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一触即発の朝鮮半島。唯一巻き添えを食う可能性がある日本の運命

6月16日、北朝鮮が予告どおりに開城(ケソン)にある「南北共同連絡事務所」を爆破し、世界中に衝撃を与えました。融和政策を進めてきた文在寅大統領への強い非難に対し、韓国軍も警告を発していて「何らかの武力衝突は必然」と語るのは、元国連紛争調停官で国際交渉人の島田久仁彦さんです。メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』で、事が起きた場合の米中の出方を分析し、戦火に巻き込まれる可能性があるわが国の備えの必要性にも言及しています。

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北朝鮮が仕掛けた“最後の賭け”?!

6月16日、速報で世界に伝えられた【北朝鮮による開城(ケソン)の南北共同連絡事務所の爆破】は大きな驚きと様々な憶測を生みました。

今回、特に世界にとって、そして特に韓国にとって大きなサプライズとなった理由は、『金正恩氏ではなく、妹で党第一副部長である金与正氏が主導したこと』『瀬戸際外交の典型例と見られたが、本当に有言実行したこと』でしょう。

その前週に南北の通信回線を一方的に遮断したことに始まり、13日には金与正氏が今回の爆破を予告していましたが、“当事者”たる韓国政府も含め、「ああ、またお得意の瀬戸際外交だろう」と高を括っていたように思えます。しかし、先述の通り、有言実行で16日に開城のビルが午後2時49分に崩れ落ちる映像が配信され、各国の認識が甘かったことが明らかになると同時に、朝鮮半島、そして北東アジアをめぐる安全保障情勢は一気に緊迫化することとなりました。

北朝鮮がなぜこの期に及んでこのような愚行に及んだのかという理由については、「コロナ渦で本当に経済が詰んだ」とか「飢餓状態が尋常ではないらしい」、「2018年の板門店合意を履行しない文大統領とその政権に対する苛立ちと報復」、そして「金正恩氏を侮辱するビラを脱北者支援団体が飛ばしたことに切れた」など諸説あり、恐らくそれらはすべて起きていることだと思われますが、どれも本当の決定的な理由とは考えづらく、一つ確実に言えることがあるとしたら、北朝鮮は「越えてはいけない一線を越えてしまった」ということでしょう。

酷い裏切りと仕打ちを受けた文大統領は、体面を保つために一応、厳しい反応を返してはいますが、同時に北朝鮮とのパイプこそが文政権のライフラインだったわけですから、何とか関係修復を図ろうと、べた降りして北朝鮮のご機嫌取りをしようとしました。大統領特使を送り、“これまでのように”北朝鮮からの支援要請に応えるつもりでしたが、今回に関しては完全に拒絶され、おまけに世界各国の面前で文大統領を罵倒するようなSHOWまで北朝鮮から突き付けられて、文政権としては、国家安全保障上、正面から対決し、体面を守るほかなくなってしまいました。

韓国軍は「これ以上のエスカレーションが起きた場合は、北朝鮮に対して実力行使する」と警告を発しましたし、大統領府でさえ、非常に強い口調で「今回起きたこと、そしてこれから起きることは、100%北朝鮮に責任がある」と全面対決の姿勢を示し、一触即発の事態が生まれています。

それに呼応するかのように北朝鮮も一歩も退かず、南北協力の象徴を木端微塵にした開城と南北交流の象徴として位置づけ、韓国からの観光先にしていた金剛山に北朝鮮の部隊を配置し、板門店のDMZも再武装化を一気に進めるなど、武力による攻撃も辞さない姿勢を明確にしました。これまでに何度となく起きてきたエスカレーションと戦争の危機に照らし合わせても、今週起きている事態はただの威嚇とは思えない状況です。

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今週一気に過熱した南北の対立に際し、北朝鮮はどうも本気で“やる気”ですし、そこに韓国も受けて立つ姿勢を示したことで、残念ながら事態は70年一気に戻ってしまった気がします。

通常、北朝鮮をめぐる情報については、いろいろなものが入り乱れ、実状がつかみにくいのですが、今回は北朝鮮側に付くことになるだろう中国やロシアから流れてくる情報も、当事者たる韓国や米国、Five Eyesというsurveillanceシステムで米国と共に北東アジアを見ているオーストラリアや英国から入ってきた情報も含めると、「今回については、何らかの武力衝突は必然で、その規模については分からないが、ハンドリングを誤ると、朝鮮戦争の二の舞となり、世界が朝鮮半島を巡る戦争に巻き込まれる可能性が高い」という見解が出てきました。

