ショート動画で成功したクリエイターへのインタビューを行い、彼らの成功の秘訣を探るオリジナル潜入企画「バズるショート動画の裏メソッド」。今回は突如として料理界に現れ、総フォロワー数1000万人超えの大人気料理系クリエイター「ケンティー健人」さんを紹介。数年前まで料理もTikTokも未経験だったという彼が、なぜこれほどの成功を収めたのか?30代での離婚からの一人暮らしをきっかけに発信を始め、17年勤めた会社を辞めてまで挑んだその決断の裏には、どんな思いや覚悟があったのか。今回は、彼がバズった秘訣と知られざる苦悩にも迫ります。
プロフィール:ケンティー健人
1987年福井県生まれ、料理クリエイター。PPP STUDIO所属。33歳での離婚からの一人暮らしをきっかけに自炊の動画をSNSに投稿。料理&動画は未経験ながら、自撮りスタイルの一人飯×ASMRで大ブレイクし、2024年9月時点でのフォロワー数はTikTok540万人、YouTube310万、インスタ172万ほか、SNSの総フォロワー数は1000万超え。ほぼレシピが存在しない「一人飯」が食欲をそそるとして、現在世界各国でも大人気。近著に「ケンティー健人の世にもおいしい一人飯」がある。
@kenty_cook Pork wrapped rice ball #food ♬ Stay with Me cover by Chris – Chris Andrian Yang
「離婚してから1ヶ月半。一人暮らしになり、自炊することを誓った」
──早速ですが、SNSの総フォロワー数1000万人突破しましたね。おめでとうございます。
ありがとうございます。TikTokが540万で1番多いのですが最近はYouTubeのフォロワーも増えています。
──実は今日はいくつか疑惑があってそれを確かめに来ました。
え、なんですか?
──ケンティーさん、今では料理系のクリエイターとして総フォロワー数も1000万人を超えてますが、数年前までは料理もTikTokもほとんどやっていなかったということを耳にしまして…。それも30代になってから始めた上に、17年務めた会社を脱サラしたとか。
え、はい、、、そのどれも事実ですが、、。
──料理も動画制作も初心者というのはさすがに盛ってないですかね?料理だけに(笑)
これはですね、本当なんです。僕が動画投稿を始めたのは約5年前、33歳の頃でした。
──33歳?
そうです。それまでは全く料理の経験もなく、動画制作も未経験でした。当時は実家で家族と暮らしていたこともあり、料理をする機会がほとんどなかったというのが実情です。
──料理未経験の状態から、どうして料理動画を始めようと思ったんですか?
それはですね、、、離婚して一人暮らしを始めたからなんですよ。
──え、、、
あ、いや、隠してないので全然大丈夫です。
──そうなんですね。
離婚して一人暮らしを始めたことをきっかけに、自分の料理の様子を動画にしてみようと思ったんです。
──なるほど。
最初は本当に簡単な料理ばかりでしたが、意外にも反響があったんです。
──どういう反響があったんですか?
反響というか、「離婚してから1ヶ月半。一人暮らしになり、自炊することを誓った。毎日次の人見つけるまで飯テロし続ける!」というテーマで動画を出していたのですが、これに共感する人がコメントを付けてくれたんです。
@kenty_cook 離婚してから3ヶ月。一人暮らしになり、自炊することを誓った。毎日次の人見つけるまで飯テロし続ける!飯テロ5日目。お昼。#恋 ♬ オリジナル楽曲 – 島
──共感というか応援というか。
そうですね。なんでしょう、、、離婚して一人暮らししてるメガネが寂しそうにご飯を食べているのが刺さったというか。テーマが良かったのかもしれないです。
──確かについ見ちゃいますね。
5投稿目ぐらいで8万いいね!がつきまして。僕の作る料理は本当に材料が少なく簡単に作れるものなので。たまたまだったとは思うのですが、僕はこれをきっかけに短い料理動画で行くと決めたんです。
──17年勤めた会社を辞めたというのもこのあとすぐに?
