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官邸の圧力か。報道ステーション大量追放を招いた「ある出来事」

テレビ朝日の看板番組「報道ステーション」による、10名ものディレクターの切り捨てが衝撃を呼んでいます。テレ朝は誰に忖度し、何を恐れているのでしょうか。元全国紙社会部記者の新 恭さんは今回、自身のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』で、「スタッフ大量追放」との関連を疑わざるを得ない昨年末のある出来事を取り上げるとともに、現在テレビ朝日の放送番組審議会委員長を務める意外な人物の実名を記しています。

報ステの制作スタッフ一斉追放は官邸の思惑通りか

テレビ朝日の「報道ステーション」が、とんでもないことになった。番組を支えてきたディレクターたち10人が3月末で契約を打ち切られ、ごそっと抜けるのだとか。

新聞労連、民放労連、出版労連などの「日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)」が2月13日に開いた集会「『報ステ』を問う」の録画を見て、これは単なる労働問題ではないと思った。

夜10時、くつろいで一日の出来事を振り返るのに、報ステは、うってつけの番組だ。たび重なる官邸や自民党本部の圧力に崩れかかりながらも、かろうじてニュースステーション以来のエンタテインメント性と批判精神を保ち続けてきた。その原動力は、長年にわたって番組制作にたずさわってきた外部の契約スタッフたちである。

「派遣」という不安定な立場ながら、これまで契約が続いてきたのは、番組に欠かせぬ人材であったからだろう。

ほとんどのテレビ番組は、下請けのテレビ制作会社やフリーランスのディレクターなど外部スタッフがつくっている。プロデューサーだけがテレビ局の社員ということも珍しくない。もちろん、報ステも同じだ。

自他ともに認める“手練れ”のディレクターらを、なぜ急に、「3月末で契約打ち切り」としたのか。テレビ朝日の内部で、今なにが起きているのか。

この方針が告げられたのは昨年12月だ。会社側が言うには「体制刷新」「人心一新」とのことだが、決まり切ったスローガンのようで、まったく説得力がない。

となると、どうしても昨年12月のあの出来事との関連を疑わざるを得なくなる。

12月10日放送の報ステ。「桜を見る会」の疑惑を取り上げるなかで、「与党内には早くも年越しムードが」のナレーションとともに、自民党の世耕弘成・参議院幹事長ら参院幹部3人が映し出された。

世耕氏が「説明できる範囲はしっかり説明をしたと」と言う場面のあとに、つなげられたのが次のシーンだ。

「(年内の会見は)いつまでやるんですか?」と記者が質問。ドリンク缶を開けながら世耕氏が「もう『よいお年を』というか…」と笑顔で返す。

これを見た世耕氏が激怒し、12月10日に、こうツイートした。

今夜の報道ステーションの切り取りは酷い。私は定例記者会見が終わった後、今日の会見が今年最後になるかもしれないという意味で「良いお年を」と言っただけなのに、それを桜を見る会をと絡めて、問題を年越しさせようとしているかのように編集している。印象操作とはこのことだ。

世耕氏の気持ちはわかるが、ふつう、このくらいのことで、テレビ局がビクつくことは、まずない。ところが、テレビ朝日は過敏に反応した。なんと、翌日さっそく報道局長が参院幹事長室を訪れ、世耕氏に謝罪したのだ。

世耕氏はさっそく勝ち誇ったようなツイート。「先ほどテレビ朝日報道局長が幹事長室に来訪し、謝罪がありました。…今夜の番組内で何らかの対応をするとのことです。放送内容を見て、謝罪を受け入れるか判断します」

現場のスタッフはどんな思いで、安倍政権に対するテレビ朝日幹部の弱腰な姿勢を受け止めたのだろうか。編集の仕方がまずかったかもしれないが、「桜を見る会」問題に、参院自民党が真摯に向き合っているとは思えない。

