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富裕層は逃げホームレス増加。コロナ後に都市部で起こる負の変化

これまで遅々として進まなかったものの、皮肉にも新型コロナウイルスの流行が一気に導入を推し進める形となったテレワーク。しかしその流れが、日本の企業が持ち続けていたある「常識」を覆すきっかけともなったようです。世界的エンジニアの中島聡さんは自身のメルマガ『週刊 Life is beautiful』で、今回のコロナ騒動は人々の働き方に大きな変化もたらし、その変化に対応可能な企業のみがコロナ後に活躍できると記す一方、都市部で起こりうる「負の変化」についても考察しています。

※ 本記事は有料メルマガ『週刊 Life is beautiful』2020年5月19日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール中島聡なかじま・さとし
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。

コロナ後の世界:オフィスは必要か?

新型コロナ対策として、世界各地で行われている都市のロックダウンや外出禁止令により、リモートワークを強いられている人が増えていますが、反応は様々です。

Business Insiderの「テレワーク拡大も6割が『従業員のストレス増加』企業はメンタルケアが課題」という記事によると、80%以上の企業が従業員の一部または全員にリモートワーク(記事中ではテレワーク)を採用しているそうですが、多くの企業が、仕事上のストレスが増えた、部署間の連携がとりにくくなった、従業員同士の意思疎通が難しくなったと感じているそうです。

記事中に、「Zoomなどのオンラインツール」を活用している企業は6割弱との記述がありますが、私のようにオンラインツールなしでは仕事が出来ない人間にとっては、驚異的に低い数字で、企業間のデジタル・デバイドの大きさが分かります。

同じくBusiness Insiderに「ハンコ、意識、自宅Wi-Fiない…大企業若手が感じる『在宅ワークの壁』」という記事がありますが、リモートワークをしていない人のうち、リモートワークをしない理由が、「自宅にWi-FiやPC環境が整っていない」が8割というのも笑えない話です。

私の知り合いでも、自宅にリモートワークに必要なWi-Fi環境がないため、親の家から仕事をしている人がいますが、21世紀の今になって、まともなWi-Fiを持たずに暮らしている人がいること自体が私にとっては驚きです。

日本では、パソコンを一度も触らずに社会人になってしまう人が増えているというデータもあるし、4Gネットワークに繋がったスマホがあれば、大抵のことが出来てしまうのが、逆にWi-Fiやパソコンの普及を頭打ちにしてしまったのだと思います。

一方で、「【サイボウズ社長・青野慶久】全員オンラインで気づいた情報格差。『僕はもう出社しちゃダメだ』と大反省」(同じくBusiness Insider)という記事に紹介されているように、リモートワークに大きなメリット(この場合は、多拠点ビジネスにおける、拠点ごとの情報格差の解除)を感じている人もいます。

さらに、NHKニュースの「テレワークでオフィス解約の動き」には、

東京都心部のオフィス物件を多く手がける不動産会社によりますと、先月中旬以降ベンチャー企業などから、都心部のオフィスの賃貸契約を解約したいという相談が、ことし1月の4倍あまりのペースで寄せられているほか、大手企業の間でも、オフィス面積を広げる計画を取りやめる動きが出ている。

と興味深い動きが紹介されています。

普段からオンラインツールを使いこなすベンチャー企業が、「リモートワークだけでも十分にビジネスが出来る」ことに気がつき、これを機会にオフィスの解約に踏み切っているのです。

そもそも、十分な運営資金を持たないベンチャー企業にとっては、オフィスは大きな負担です。それにも関わらず、ベンチャー企業が無理をして都心にオフィスを構えるのは、それがビジネスをする上で「便利な上に信用に繋がる」し、優秀な人を雇うのに「都心の方が有利」だったからです。

しかし、一旦リモートワークに切り替え、それでビジネスが回ることに気が付いてしまえば、そんな無駄なことにお金を使う理由はなくなります。

つまり、今回のコロナ騒動で「ちゃんとした企業は都心にオフィスを構えるのが当たり前」という常識が、(少なくともベンチャー界隈では)覆ることになったのです。

実際、ドワンゴやTwitterのように、コロナ後も社員に原則在宅勤務を認めることを公式に発表した会社もあり(「ドワンゴ、コロナ後も原則在宅勤務に 全社員1000人」、「Twitter says it will allow employees to work from home ‘forever’」)、これが人々の働き方の「大きな変化の始まり」のように私には見えます。

つまり何が起こるかというと、ITを最大限に活用出来る企業はリモートワークにより、生産効率の向上、従業員の満足度の向上、コスト削減を同時に成し遂げ、それが出来ない企業との生産性の差がますます開くことになります。

これが、そもそも起こりつつある「外からのデジタル・トランフォーメーション(既存の企業がITを活用して事業形態を改善するのではなく、ITを駆使した新規参入企業が業界のあり方を根本的に変えてしまうこと)」をさらに加速することは確実だと思います。

つまり、コロナ後に活躍できるのは、オフィススペースは最小限に留め、世界中から優秀な人材を雇い(しかし、移住・移動は不要)、様々なオンライン・ツールを最大限に活用して、従来型の企業よりもはるかに生産性の高い仕事をする筋肉質な企業だけ、ということになります。

そんな企業で働く人たちは、通勤が不要になって「満員電車」や「渋滞」から解放されるだけでなく、人口密度が高く地価の高い都心に住む必要すらなくなるため、ライフスタイルに合わせた好き勝手な場所で暮らしながら働くことが可能になります。

結果として、普段は「海岸」「スキー場」「ゴルフ場」のようなリゾート地で人生を楽しみながら働き、たまに都会に出て食事やコンサートを楽しむという贅沢なライフスタイルが、そんな企業で働く人たちにとっては当たり前の時代が来ようとしているのです。

そうは言っても、この手の変化の影響が社会全体にまで及ぶには長い時間がかかるでしょうが、中長期的に見れば、都市部で、富裕層の脱出と失業者やホームレスの増加が同時に起こり、不動産価格の低迷だけでなく、犯罪率の増加や、スラム化までが起こっても不思議ではないと思います。

image by: Shutterstock.com

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