習近平政権が、またも「暴挙」に出るようです。中国政府は北京で開かれた全国人民代表大会において、香港の治安を守るために「香港国家安全法」を導入すると発表。香港の自治を脅かす恐れのあるこの中国の目論見に対しては、日本でも一部政治家や政党が声を上げたものの、「自由」や「人権」に敏感なはずのリベラルのほとんどがだんまりを決め込んでいると言っても過言ではない状況となっています。その理由はどこにあるのでしょうか。そして民主主義を踏みにじるような中国の独裁に対して、我々はどう対峙すべきなのでしょうか。今回のメルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』では台湾出身の評論家・黄文雄さんが、香港問題の本質を解説するとともに、日本人がこの問題をどう捉えるべきであるのかについても考察しています。
※本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2020年5月27日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:黄文雄(こう・ぶんゆう)
1938年、台湾生まれ。1964年来日。早稲田大学商学部卒業、明治大学大学院修士課程修了。『中国の没落』(台湾・前衛出版社)が大反響を呼び、評論家活動へ。著書に17万部のベストセラーとなった『日本人はなぜ中国人、韓国人とこれほどまで違うのか』(徳間書店)など多数。
【中国・日本】中国制定の「香港国家安全法」が日本の護憲派を殺す
すでにニュースなどで報道されていますが、香港の治安維持のために中国政府が主導する形で「国家安全法」が制定されようとしています。
香港には香港の憲法にあたる「香港基本法」というものがあります。これは中国に香港が返還された1997年に施行されたものですが、そのうちの23条には、香港自らが中国政府に対する「反逆、分離、扇動、転覆」を禁止する国家安全法を制定することが定められていました。
しかし、これまで香港での民主化活動の抵抗によって、この国家安全法は制定されずにきたわけです。
昨年の香港デモなどを受けて、中国は香港による国家安全法が進まないため、全人代による国家安全法の制定に走ったことになります。香港議会を無視して、全人代が直接制定することにしようという動きです。
この法律が成立すれば、香港での反中国デモを中国政府が直接取り締まることができるようになると言われています。デモ参加者が中国政府から分離主義者と認定されれば、徹底的に弾圧され、場合によっては中国に引き渡されることもあるでしょう。また、中国政府の介入が強まることで、人民解放軍による鎮圧や虐殺が行われる可能性も否定できません。
香港返還にあたり、イギリスと中国政府は「一国二制度」を50年間維持するという約束をしていますが、国家安全法を全人代が制定するということは、まさしく直接統治にほかなりません。
例によって中国共産党の手先である行政長官のキャリー・ラムは、国家安全法は「一握りの違反者のみ対象」「香港の自由が危機にさらされる懸念はまったく根拠がない」などと擁護していますが、法律を制定する、ないしは制定しないという判断を、香港人自らが行うのではなく、中国共産党が行うこと自体が、香港人から自治権を奪う行為です。香港人の自治権が奪われる=香港の自由が奪われることなので、このキャリー・ラムの「自由が危機にさらされる懸念はない」という発言は矛盾しているわけです。
● 国家安全法は「一握りの違反者のみ対象」 香港行政長官が擁護
これに対してアメリカが制裁をちらつかせていますが、もっと矢面に出るべきはイギリスでしょう。
もちろん台湾も、この香港版国家安全法について、反発を強めています。総統府の黄重諺報道官は22日午前、通称「香港版国家安全法」について、香港市民の自由や民主主義にとってさらなる脅威になる可能性があるとし、香港市民に対する自由と民主主義への厳粛な約束を果たすことこそが問題を解決する根本的な策であり、「一国二制度」と民主主義、自由が必然的に矛盾することを証明していると述べました。
● 台湾の政府や与野党が中国に反発=全人代が「香港版国家安全法」審議へ
日本政府はこの国家安全法に対して、正式にコメントしてはいないものの、5月25日に安倍首相が行った緊急事態宣言解除での会見で、以下のように述べました。
「私たちは、自国のことのみに専念していてはならない。内向きな発想では、この世界的課題を根本的に解決することはできないと考えています。しかし、感染が拡大している国では、そうした余裕はありません。これまで世界の政治・経済をリードしてきた国々の多くは、今、国内の対応で手一杯になっている、そうした現実があります。そこに隙が生まれるような事態は、決してあってはならない。こうしたときだからこそ、私たちは、自由民主主義、基本的人権、法の支配といった普遍的な価値をしっかりと堅持していく。そして、こうした価値を共有する国々と手を携え、自由かつ開かれた形で、世界の感染症対策をリードしていかなければならないと考えます」
