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米国が激怒。中国高官「新型コロナは米軍が持ち込んだ」に猛反撃

これまでに200万人以上の罹患者を出し、世界最大の新型コロナウイルス感染国となってしまったアメリカ。その初動の遅れを批判されているトランプ大統領は、全責任を中国に押し付けるべく、情報戦を開始したようです。今回の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんが、現時点までの新型コロナウイルスを巡る米中の対立と、「中国悪魔化」路線を鮮明にしたアメリカの動きを紹介しています。

新型コロナ災、アメリカが【中国悪魔化政策】を推進する理由

新型コロナ災で、一つ大きく変わりそうなことがあります。それは、「中国のポジション」です。どういうことでしょうか?

世界は現在、第2次大戦以来、最大の危機に突入しています。すでに感染者は200万人を超えた。死者は、14万人を超えた。そして、IMFによると、今年の経済は、リーマンショック翌年の09年よりもっとひどい。1929年からはじまった世界恐慌並になる。身近な人が病気になっていく。身近な人が、亡くなっていく。自分が職を失う。自分が勤めていた会社が倒産する。金がなくなる。

世界中の人々は、「何でこんなことになったんだ!?」と問いかけます。人格者であれば、「犯人捜しをしても仕方ない。私は、自分でできることをしよう。人を助けよう。家族のために仕事をしよう」と思うかもしれない。しかし、そんな風に思える人は稀で、恐怖、怒りは、「答え」を要求します。

普通は、「為政者」が憎悪の対象になる。日本であれば、「政府が、中国全土からの入国制限するのが遅すぎたから感染が拡大したのだ」と。あるいは、「支援が遅すぎる、ケチすぎる」など。

今、全世界の多くの人たちが、恐怖と怒りにとらわれていて、「犯人」を求めています。

さて、アメリカのトランプ大統領もその対応のまずさを厳しく批判されています。なんといっても、アメリカの感染者数は66万人で世界一なのですから。とはいえ、トランプさんは2月初め時点で、「中国全土からの渡航制限」を開始していました。個人的には「叩かれてかわいそうだな」と思います。

トランプさんのすごいところは、「自分の責任を認めない」ところです(それが「いい」とはいいません)。他の犯人を見つけたのです。一人目の犯人は、新型コロナウイルスの存在を隠蔽した中国政府です。二人目の犯人は、中国に忖度し、新型コロナウイルスの危険性を過小評価しつづけたWHOです。

トランプは、「中国悪魔化」に動き出した

3月12日、トランプとアメリカ政府高官たちを激怒させる「世界史的大事件」が起こりました。中国外務省の報道官が、「新型コロナウイルスを武漢にもちこんだのは米軍の可能性がある!!!!」と発言したのです。

新型ウイルスは米軍が武漢に持ち込んだ、中国報道官が主張

3/13(金)15:02配信

 

【AFP=時事】中国外務省の報道官が12日夜、新型コロナウイルスは米軍が中国に持ち込んだ可能性があるとツイッター(Twitter)に投稿した。主張を裏付ける証拠は提示していない。

中国は、今回の世界的歴史的大災害の「犯人」にされたくない。それで、「アメリカが犯人ということにしてしまおう」と。激怒したトランプは、新型コロナウイルスを【中国ウイルス】と呼ぶことにしました。3月18日の共同。

トランプ米大統領は17日、新型コロナウイルスを「中国ウイルス」と呼んだことに中国が反発しているのに対し「ウイルスは中国から来たのだから全く正しい呼称だと思う」と正当化した。ホワイトハウスでの記者会見で語った。

そして、そう呼ぶさらなる理由に言及しました。

「中国が『ウイルスは米軍が持ち込んだ』と偽情報を流すから来た場所の名前で呼ぶべきだと言った」と反論した。
(同上)

中国が「ウイルスは米軍が持ち込んだ」とフェイク情報を拡散しているから、対抗しているのだと。

これ、正しいですね。日本政府みたいに、スルーしたり、放置すると、「日本軍は南京で30万人大虐殺した!」というような話が「定説」になってしまう。全力で反撃しているトランプさんは、「大人げない」のではなく、「情報戦を戦っている」のです。

