それでも日本のアイドルは「グループ化」する。推し活ビジネスの核心
ところで、前述の通り、近年アイドルは女性も男性も「グループ化」が顕著です。
モーニング娘に始まり、AKB48やSKE48、坂道シリーズ(乃木坂46、櫻坂46、日向坂46、吉本坂46など)といった女性グループに、SMAP、嵐、Snow Manなどの男性グループもあります。
しかし、男性グループは時代の変遷とともにフェイドアウトし、新しいグループが次々生まれていくのに対して、女性グループは意外にもしぶとく、そのままの名称でのグループ活動が続いています。
この違いは、何なのでしょうか。
ここに「女衒(ぜげん)ビジネス」のキモがありました。
男のアイドルよりも、女のアイドルのほうが、男性ファンの性的嗜好性を高められるがゆえに、メンバーをとっかえひっかえするだけで、命脈が保たれるからに他ならないのです。
メンバーを束ねるグループ名は、キャバクラやガールズバーの店名にすぎないからなのです。
つねに若いフレッシュな女性メンバーを供給しておけば、鼻の下を伸ばした男性ファンは、歳をとってもずっと店に通い続ける動機を持ち続けるからなのです。
男性アイドルグループの命脈を保つのは難しいものの、女衒ビジネスに徹した感覚で、女性アイドルグループをメンバーの新陳代謝でマネジメントするほうが、はるかに男性ファンを長期にわたって虜に出来るわけなのです。
日本でグループ化が流行している状況は、韓国のアイドル文化の形成にも影響を及ぼしてきました。
今日の韓国では、年間100以上のアイドルグループが新たに量産されているともいわれます。
60年代~70年代の昔の日本のアイドルといえば、みんな単独のスターが主流でした。
むしろ、グループでひっ括られるのを潔しとしない風潮さえ、あったでしょう。
それが今では、アイドルはほとんどがグループで売り出されるのです。
これは、何故なのでしょうか。
実は日本のアイドル文化には、ちょっと気づきにくいのですが、やたらと「認知バイアス」がはたらいているからなのです。
「認知バイアス」とは、人間の脳のクセであり、先入観や偏見といった脳が持つ独特のはたらきのことをいいます。
ちょっとした物事への「決めつけ」や「思い込み」といった作用が、条件反射のように脳に起こって、たちまち形成される思考傾向のことをいうのです。
たとえば、芸能界で注目を浴びるスターになるためには、まずは人一倍、美人であるとか、イケメンであることが求められます。
「かわいい」とか「かっこいい」も同様です。
ゆえに、テレビドラマや映画の主役は、たいてい美女かイケメンです。
主役なのにブサイクな人物が演じるのは、それは特別な状況設定の物語を除いてありえないことでしょう。
ここには、すでに行動経済学で言う「認知バイアス」の「代表制ヒューリスティック」もしくは心理学用語でいう「ハロー効果」がはたらいています。
「ハロー効果」とは、「後光効果」と訳されます。
「代表制ヒューリスティック」とも通じますが、人は「顔がよい」とか「学歴が秀でている」とか、「身体能力が並外れている」とか、「圧倒的な金持ちである」などといった、その人物を代表するとびぬけた事柄があれば、それが全体のイメージを形作ってしまうことをいいます。
かわいい・美女・イケメン・カッコイイといった顔をしていると、全体のイメージが、素晴らしく美化されるのです。
気質や性格のよさ、謙虚で献身的で爽やかな人柄……などと、内面はまったく、そうでなくても、そうしたイメージを纏(まと)えます。
「東大卒」と聞くと、仕事も出来て、コミュニケーション能力も良好な頭の賢い人とイメージしてしまうのと同様の効果です。
これが、行動経済学でノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン博士がいうところの「代表制ヒューリスティック」であり、「ハロー効果」というわけです。
ドラマや映画の善人は、そうしたイメージを纏っているでしょうし、悪人はそれなりのイメージを醸してしているものでしょう。
そうでなければ、ドラマや映画のストーリーの流れに大衆は「感情移入」出来なくなるからです。
ここにも大事な形で「認知バイアス」がはたらいているのです。つまり、偶像であるアイドルも、顔が「かわいい」とか「かっこいい」とかで、勝負が決まってくるゆえんなのです。
そのうえで、歌唱力があり、ダンスがうまければ、申し分のないアイドルとしての存在感が放てるわけです。