また、記者からの質問に答えるかたちで、「この新型コロナウイルスについては、中国から世界にこれは広がったというのは事実であるというふうに考えています」と述べました。
これらの発言は、明らかに中国の動きを意識したものでしょう。
それにしても、日本の国会議員や政党で、こうした民主主義を踏みにじるような中国の動きに対して、ほとんど声が上がらないというのは、やはり民主主義を軽視しているからでしょうか。
確認した限りでは、声明や談話を出しているのは日本維新の会、国民民主党くらいしかありません。
● 香港情勢に関する声明について(日本維新の会)
● 【談話】香港で発生したデモを深刻に憂慮する(国民民主党)
また、自民党では山田宏議員が中心となって、共同声明への署名集めを行っています。
● 香港の一国二制度は風前のともしび 自民党有志が中国の国家安全法に反対署名
現在、世界の国会議員が共同でこの中国への反対署名活動を行っています。5月27日現在、32カ国から337人の国会議員の署名が集まっています。日本の国会議員は、少し前までは山田宏議員と山尾志桜里議員の2人だけでしたが、この2人の呼びかけに応じて松原仁議員、三谷英弘、長島昭久議員が加わり、5人となっています。
とはいえ、総勢713人という、世界で8番目に国会議員数が多い国としては、あまりにも少なすぎるのではないでしょうか。
もともと日本は、アメリカがつくった憲法を押しいただいています。とくに護憲派は日本国憲法を後生大事に守ろうとしています。この構図は、中国共産党がつくる憲法を押しいただこうとしているキャリー・ラムと同じだともいえます。護憲派=親中派という方程式が目に浮かびます。
「民主主義や国民主権、人権を守る」と謳う政党の意見を聞きたいところです。とくに護憲派の人たちは、中国共産党がつくった憲法を、香港人は受け入れるべきだと思っているのか、ぜひ聞いてみたいところです。「差し障りのない法律」「すばらしい法律」なら、香港人の自治は無視して、中国共産党がつくってもいいと考えるのでしょうか。
日本の護憲派やリベラルは、香港の雨傘革命や台湾のひまわり学生運動に対して連帯を示してきました。しかしそれは、「香港も台湾も、中国という独裁国家に脅かされている。日本も安倍首相という独裁者に脅かされている」という、笑ってしまうほど幼稚な論法からでした。かたや、民主主義が奪われようとしている地域や国と、民主的に選ばれた政権が統治する国を同一視するところなどは、噴飯ものでしかありません。
そもそも安倍政権は過去6回の国政選挙で負けなしです。安倍政権が強権を振るっているというならば、それは一度も選挙に負けていないから強気になれるわけです。民意を得た政権だから強いのであって、もしも不満があるならば、民主主義の力で政権を倒せばいいだけです。しかし、香港は現在、それができません。また、台湾が中国に併呑されれば、香港と同様の道をたどります。
香港や台湾が中国に対して感じている脅威を、「安倍政権の独裁」とつなげようとする日本のリベラルは、はっきり言って、香港人や台湾人からすると迷惑です。中国の脅威を矮小化させることにつながるからです。もしかすると、中国に加担するためにやっているのかと思うほどです。あまりの平和ボケであり、真剣さが足りません。私は日本人の劣化のひとつだと考えています。
香港問題の原点を考えてみると、イギリスと清のアヘン戦争後に結ばれた南京条約にあります。清にとっては初めて英語と漢文を併記した条約です。そこには、解釈の相違があれば英文を基準にすることが明文化されていました。
イギリスははじめ、長江出口の舟山群島を要求したものの、結果的に人口わずか5,000人の珠江口の漁村が割譲されたのです。香港の運命はそこで決められました。単なる寒村だった香港は1997年には人口が1,000倍にもなりました。中国人の駆け込み寺となり、「東洋の真珠」とまで讃えられました。
香港と中国の違いは、文明史から見れば一目瞭然です。中国は黄土高原から生まれた「家天下」「一党一派」が牛耳る「一君万民」の奴隷・愚民国家です。独裁専制がなければ存立できない国でもあります。しかし、香港はイギリスから民主主義の洗礼を受け、学んできた過去があります。
香港問題とは、民主主義と独裁の対決という意味で、人類共有の課題であり、中国だけの内政問題ではないのです。
そしていま、アジアの民主主義が失われようとしています。日本の憲法問題とも重なる話です。香港問題は日本の問題でもあるはずなのです。
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