撮影賞などアカデミー賞3部門を受賞した映画『1917 命をかけた伝令』。第1次世界大戦の最前線でのある1日が描かれたこの映画を「一見の価値あり」と評価するのは、軍事アナリストの小川和久さんです。こういった映画を鑑賞することは、人類が犯した愚行を振り返り胸に刻む機会となると、主宰するメルマガ『NEWSを疑え!』に、第1次世界大戦の概略を綴っています。
第1次大戦のこと、どこまで知っているかな
映画『1917 命をかけた伝令』を観てきました。舞台は第1次大戦後半の西部戦線(フランス方面)。次第に劣勢になっていくドイツ軍は総退却の動きを見せます。それを追撃して、撃滅しようとはやるイギリス軍の連隊。しかし、それはイギリス軍をおびき寄せて返り討ちにしようとするドイツ軍の罠でした。それを、航空機からの偵察写真で見抜いたイギリス軍の将軍は、ドイツ軍を追う連隊に攻撃中止を命じるため、2人の若い兵士を伝令に立てます。死屍累々たる戦場、どこにあるかわからないドイツ軍が仕掛けた罠…。
結末は見てのお楽しみということですが、戦争という愚行を繰り返す人間という生き物について考えさせられる点でも、一見の価値がある重厚な作品です。
観ているうちに様々な思いが駆けめぐったのですが、そのひとつは第1次世界大戦そのものについて、昔、教科書で読んだ歴史的事実さえ曖昧になっていることでした。
確か、1914年にセルビアでオーストリアの皇太子夫妻が暗殺されたのがきっかけだったよな。その流れの中で、ドイツに率いられた枢軸側とイギリス、フランスなど連合国側が戦争状態に入り、アメリカも遅れて参戦したんだ。最後のほうでロシア革命が起きて、ロシアは戦力として期待できなくなった。これが1917年だったかな。いや、1918年?
1918年には、参戦したアメリカ兵が持ち込んだスペイン風邪が世界で猛威を振るい、収束した1919年までに5000万人から1億人という死者を出したのは、いまの新型肺炎に関連して調べたことだけど、スペイン風邪によって兵役適齢期の男性が足りなくなって、各国とも戦争を継続できなくなったというのは、本当なんだろうか?
私の記憶なんて、こんなものです。だから、できるだけ正確な知識を維持しようと、色々と調べまくるわけです。そこで簡単に要約しておくなら、第1次世界大戦は以下のようにまとめることができるようです。
- 戦争の期間(1914年7月~1918年11月)
- 連合国(イギリス、フランスなど)対中央同盟国(ドイツ帝国、オーストリア=ハンガリー帝国、オスマン帝国、ブルガリア王国)
- 史上最大の戦争のひとつで、7000万人以上の軍人が動員され、非戦闘員700万人を含む1600万人が死亡。
- きっかけは、1914年6月、南スラブ(ユーゴスラブ)統一主義者の青年によるサラエボを視察中のオーストリア=ハンガリー帝国の皇太子夫妻の暗殺(サラエボ事件)。
- 7月、オーストリア=ハンガリー帝国がセルビアに宣戦布告すると、ロシアが総動員をかけ、それに対してオーストリア=ハンガリー帝国と同盟関係にあったドイツが動員解除を要求したが、ロシアが拒絶したため、ドイツはロシア・フランス両国への侵攻を目的として総動員をかける。フランスはロシアと同盟関係にあり、オーストリア=ハンガリー帝国に対してセルビアを支持すると、ロシアに約束していた。
- 8月1日、ドイツがルクセンブルクに侵攻、ロシアに宣戦布告し、フランスも総動員をかける。フランスに侵攻するドイツ軍がベルギーの中立を侵したため、イギリスがドイツに宣戦を布告し、イギリスと同盟関係にあった日本もドイツに宣戦布告することになる。
- このあと、オスマン帝国とブルガリアが中央同盟国に、イタリア、ルーマニア、アメリカが連合国に加入する。アメリカは1917年に参戦。
- ロシアでは1917年3月に革命によって帝政が崩壊し、あとを受けたロシア臨時政府も革命で倒され、軍事面での敗北も続いたことで、ロシアは中央同盟国とブレスト=リトフスク条約を結んで戦争から離脱する。1918年になると、大攻勢をかけたドイツ軍が連合国軍に敗北し、オーストリア=ハンガリー帝国は休戦協定を締結、国内で革命が起きたドイツも休戦協定を受け入れ、大戦は連合国側の勝利に終わった。
- 日本は、ドイツ租借地があった中国・山東半島の権益を手に入れ、南洋諸島を委任統治領にしたほか、国際連盟の常任理事国になった。
雑なまとめで申し訳ありませんが、以上のことのようです。それから20年ほどの間に再び戦火が世界を覆い、第2次世界大戦は原爆投下による日本の降伏で終結します。
ときどき、歴史を振り返らないと、人間は愚行を繰り返すことが、改めて判ります。義務教育で、きちんと教える必要性を痛感させられます。(小川和久)
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