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給付金問題の元電通マンも参加した金脈と人脈の「前田ハウス」

持続化給付金事業に関する委託費中抜き疑惑を巡り、そのキーマンとされる人物が米国で開催した交流会がにわかに注目を集めています。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、同疑惑の渦中の元電通マンも参加したという「前田ハウス」なるパーティーの詳細を紹介。さらに新さんは、主催者である中小企業庁長官・前田泰宏氏を「不当な委託、再委託の責任者」とした上で、「前田ハウス」の開催は国家公務員倫理法にも抵触する疑いもあると糾弾しています。

金になる人脈源「前田ハウス」に参加した渦中の元電通マン

持続化給付金業務の入札をめぐる疑惑がますます深まってきた。入札調書で黒塗りにされているデロイト・トーマツ社の見積額のほうが、落札したサービスデザイン推進協議会よりも低かったと各メディアが報じている。

経産省は、「総合評価」で同協議会に決まったと言うが、「総合」の中身を詳細に説明しなければ理解は得られない。こと安倍政権において「総合」はクセモノである。

中小企業200万円、個人事業主100万円の持続化給付金。5月1日から申請がはじまり、これまでに申請のあった約206万件のうち約151万件に支給。給付済みの総額は2兆円を超えたという。第1次補正予算の2兆2,000億円では足りなくなるため、第2次補正に1兆9,400億円が計上されている。

しかし、スムーズに給付業務が進んでいるとはとても思えない。6月12日の衆院経済産業委員会で梶山経産相はこう述べた。

「5月1日から5月11日までに申請を受け付けたのが77万社です。うち72万社に振り込まれたが、まだ5万社は入金ができていない状況であります」

つまり5万社もが、1か月以上にわたり苦境にあえぎながら待ちぼうけを食らっている。「スピード重視」のスローガンが泣く状況だ。

デロイトだったらどうだったか、と思うのが人情だろう。兆円単位の救済金を配る大プロジェクトを委託するのに、企業評価が高く入札額が低いデロイトをあえて退け、サービスデザイン推進協議会を選んだ理由は、およそ察しはつくが、とても納得できるものではない。

野党議員が同協議会のオフィスを訪ねると無人で連絡がつかず、テレワーク中で不在という言い訳も、とってつけたよう。幽霊法人の嫌疑がかけられると、電通、パソナ、トランス・コスモスの3社の役員が協議会の共同代表理事となって記者会見し、釈明に大わらわ。

その翌日には5人のスタッフがオフィスでなにやら書類を作成しているような風景をメディアに撮影させたが、使っているパソコンの機種はバラバラで、どうやら個人の持ち込みらしい。案の定、そのまた翌日に野党議員が事務所を訪ねると、「もぬけの殻」。やっている風を装ってみても、何の役にも立たない。

769億円で委託された同協議会が749億円で電通に再委託。その差20億円のうち、15.55億円は、みずほ銀行への振込手数料という。そうだとして、あとの4.45億円は何なのか。スタッフ21人の人件費が1.18億円、払い出し作業(10名体制)が7,200万円などと説明する。1.18億円を何か月分の給料にあてるのか、年収並みの一人平均562万円というのは、どうみても高い。

振込手数料、人件費、払い出し作業経費を4.45億円から差し引くと、2億5,500万円が残る。実質的に同協議会を仕切っている業務執行理事、平川健司氏(元電通社員)はいくらの報酬をもらえるのだろうか。協議会の利益としていくら計上されるのだろうか。

ふつうの国民の目からは、同協議会は国から委託された仕事をほとんどそっくり電通に再委託したように見える。トンネルのような法人が受け取る金額としては、どこからどう見ても多すぎるのではないか。

しかも、この再委託には、重要なルール違反の疑いが濃厚なのだ。

2006年8月25日に財務省が各省庁に通達した「公共調達の適正化について」のなかに、「一括再委託の禁止」という以下の項目がある。

委託契約の相手方が契約を履行するに当たって、委託契約の全部を一括して第三者に委託することを禁止しなければならない。

今回の場合、経産省の委託契約の相手方はサービスデザイン推進協議会である。同協議会は契約の全てを第三者である電通に委託することはできないのだ。全てではない、97.3%の再委託だ、という理屈が通用するだろうか。

同協議会から電通への再委託について、経産省OBの衆院議員、泉田裕彦氏はツイッターで、こう疑問を投げかけた。

泉田氏が通産官僚だったのは2004年夏までで、前記の財務省通達が出される前だったが、それでも50%以上を再委託できないという省内ルールがあったというのである。98%近い再委託など、もはや丸投げといっていいレベル。トンネル法人と批判されても強く反論できないはずだ。

