新型肺炎の拡大防止よりメンツを選んだ中国「WHO恫喝」の魂胆

 

2003年のSARS流行の際も、感染が蔓延しはじめた初期段階ではWHOから完全に無視されていました。WHOに感染者の発生を報告して情報を求めても、「中国から聞いてくれ」と、あくまでも台湾を中国の一省として扱おうとしたのです。

当時、台湾は、2003年3月14日に第1号のSARS感染者を通報していました。にもかかわらず、3月17日に国連主催の記者会見に臨んだWHO伝染性疾病部門のハインマン主任は、SARSの感染地域に台湾を挙げることはありませんでした。

これに対して、質問に立った記者の中には「台湾人は人ではないというのか」「台湾の人々は免疫が出来ていて感染しないとでも言うのか」と問いつめる者もあったといいます。さらに、「政治的要素によって台湾の状況に触れることを避けているのか」との質問に対して、ハインマン主任は「その質問が答えになっている」と答え、実質的にこれを認めたのです。WHOが台湾の状況をホームページに載せたのは、ようやく、この翌日のことです。

これまでSARSなど中国発の疫病が台湾で発生した場合、中国政府はしばしば「台湾同胞に必要な援助を提供したい」「台湾の専門家に情報や経験を提供したい」「台湾の医療技術は中国政府が面倒を見る」と、あたかも寛容であるかのような言辞を弄してきました。しかし、この意図は明確で、つまるところ「台湾に加盟の必要はない」と強調して、WHO加盟を妨害してきたにほかなりません。

「健康の追求は全人類が当然享受すべき権利であり……」と憲章に掲げ、おそらく各国の子どもたちが学校でそのように習っているに違いないWHOからして、今でも台湾の追放を積極的に進めているわけです。

2002年のWHO総会では、参加しに来た日本や欧米に在住する台湾人医師団を、会場をガードマンや中国関係者らが固めて入場を妨害するという暴挙すら行いました。東洋人を見ると中国語で話しかけ、それに反応があれば入場させない、反応せずに入場したとしても、アメリカのパスポートには出身地が記載されているため、パスポートをチェックして、台湾出身者をはじき出すということを行ったのです。

田代明裕(陳明裕)博士が率いる日本国籍で日本のパスポートを持つ台湾人グループさえ、会場中に配備した厳重な警戒態勢を駆使して、中国の役人が会場の外へ追放したのです。

もちろんWHOのこうした態度の裏には、台湾をあらゆる国際組織から追放することを公言している中国政府の力が働いています。中国は「あらゆる国際組織」、台湾が加盟するスポーツや文化に関する国際組織でも、台湾の名義を恣意的に改名させています。

2003年のSARS流行時は、台湾で感染が拡大し死者が2人出てから、ようやくWHOの専門家が台湾入りすることになりました(2003年5月2日)。台湾で最初の感染者が確認されてから1カ月半以上も経っていました。これに対して中国は、「中国政府は台湾同胞を含む中国人民の健康と福祉に大きな関心を持っている」と表明しました。こうして台湾は中国の一部であり、WHOに許可を与える立場であることをアピールし、その一方で、台湾でのSARS感染の再燃・急増への国際的な批判を回避しようとしたわけです。

2020年の新型肺炎においても、これほど感染被害が拡大しているにもかかわらず、中国は台湾に対して嫌がらせと圧力を続けています。しかし、前述したようにパンデミックは中国だけの問題ではありません。むしろ政治的理由で感染国を国際機関から除外する姿勢こそが、感染を拡大させている原因だと中国は自覚すべきです。

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