あ、いえ。しばらくは会社員をやりながら動画制作もやっていたのですが、ある日突然、タイへの転勤辞令が出まして。
──タイですか?タイはタイで料理動画も楽しそうですが。
それも一度が考えたのですが(笑)。でもやはり会社員は残業もあるし、どうしても動画制作の時間を減らしたくなかったので、今しかないと思ってこれをきっかけに退職しました。
──30過ぎてから料理&動画初挑戦、そして脱サラ…どれも本当だったんですね。疑ってすいませんでした(笑)
いえいえ。でも僕のこういうキャリアだからこそうまくいってるというのもあると思うですね。
──どういうことでしょう?具体的に教えて下さい。
秘伝1:見た目、フツーにこだわる。
──成功しているのはご自身のキャリアに秘訣があるかも、ということですが、具体的にこだわってることはありますか?
普通の一般人であることです。
──一般人…どういうことでしょう?
僕は料理レシピ系というよりは、素人だからこその雰囲気とストーリーが刺さっていると思っているんです。
──なるほど。
TikTokのいいところって有名人や特殊能力を持ったすごい人だけではなく、ごくフツーの人でも投稿してバズれるところだと思うんです。
──確かに。前回のガリレオさんもおっしゃってました。
TikTokはフォロワーの人も大事ですが、見知らぬ人のおすすめに載ることでバズが生まれるんですよ。
──なるほど。フォロワーでもない初見の人のおすすめ欄に載るってことですよね。
なのであくまで見た目も一般人が誰にでも作れそうな料理を作っていて、自分でもできそうだと思わせるような構成にしています。
@kenty_cook #food ♬ suono originale – cosimoandthehotcoals
──確かに料理道具がズラーッと並んでる本格的ではなく、ホットプレートに入れ込むだけだから自分でもできそうって思っちゃいます。
そう、そこなんです。なので料理の作り方だけだけじゃなく、メガネにTシャツといった一般人のような外見にこだわっています。
──見た目的にフツーということ?
そうです。初めて見る人にとって見た目はやはり大事ですから。
──メガネにパッツン髪スタイルが定着してますよね。
でも昔100万再生とかバズった時に、地元・福井のスーパーでバレちゃうんじゃないかとドキドキしてましたが、全然そんなことはなかったですね(笑)
秘伝2:自撮りスタイルにこだわる。
──動画制作はすべて1人でやっているんですか?
はい、基本的にはそうです。通常の動画はほぼ一発撮りでやっています。
──テスト撮影もなしに、一発ですか?
そうですね。だいたいの構成は頭の中にあるのでそれをもとに1人で撮って編集しています。カメラはだいたい2台体制ですね。
──ケンティーさんの動画ってリズミカルでテンポよく進む演出がうまいと思うのですが、編集でのこだわりってありますか?
以前は1つのカットを0.8秒ぐらいに意識してました。これぐらいが速すぎず遅すぎずなリズムだったので。でもフォロワーさんの感覚が変わったのでいまはあまり意識していないです。
──いま意識していることはありますか?
意識しているというより、自撮りスタイルは特徴だと思っています。
──なぜ自撮りスタイルにたどり着いたのですか?
僕はもともと料理をしている手元を撮影するスタイルだったんです。
──顔は映さず?
多少は出てましたが、海外で自撮りスタイルが流行っていたので僕も試しにやってみようと取り入れたら早速バズったんですよ。
──いきなり?なぜでしょう?
当時日本で自撮りスタイルは「バヤシ」さんぐらいしかいなかったというのもあるかもしれないです。
──海外で具体的に参考にした方はいたんですか?
エミリーマリコさんという方が大好きで参考にしました。言葉もあまり使わず日常を投稿しているのですが僕もこういうのやりたいなって思って。
──それでまた大バズリできるのは確実に「一般人」ではないですね(笑)。
いえいえ。僕はターゲットをあまり絞らずに動画を作ってるのでTikTokのアルゴリズムに合ってるんだと思います。
@kenty_cook 砂肝のアヒージョをビールでキメる動画。Gizzard Ahijo.#tiktokfood ♬ Lone Rider – Stephan Sechi
秘伝3:再生回数にこだわる。
──動画制作において重要視している指標ってありますか?