さて、この不当な委託、再委託の責任は誰にあるかと問われれば、梶山経産相と任命者である安倍首相に行きつくだろうが、直接的には、中小企業庁長官、前田泰宏氏の名をあげざるをえない。

このところ、国会からお呼びがかかる回数は主役級で、役人というより商人のような関西弁キャラクターが異彩を放っている。このざっくばらんな雰囲気でビジネスマンをひきつけているのだろう。週刊文春6月18日号の記事によると、無類のパーティー好きで、アメリカで「前田ハウス」なる交流会を開いていたそうなのである。

米テキサス州はオースティン。その地で毎年3月に開かれる大イベント「サウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)」に2017年以来、前田氏とともに参加した人たちが宿泊し、パーティーを楽しんだのが「前田ハウス」だ。当時、前田氏はITベンチャーなどを育成する経産省商務情報政策局担当の審議官だった。

そこに、サービスデザイン推進協議会の業務執行理事である元電通社員、平川健司氏が参加していたことを、前田氏と平川氏の親密な関係を裏付ける事実として文春は報じ、野党も問題視している。前田氏は商務情報政策局を担当するより前から平川氏と付き合いがあったと国会で答弁している。

電通、パソナ、トランス・コスモスが設立した同協議会が「おもてなし規格認証」事業をはじめたのは、2016年5月。第1回目の「前田ハウス」が開かれる10か月ほど前のことだ。当時まだ電通社員だった平川氏に前田氏が目をつけて「おもてなし規格認証」のアイデアを出させ、電通に在籍したまま業務執行理事に据えた可能性がある。

なぜホテルではなく、民泊だったのかというと、「SXSW」開催期間中は、どこのホテルも予約がとりにくいため、民泊サイト「Airbnb」を利用したのだとか。

サウス・バイ・サウスウエストは、もともと音楽の祭典だったようだが、映画祭が加わり、最近では新興企業の展示会、講演会、パーティー、コンテストも開かれ、街ぐるみの大規模なイベントとなっている。

そんな催しを、経産省の関係者が見に行くこと自体には何ら違和感はない。2017年から前田氏は、数名の部下を引き連れて、そのための出張をしており、現地で日本のビジネスマンと親睦を深めることもあるだろう。

だが、なにごとにつけ、過ぎたるは及ばざるがごとしである。実に不思議なパンフレットの写真が文春の記事に掲載されている。これを見ると、前田氏はいったい何者なのか、何を勘違いしているのか、という気分にさせられる。

「前田House in SXSW Austin」。これがタイトル。3月10日から19日までのSXSW期間のうち、「前田は3/8-3/12滞在」と書いてある。前田氏が何者かについては一切記述がない。つまり、前田といえばわかる人に配るのだろう。往復の航空機やSXSWのチケットなどは各自で用意し、140平方メートルの大型アパートメントに「15人で雑魚寝宿泊」、「女子部屋あり」となっている。

このパンフを作成したのが『金になる人脈』(幻冬社新書、2008年)の著者、柴田英寿氏で、パーティーの幹事役を引き受けていたらしい。「前田ハウス」の名付け親でもあるという。そこで、とりあえずキンドルのサンプル版をダウンロードしてみる。「はじめに」に書かれているのは概ね、こんなことである。

他の人が知らない情報が手元にあることが儲かるための条件です。人が知らない情報を得ることができるのが人脈です。人脈から得られるのは、大量の情報をどう見るか、どの情報だけ見ておけばいいか、ということです。その見方とは、業界についての話や、国についての話、金融についての話かもしれません。私自身の経験でも、儲かったのはすべて、人からもらった話でした。本書では…「金になる人脈」をつくる秘訣を明かしていきます。

さて、先ほど、サービスデザイン推進協議会から電通への丸投げ的再委託はルール違反と書いたが、「前田ハウス」のごときふるまいは、国家公務員倫理法にも抵触する疑いがないとはいえない。

同法に基づく倫理規定にはこういう条文がある。

職員は、国民全体の奉仕者であり、国民の一部に対してのみの奉仕者ではないことを自覚し、職務上知り得た情報について国民の一部に対してのみ有利な取扱いをする等国民に対し不当な差別的取扱いをしてはならず、常に公正な職務の執行に当たらなければならないこと。

「前田ハウス」に集う面々は、柴田氏の言う「金になる人脈」を求めてやってくるのに違いない。その中心にいる前田氏の口から飛び出しうる「人が知らない情報」は、まさしく「国民の一部に対してのみの有利な取り扱い」であろう。

「えこひいき」がまかり通っているのが、この国の現実だ。首相が手本を示しているのだから、なにより始末が悪い。

image by: 中小企業庁, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

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