKに圧力があった」という件は、野党によれば「NHKが自主規制したのが悪い」という話になっていますし、今回の総務次官の更迭問題では、「今後は天下りを止めさせよ」という人事の話にすり替えられています。

こうした動きを観ていますと、野党側としては自分たちが政権を担っていた際に「郵政民営化の見直し(骨抜き)」をやった、その際に「郵政会社と郵便局会社をくっつけた」ことが、問題の根っこにあることに気づきながら、その問題をごまかして逃げ回っているという印象です。

また、野党は旧郵政系の組合が今でも支持層になっていると考えられます。であるならば、「過剰なノルマを押し付けられた」ことへの抗議や批判に熱心になりそうなはずですが、そうでもありません。この点に関しては、もしかしたら、郵政民営化の現状が全てバレてしまったら相当なリストラになるので、様々な問題点を隠しているという可能性もあるように思います。

とにかく、郵政民営化の本当の目的は、小泉=竹中路線の中にあった「郵政、特に簡保と郵貯が強すぎる」ために、「民業が圧迫」され、更に「国民の資金が民間の事業資金に回らずに経済が衰退する危険」を何とかしようということでした。

これは日本のマネーにおける壮大な構造転換を狙ったものですが、結局は看板が民間になっただけで、資金の流れはそれほど変わらず、結果的には日本発のベンチャーなどに潤沢な資金が回ることはなかったのです。そうなると、郵政民営化というのは、相当程度「形式的な変化」で終わっていると言わざるを得ません。

いずれにしても、今回のスキャンダルについては「郵政民営化がいかに歪められ」「骨抜きにされてきたのかというのが核心であり、またそのような骨抜きの結果として大規模な「顧客への裏切り」が発生したという仮説をもって見てゆく必要があると思います。

image by: Ned Snowman / Shutterstock.com

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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