近づく五輪。「震災復興五輪」の看板がいまも正当と思えないワケ

 

同じく首都開催のロンドンで起こったこと

直近の夏季オリンピックで言えばロンドンが東京と状況的に似ていると言われるが、そのロンドンでもボランティアのことがちょっとした問題となった。ドタキャンや現場放棄が相次いだのだ。

当時、知り合いがロンドンに住んでいたこともあって、その時の話をさんざんに聞かされた。以下に紹介すると、とにかく最初は歓迎ムード一色だったそうである。ところが実際に始まってみると面倒なことばかりなのである。

東京同様、ロンドンの交通事情は悪い。中でも通勤時間帯の車の渋滞は通常でもバス専用レーンなどにより相当にひどい。ところがオリンピック期間中はそれに加えてオリンピック関係車輌専用レーンが設けられたためにさらに恐ろしいことになったのである。職場に着くとオフィスはピリピリムードで皆機嫌が悪い。それもこれもオリンピックのせいだ、ということになり「誰がボランティアなど」と一転して総スカンムードになったというのである。

その時は半分笑って話を聞いていたけれども、いざ自分たちが当事者になればやはり同じように思うのではないか、ということは容易に想像ができる。現代のメトロポリスでオリンピックをやればどうしたってこのような事態になるのかもしれない。

ただ、如何なる状況であっても日本人はこういったことの運営にはそつがない。きっとうまくやってのけるに違いない。それに関しての心配は全くないけれども、さあ問題は本当に「儲かる」かである。忙しい東京人のピリピリイライラを帳消しにしてあまりあるほどに「儲かる」かである。震災の復興を事実上後回しにした価値があるほどに「儲かる」かである。

特に後者に関しては厳正なる事後査定が必要であると思う。そうでなければ、結果として我慢を強いることになってしまった被災者の方々に実に申し訳のないことをしたことになる。

決まってしまったことはもうどうにもならないけれど、やはり自分の中ではどうしても「震災復興五輪」といった言辞を正当化することができないのである。それはきっと「東京の祭りよりも東北の日常」といった気持ちが心のどこかにあるからであろう。ただ、今はこのオリンピック誘致が将来の大悪手とならないことを祈るばかりである。

image by: kuremo / shutterstock

山崎勝義この著者の記事一覧

ここにあるエッセイが『8人ばなし』である以上、時にその内容は、右にも寄れば、左にも寄る、またその表現は、上に昇ることもあれば、下に折れることもある。そんな覚束ない足下での危うい歩みの中に、何かしらの面白味を見つけて頂けたらと思う。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料で読んでみる  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 8人ばなし 』

【著者】 山崎勝義 【月額】 ¥220/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎週 火曜日 発行予定

print
いま読まれてます

  • 近づく五輪。「震災復興五輪」の看板がいまも正当と思えないワケ
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け