【書評】米国民が納得も感動もできぬトランプの演説に熱狂する訳

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時に扇動的に、時に差別的な内容を含む言説ながら、多くの有権者を熱狂させ支持を得ているトランプ大統領。彼の何が米国民の心をここまで惹きつけるのでしょうか。。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』では編集長の柴田忠男さんが、気づいたときには聞く者を自分の虜にしてしまう「トランプの話術」を分析・解説した一冊をレビューしています。

偏屈BOOK案内:浅川芳裕『ドナルド・トランプ 黒の説得術』

dc20200526-2ドナルド・トランプ 黒の説得術
浅川芳裕 著/東京堂出版

トランプが大統領候補になる前、著者はトランプの演説や討論会をくまなく見ていった結果、「トランプは『話術』のとんでもない達人であり、『説得術』のとてつもない天才である。(略)彼が駆使する技術があまりも自然で、巧み過ぎ、誰もその凄さに気づけないぐらいのレベルに達しているのだ」と分かったという。大方の予想に反して共和党予備選を勝ち上がる。しかもダントツで。

トランプは共和党の歴史上、最も人気を獲得した大統領である。トランプの凄さは、演説の達人・オバマの話術と比較すれば分かる。オバマは説得力で感動させ、聞き手に影響を与える。トランプの話はバカげていて、説得力があるとは思えない。感動できない。にもかかわらず、無意識のうちに聞き手の心に忍び込んでいき、気がついたときにはトランプの虜になってしまう、らしい。

このトランプの「黒の説得術」のテクニックを公開、解説するのがこの本の目的だ。古代ギリシアから伝わる弁論術、現代の心理学、言語学、最新のブランド理論、自己啓発思想などの教えを独自に組み合わせたシンプルなもので、トランプはそれを愚直に実践しているのだという。思いつきの人ではないようだ。でも我々がテレビで知るトランプの話からは、強い説得力が感じられない。

我々がそんな不安をいだいてしまうのは、トランプ得意の「脅迫論証」話術を駆使した成果が出ているだけで、狙い通りだという。トランプが言っていることの中身など、じつはたいした問題ではない。そもそもトランプの発言の70%が事実にもとづいていない(2016年の調査)。よく理解できないのだが、けっこうトランプのこと好きになった私。トランプの発する口撃も嫌いではない。

トランプの悪口は、自分の存在感を高めるために用いているのだからそれでいいのだ。共和党大統領予備選でトランプと最後まで戦ったテッド・クルーズは、キリスト教右派やティー・パーティから絶大な支持を得た強者だが、トランプから「嘘つきテッド」と仇名をつけられて敗退した。なんと幼稚な、と思うが「聖書を高く掲げいつも嘘をつく」と言いいふらされたんだからたまらない。

トランプはさらに追い打ちで「人の姿をした悪魔」という別の仇名もつけた。トランプは宗教心がないとみなされ、キリスト教右派からの支持が低い。しかし自分がすぐに信仰心に篤いイメージを醸し出すのは難しい。そこで、クルーズの信仰心が嘘であると細工すればいい。それを信じた人々がトランプ支持に鞍替えしてくれればいいのだ。汚い手口である。結果は狙い通りになった。

トランプは「名称だけで価値の『低さ』がわかり、顧客(有権者)から『嫌われ』、商品(立候補者)として『選ばれない』状況を確立させたのである。ポジティブなブランド構築につかうはずの手法を、ネガティブなブランド構築に応用したのだ」。なんという悪辣なwww。一時はトランプに迫ったクルーズの人気は、トランプのネガティブ・ブランド化を境に一気に暴落してしまった。

「言論の正しさ」を得意とする説得術は封じられた。仕返しにトランプに「いじめっこ」「不道徳」「ナルシスト」とあだ名をつけたが、まったく流行らなかった。なぜなら、それらはトランプのブランドそのものだったからだ。結局、クルーズはトランプに利用されただけだった。トランプの言動を中心に世界は回っている。カオスのようなトランプの説得術を学べる役立ち本。

編集長 柴田忠男

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