「中国悪魔化」に動き出すアメリカ政府

大統領が一言いっただけで終わらせないのが、アメリカのすごさです。アメリカ政府は、「新型コロナウイルス=武漢研究所起源説」の調査をはじめているそうです。

米、武漢研究所起源説を検証か 新型コロナ巡り、中国は反

4/16(木)21:27配信

 

【ワシントン、北京共同】新型コロナウイルスの起源を巡り、米CNNテレビは15日、米政府が中国湖北省武漢市の海鮮市場ではなく同市の研究所だとの仮説を検証していると報じた。複数の可能性の一つだが、生物兵器の研究の一環で生じたとは考えられていないという。研究所起源説はトランプ大統領の支援者らが支持してきた。

中国は、どういう反応なのでしょうか?

一方、中国外務省の趙立堅副報道局長は16日の記者会見で「世界保健機関(WHO)はウイルスが実験室で作り出された証拠はないとしており、専門家も実験室から漏れたとの説には科学的根拠がないとの認識を示している」と反論した。
(同上)

この趙立堅さんは、なんの「科学的根拠」もなしに、「新型コロナウイルスは、【米軍】がもちこんだ」と主張している方です。

これまで、「武漢研究所起源説」は、「陰謀論ステイタス」でした。しかし、アメリカ政府が検証しているとなると、もはや「オフィシャルステイタス」に格上げということですね。もし、アメリカ政府が、「武漢研究所起源説の証拠がみつかった」と発表すれば、中国政府の「隠ぺい」が「トンデモナイ規模で行われていた!」となり、世界中が激怒することでしょう。

習近平は知っていた

さらに、習近平にまずい情報が出てきました。習近平は、新型コロナウイルスの危険性を知っていて黙っていた証拠が出てきた。

新型コロナの深刻さ、中国は主席指示の6日前に認識か…APが内部文書入手

読売新聞オンライン 4/16(木)19:04配信

 

【ワシントン=蒔田一彦】AP通信は15日、中国国家衛生健康委員会の馬暁偉(マーシャオウェイ)主任が1月14日の内部会議で、新型コロナウイルスに関し「2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)以来の最も深刻な問題で、公衆衛生上の重大な事件になる」との認識を示していたと報じた。AP通信は医療関係者から内部文書を入手したという。会議には各省の衛生当局者らが電話で参加し、「人から人へ感染する可能性がある」との説明があったほか、「春節(旧正月)で多くの人が移動し、感染が拡大するリスクが高い」と各地で対応を講じるよう指示が出たという。

1月14日時点で、事態の深刻さは理解されていた。では、習近平が、動き始めたのはいつだったのでしょうか?

会議の6日後の20日、習近平(シージンピン)国家主席が感染拡大抑制に関する「重要指示」を出し、政府の専門家も「人から人への感染」の確認を発表した。新型コロナを巡っては、中国当局の情報公開の遅れが感染拡大を招いたとの見方が出ている。
(同上)

会議から6日後の「重要指示」。この問題に関しては「遅すぎ」ですね。

新型コロナで変わること

というわけで、中国は「米軍のせいにしよう」と画策したことで、ひどい目にあいそうです。アメリカ政府は、全力をあげて、「世界的大災厄の原因は、中国政府が情報を隠蔽したことが原因だ!」という情報を拡散するでしょう。それでも、ポリティカルコレクトネスが根付いた日本や欧州の指導者が追随することはないと思います(イギリスのジョンソンさんは、かなり中国に激怒していると報じられていますが)。

しかし、世界には、日本や欧州以外にもたくさん国がある。そして、ほぼ例外なく、新型コロナ災で大打撃を受けている。批判にさらされているのは、為政者。トランプは、国民からの批判に苦しむ為政者たちに「逃げ道」を提示します。

「『私が悪いのではない』と言え!まず第1に、情報を隠蔽した中国政府が悪いんだ。第2に、中国に忖度しつづけたWHOが悪いんだ」

為政者は、自分の命と支持率を守るために、この案を採用することでしょう。こうして、中国悪魔化は進んでいきます(私は、それが「いい」とはいいません。ただ、事実の流れを見るに、「そうなるだろう」という話です)。

image by: noamgalai / Shutterstock.com

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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