「最近のアイドルグループはメンバーの区別が全然つかない。それだけ自分が歳をとって、流行に疎くなったということかな?」中高年によくあるそんな悩みの本当の原因は、加齢とは別のところにもあるのかもしれませんよ。この記事では、投資コンサルタント&マネーアナリストで、心理学や行動経済学に関する著書もある神樹兵輔さんが、人々を魅了してやまない「グループ売り」の心理トリックや、今どきのアイドルが「みんな同じ顔に見えてしまう」真の理由を解き明かします。(メルマガ『神樹兵輔の衰退ニッポンの暗黒地図──政治・経済・社会・マネー・投資の闇をえぐる!』より)
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです
巨大な経済効果を生み出す「アイドルグループ」を裏で支える法則
少し古いものの、矢野経済研究所の調査データによれば、いわゆる 「オタク市場」 は、2016年度の市場規模が5450億円(前年度比5.3%増)にのぼったとされています。なんと、この時点でも過去5年間で3倍にまで増加したのだそうです。
ちなみに、対象分野は、「アイドル」「アニメ」「同人誌」「プラモデル」「フィギュア」「ドール」「鉄道模型(ジオラマ等周辺商材含む)」「プロレス」「コスプレ衣装」「メイド・コンセプトカフェ」などであり、単体での市場規模が大きな「漫画」「ライトノベル」「スマートフォンゲーム」は除外されています。
こうした「オタク市場」の対象は、これ以外の他のジャンルまで含めると、実は全体で3兆円以上にのぼるという巨大な推計結果も他にあるほどなのです。
なんといってもオタクは、「推し活」へのロイヤリティの高さから、その志向性は一般消費者の3倍以上あるともいわれますから、たしかに経済効果は高いのでしょう。
さて、矢野経済研究所の調査によれば、オタク市場のうち「アイドル」に限定した市場規模は 2016年度に1870億円 だったそうです。となると、最近ではゆうに2000億円を超えている市場と推計されるのかもしれません。
いわゆるアイドルへの応援活動である「推し活」による経済効果は、CD売上、公演入場料、宿泊交通費、飲食費、グッズ販売などですが、世の中でのアイドルの存在がどんどん増えるほど、こうした経済規模はさらに広がりを見せていくのでしょう。
近年では 、「地下アイドル」というのまでが続々登場しており、これはこれで、それなりの人気を集めているわけですから、まことに侮れない市場になったといえるのです。
たとえば、近年の経済規模の大きなものでは、2015年9月に宮城県で開催されたアイドルグループ 「嵐」 の復興支援コンサート(4日間)が 93億円(宮城県試算)の経済効果をもたらし、16年6月に新潟県で開催の「AKB48選抜総選挙」は1日で24億円の経済効果があった──とも推計されています。
戦中、戦後の初期に生まれた70代~80代の高齢の方々から見ると、まるで信じられないような盛り上がりを見せているのが、今の日本の 「アイドル市場」というわけです。
やはり、これらの隆盛は、日本の平和国家あってのモノダネなのだ──と高年齢の方々はしみじみと実感されていることでしょう。
【関連】イチから学ぶ「ドヤコンガ」の正体
日本の「アイドル文化」にみる特異性
日本のアイドル文化は、欧米にはない独自の発展を遂げた──とよくいわれます。
それは、「かわいさ」「かっこよさ」という見た目が、何といってもその象徴の原点だからです。
欧米のエンタメ市場は、プロフェッショナリズムが重視されます。日本のように若くて幼くて、容姿が可愛い、顔がカッコイイといった見てくれのよい少年少女をピックアップさせての 「偶像視」 で、とりあえず歌を歌わせたり、ドラマや映画に抜擢して注目させて人気を得る──といった手法は日本独自で、欧米ではほとんど見られなかったことが大きな理由なのでしょう。
日本のアイドルは、昔から学芸会的要素を残した「拙さ」「幼稚さ」「可愛さ」が重視されるところから、アイドルが作られてきた──という歴史があったわけです。
たとえてみると、70年代~80年代を彩った女性アイドルの山口百恵、桜田淳子、岡田奈々、麻丘めぐみ、岡田有希子、天地真理、大場久美子などが当てはまり、男性アイドルでは西城秀樹、野口五郎、郷ひろみ……といった「新御三家」などと呼ばれた面々(それ以前に御三家と呼ばれたのは60年代の舟木一夫、橋幸夫、西郷輝彦だった)に続いて、キャンデーズやピンクレディといったアイドルブームに結実していたわけです。
それ以前の日本の芸能史では、60年代後半のグループサウンズブームをはさみ、その前の中尾ミエ、伊東ゆかり、園まりといった「スパーク3人娘」や「ナベプロ3人娘」と呼ばれた女性歌手の人気絶頂期もありましたが、「歌唱力」や「ビジュアル性」「雰囲気」が重視された風潮もあり、70年代以降に花咲いたアイドルたちとは明らかに趣が異なっていた状況だったのです。
要するに、70年代以降に主流となった日本のアイドル文化というものは、日本初の世界的言語ともなった「かわいい」「かっこいい」といった「見た目中心」にこそ、流行の原点があったのです。
つまり、欧米エンタメ系のプロフェッショナル志向アーティストたちとは、当初から、その存在感には相当大きな差があり、しかも、こうした要素が日本では大当たりだったわけです。
そして、これが日本独自の今日に連なる「アイドル文化」を育んできたといえるのでした。
外向きの韓流アイドル、内向きの日本アイドル
こうした日本市場を狙い、市場規模の小さかった韓国のアイドル群が日本市場の開拓にも乗り出してきたのはいうまでもありませんでした。
しかし、韓国のアイドルグループは、これまた当初から日本のアイドル風土とはちょっと趣が異なりました。
歌もダンスも本格志向だったからです。
もともと世界のエンタメ市場を視野に置いて、まずアジアの攻略を目指し、プロフェッショナルダンスを採り入れ、ビジュアル面での躍動的要素で、「K-POP」という独自のスタイルを生みだしてきたのです。
そして現在では、日本どころか、アジアにも、欧米にも、そのムーブメントをひろめ、世界を席巻する存在にまで力を蓄えてきたといえるのです。
つまり、韓国のアイドルは韓国語という狭い言語の壁を乗り超え、英語で世界進出にも成功したわけです。
その点、日本は日本語の壁をはじめ、プロフェッショナルな歌やダンスでも大きな後れを取り、日本だけにとどまっている状況であり、もはや彼我の違いは、歴然となったのが現在地なのです。
そんなわけで、日本のアイドル文化は、その独自性をもって、これからも日本国内での位置づけを守り続けることになるのでしょう。