安倍首相の出世に拉致問題を利用された、横田めぐみさん父の無念

 

「拉致」を出世に利用しただけ?

虚像性の第1は、安倍首相は中西氏らが言うほど熱心かつ一貫した対北強硬論者ではないということである。

蓮池透氏の15年12月の新刊『拉致被害者たちを見殺しにした安倍晋三と冷血な面々』(講談社)は大きな波紋を呼び起こした。彼は、言わずと知れた拉致被害者=蓮池薫氏の実兄で、「北朝鮮による拉致被害者家族連絡会(家族会)」の元事務局長・副代表として一貫して運動の先頭に立ってきたシンボル的なリーダーである。その人物が、この刺激的なタイトルの下、小泉訪朝以来の10数年間を振り返り、自分自身の恥をさらけ出すことを厭わずに運動内部の矛盾や政府の対応の不誠実を赤裸々に描いたのだから、話題にならないわけがない。彼は書いてい
る。

● 『拉致被害者たちを見殺しにした安倍晋三と冷血な面々』(講談社)

小泉訪朝に同行した当時の安倍官房副長官は、拉致問題を追い風にして総理大臣にまで上がり詰めた。この第1次安倍政権で講じた手段は、北朝鮮に対する経済制裁と拉致問題対策本部の設置、この2つのみである。

世間では北朝鮮に対して当初から強硬な姿勢をとり続けてきたと思われている安倍首相は、実は平壌で日本人奪還を主張したわけではない。……安部首相は拉致被害者の帰国後、むしろ一貫して、彼らを北朝鮮に戻すことを既定路線として主張していた。弟を筆頭に拉致被害者たちが北朝鮮に戻ることを拒むようになったのを見て、まさにその流れに乗ったのだ。そうして自分の政治的パワーを増大させようとしたとしか思えない。

いままで拉致問題は、これでもかというほど政治的に利用されてきた。その典型例は、実は安部首相によるものなのである。まず、北朝鮮を悪として偏狭なナショナリズムを盛り上げた。そして右翼的な思考を持つ人々から支持を得てきた。アジアの「加害国」であり続けた日本の歴史の中で、唯一「被害国」と主張できるのが拉致問題。ほかの多くの政治家たちも、その立場を利用してきた……。

この安倍首相の姿勢のインチキ性については、16年1月12日の衆院予算委員会での野党質問で取り上げられ、安倍首相は「当時は、5人を戻すという流れだったが私は断固として反対し、最終的に私の官房副長官の部屋に集まって帰さないという判断をした」と叫んだ。では蓮池氏が嘘を言っているというのかと畳みかけられると、安倍首相は「私は誰かをうそつきとは言いたくないが、私が申し上げていることが真実であるということは、バッジをかけて申し上げる。私の言っていることが違っていたら私はやめますよ、国会議員をやめますよ。それははっきりと申し上げておく」とまで開き直ったのだった。

が、まあこれは安倍首相の膨らましが利いた話であることは容易に想像がつく(詳しくは本誌No.820=16年1月18日号「波紋呼ぶ蓮池透の『安倍晋三と冷血な面々』への告発」)。彼がそんなに強固な信念に基づいて一貫した言動を行うタイプの政治家でないことは、今では誰でも知っている。

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