派遣スタッフ10人への契約打ち切りが告げられたのは、それから間もなくだったと思われる。

日本マスコミ文化情報労組会議は1月10日、「報道ステーションスタッフ契約打ち切りによる『番組解体』を許さない」と題する声明を発表した。以下はその一部だ。

今回、契約終了を一方的に通告されたスタッフは、ニュース担当のディレクターを務めていました。中東情勢や沖縄の基地問題、原発、災害、事件報道などに精通したメンバーです。番組の中核スタッフとして、時に政治権力などからの圧力を受けながらも、政治や社会の問題点に斬り込む日本有数の報道番組を支え、日本のジャーナリズムを体現してきました。

彼らを解雇するというのは、ただでさえかつてのような舌鋒が鈍っている「報道ステーション」の言論を、さらに政権寄りに変えようということにほかならない。

2月13日の抗議集会に参加した元TBS記者で立憲民主党の杉尾秀哉・参院議員はこう言う。

「テレビ報道で働くすべての人にとって旧ニュースステーション、報道ステーションは特別な番組です。記者は材料を集めてくる人。その材料を腕のいい料理人がコンテクストとしてつなげてゆく。長年そういう経験をしてきた手練れのディレクターが今回切られようとしている10人の方々です」

メディア対策に異常な関心を抱く安倍政権のもと、報ステをとりまく政治的圧力がいかに強くなったかはよく知られている通りだ。

記憶に新しいところでは、2015年1月23日、報ステのオンエア中、官邸からかかった抗議電話がもとで、コメンテーターの元経産官僚、古賀茂明氏が番組を降ろされた一件がある。いわゆる古賀氏の「I am not Abe」発言に対する官邸からの攻撃に、早河洋会長ら経営陣はもちろん、報道幹部は早々に屈し、統括チーフプロデューサーも配置換えの憂き目にあったのだ。

ところで、テレビ朝日の放送番組審議会委員長は誰かご存じだろうか。幻冬舎社長、見城徹氏である。意外、と思う方も多いだろう。

見城氏といえば、ベストセラーの仕掛け人であるが、本人を目の前にして照れもせず、安倍首相をヨイショしまくる“お座敷芸”にも長けている。

「信義に厚く、ウソが言えない。外交も歴代の総理でこれだけのことをやった人はいないですよ」「(安倍独裁と)悪く言われるのは、あまりにも実行力がありすぎるから」(2017年10月8日、AbemaTV)

見城氏率いる幻冬舎は山口敬之氏の『総理』や小川榮太郎氏の『約束の日 安倍晋三試論』など、安倍首相を持ち上げる本の発行でも知られている。

なぜその見城氏がテレ朝の放送番組審議会委員長なのか、いきさつはよく知らないが、早河会長との仲はすこぶる良いようで、テレ朝が出資し早河氏が会長を務める「AbemaTV」に「徹の部屋」なる番組を昨年6月まで持っていた。そこに出演者として安倍首相を招いたさいに繰り出したのが前掲の「絶賛コメント」の数々なのである。

早河会長は安倍首相やその取り巻きと会食を重ねているうちに、他の多くのマスコミ経営者と同じく、堕落の道をたどっていったと筆者は勝手ながら推測する。

1985年に久米宏氏の「ニュースステーション」を初代プロデューサーとして手がけ、その後、田原総一朗氏の「朝まで生テレビ!」を担当したジャーナリスト魂はどこかに消えてしまったようだ。

官邸とのつながりが深まり、番組のお目付け役である見城氏への忖度が強まるほど、早河会長らテレ朝上層部と、「報道ステーション」現場スタッフとの意識のギャップは広がっていったに違いない。

首相と頻繁に会食し、権力の甘い蜜のお裾分けにあずかったマスコミ経営者は、官邸の手の内に取り込まれてゆく。保身の虜になりがちな編集、制作部門の幹部は経営者の意向を嗅ぎ分ける能力を日々磨いている。そして、ついには政権への批判精神を脈々と受け継いできた番組の中核メンバーが、派遣切りで追放される。

黒を白と嘘をつき通しても総理大臣の地位にとどまることができる歪んだ政治状況を許しているのは、誰のせいなのか。今や定番となった結論「野党のふがいなさ」を使うのもいいが、マスコミの堕落はそれ以上に深刻なのではないか。

image by: Osugi / Shutterstock.com

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