安倍首相の出世に拉致問題を利用された、横田めぐみさん父の無念

 

表だけで裏の手を用意しない単純さ

虚像性の第2は、最初からか途中からかは別にして、彼が5人を「戻さない」ことを主張したのは事実で、問題は、私が終始指摘してきたことだが、それでどうやって北との交渉を継続していくのか、何のアイデアもないまま感情論だけで突っ走ってしまったことである。本誌はかつてこう書いている。

安倍首相がこの問題のチャンピオンに躍り出たのは、言うまでもなく、5人の拉致被害者が“一時帰国”した際に、本人たちの気持ちは本当のところどうだったのか分からないが、家族・支援者たちの「戻らせない」という強い心情を重んじて、それを政府方針として決定するために官房副長官としてイニシアティブをとったことによる。

北への怒りと不信に満ち満ちている家族・支援者のその心情は当然であるけれども、それに政治・外交次元の論理を同化させることが正しかったかどうかは疑問の残るところで、当時、私は安倍首相にテレビ局の廊下で「あれじゃあ交渉を断絶させるだけでしょう。5人を一旦は返して、安倍さんが一緒に付いて平壌に行って自ら人質になって、被害者と向こうに残っている家族がじっくり話し合って結論を出すのを保証するようガンガン交渉して、早々と結論が出て帰国するという人は連れて帰ってくる、もっと話し合いが必要な人はその結論を尊重するよう北に確約させる──というふうにしたら、安倍さんは英雄になり、交渉は閉ざされずに済んだんじゃないか」と言ったことがある。

それは思いつきの一案にすぎなかったが、心情的な運動の論理を尊重しつつも、裏もあり表もある政治・外交の論理で打開する道筋はあったはずで、その点、安倍首相は直情的に過ぎた。

ちなみに、私の提案に対する安倍首相の答えは「フン」の一言だった。やはり外交というのは、表で突っ張るだけでは決裂するしかなくて、突っ張るほどに裏では落とし所を用意し、さらにそれがうまく行かない場合には第3の離れ業も隠し持っておいて、押したり引いたりして繋いでいくものだろう。安倍首相という人は頭が単線的で、複数回路を同時多発的に動かすことができないので、外交というのみならずおよそ交渉して相手を説得して物事を進めるということに向いていないということを悟ったのだった(詳しくは前出の本誌No.820)。

この「フン」の結果として何が起きたか。以後今日に至るまで、日朝間にまともな交渉チャンネルが存在しないままの状態が生まれた。自分でチャンネルを破壊しておいて、「拉致問題を解決するためにあらゆるチャンスを逃さない。最後は、私自身が金委員長と向き合わなければならない」などと遠吠えしても、口先だけなのは見え見えで、向こうから相手にされないのは当たり前なのである。(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2020年6月8日号より一部抜粋)

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早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。

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