インサイトも一応は見るのですが、僕はほぼ再生回数だけですね。
──回数でいうとどれくらいが基準ですか?
僕の場合は100万回です。1週間で100万回再生されたらバズったかなと思ってます。100万回行かなかったら受けてないと判断して今後は似たようなのは作らないと決めてます。
──100万回!
僕の場合は一つの国で1万回再生されれば、100カ国で100万回再生されかなーぐらいに思ってるのですが。
──でもそんな簡単には行かないですよ(笑)
そうですね。でも回数もそうですが内訳も大事なんですよ。フォロワーさんの再生回数より、新規の再生数が多い時、例えば新規で9割とかのほうが成功したかなと思います。
──ここでも、「初見の人にいかに刺さるか」が重要なんですね。
そういうことです。
──でも簡単に100万回再生って言いますが、実際はどうすればいいでしょうか?
実際は試行錯誤ですが、TikTokのアルゴリズムに乗るためには視聴者を向上させるようなコンテンツがいいのではないかと思ってます。
──向上させるとは?
僕の場合は料理ですね。動画を見て「自分もやりたい」と思わせるような、そこの反応があるほうがおすすめに載ることが多いような気がします。
──視聴者を反応させるというのは簡単そうで、難しくないですか?
そうですね。でも自分の中では少しコツがあるんですよ。
秘伝4:視聴者のコメントにこだわる。
──視聴者を反応させるコツというのは何でしょう?
コツと言いますか、僕の場合は普通に料理を作り始めないということです。
──普通に、とはどういうことでしょう?
全部ではないのですが、いきなり料理を作り始めるのではなく、動画冒頭でこの料理を作り始める理由付けを入れるようにしているんです。
──具体的にはどのような?
例えば白菜をアップで写して、白菜が余ったからこれで何か作るとか、そういうことがわかるような構成にするとか。
──なるほど。
@kenty_cook Minced meat stewed in deep-fried tofu#food ♬ New Home – Frozen Silence
あと他にもコメント欄でよく言われることを冒頭に入れたりしますね。
──コメント欄ですか?
はい。「なぜいつも肉まん食べてるのに太らないのですか?」というコメントから始めてジョギングの動画に切り替わるとか。
──そういうこと聞かれるんですか?(笑)
なぜ太らないのですか?はよく聞かれます(笑)。動画撮ってるときはよく食べるのですがそれ以外はあまり食べないのであまり太りはしないのですが。
──コメント欄は本当に貴重なんですね。
そうですね。コメントに応える形で動画を制作すればほぼ100万回再生は行きますよ。
──コメント欄以外にご自身の動画の分析とかPDCAは回しているのですか?
特にPDCAらしきものはないのですが、基本的にTikTokが大好きなので他の動画を沢山見てますね。流行っているのは保存してます。でも一応参考にはしますが、過去にバズったからといってその構成が今後も使えるとは思っていないです。
──そういえばあまりトレンドに乗った動画も見かけないですよね?
一度乗ってみたことあるんですけど1ミリもバズらなかったので速攻消しました(笑)
──ケンティーさんでもバズらないことがあるんですね。
当然あります。こういうステッカーを作ったりしてキャラ化したこともあったのですが、さっぱり反応なかったですね(笑)。僕は冒頭にも言いましたが、あくまで一般人としての立ち位置を忘れずにやっています。
──なるほど、「フツーにこだわる」って、簡単そうで難しんですね。最後にこれだけは伝えたいことってありますか?
どうすればバズるかという話をしてきてなんですが、僕の場合は毎回の動画がバズらなくてもいいかなと思ってます。もっと気軽に投稿してもいいときはいいんだって。どちらかというと一人でも料理に興味を持ってもらえれば僕にとってはバズるより大きなことなんじゃないかと思っています。
──なるほど、これもまたフツーの動画投稿ってことですね。ありがとうございました。
取材・文・撮影:タキバヤシ