今、“世界”は、再び起こる可能性が高くなった朝鮮戦争、それも70年前よりもはるかに近代化した戦争に備え始めました。コロナ渦でショックを受けた各国にとっては、本来であれば戦争の準備などしている場合ではないのですが、朝鮮半島は第2次世界大戦と冷戦の名残を残した最後の『地政学上の戦略拠点』と位置付けられており、これまで数週間にわたって触れてきた“現在の2大覇権国”である米中の最新かつ最もホットな衝突スポットになるのではないかと懸念されています。

もしそうならば、以前、このコーナーでも何度か懸念を示したように、朝鮮半島が新しい世界大戦のトリガーになってしまうというシナリオに進むことになるのですが、実際には今、米中露どこも朝鮮半島を巡る戦争には関心がなく、南北朝鮮を守るために介入することはしないでしょう。

理由の1つは、新型コロナウイルス感染拡大が変えた世界の実情というのがあります。中国は首都北京での感染第2波が襲ってきているようで、加えて習近平政権はアメリカとの貿易戦争や東南アジア、特に南シナ海での覇権拡大のための南沙・西沙諸島での軍事的プレゼンス拡大に手一杯です。そして、もちろん香港問題は最大の関心事項です。

もちろん6月18日まで17日間連続で沖縄県尖閣諸島海域に海警の船舶が侵入するという尖閣諸島および東シナ海での威嚇というのも日米(韓)にとっては由々しき安全保障上の問題ですが、こちらについては、アメリカも韓国もどうも煮え切らない態度に思えますので、実質的には日中間の問題となっているように思われます(もちろん日本にとっては許せない事態ですが)。

そして、今、中国は、同じく今週に緊張が高まったインドとの武力衝突とその後遺症に急ぎ対応する必要があり、朝鮮半島にフルで対応することは叶いません。要するに、中国としては、今、北朝鮮が“勝手に”仕掛けている威嚇行為には与せず、戦争に発展しないように自制を促してはいますが、戦争やむなしの場合は、そのために犠牲を払う気は毛頭ないというように理解できます。

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一方、アメリカのトランプ政権ですが、こちらも朝鮮半島情勢には関心が高くありません。米朝首脳会談と合意内容の履行(特に北朝鮮の非核化)が遅々として進まないことに業を煮やし、再三の北朝鮮からの威嚇をスルーし、大統領選が決着するまでは北朝鮮問題には触れないと切り捨てています。

さらには、以前より何度もお話ししていますが、アメリカによる韓国切りは修復不可能なレベルまで達しているため、中国への対抗と同盟国・日本の防衛という観点を除いては、朝鮮半島への介入はオプションとしては入っていないとのことです。

政権の高官の言葉を借りると、「南北で開戦するというのは決して望ましい事態だとは思わないが、仮に開戦した場合でも、アメリカは、日本への攻撃が行われるか、中国が参戦するような事態にならない限り、介入しない。あくまでも自制を求めるだけだ。個人的な意見だが、中国も今回は介入しないだろう。朝鮮民族の夢としての半島統一は、この際、自分たちだけで叶えればいい。韓国に関わるのはもうたくさんだ」とのことです。

当然、北朝鮮も韓国もそのような状況は理解しているでしょうから、普通に考えれば、緊張が高まり、軍事的な対峙があったとしても、これまでのように戦争にまでは発展しないだろうと、Point of No Returnを超える前に踏みとどまることになると思われますが、どうも今回、北朝鮮側の鼻息が違う気がして仕方がありません。その最大の理由は、北朝鮮側で今回の騒動を主導しているのが、トップの金正恩氏ではなく、金与正氏だということです。

私もメルマガで取り上げましたが、今年、再三、金正恩氏の安否問題・健康問題が話題となり、誤報扱いにはなりましたが、CNNは金正恩氏死亡説や重体説を流しました。一応、生存はしているようですが、確実に北朝鮮の金体制内では大きな変化の兆しが見られます。その最たるものが、金正恩氏の最愛の妹にして、実質的なナンバー2とされる金与正氏が表舞台に出てくる回数が格段に増えていることです。

「金正恩氏は生きていたとしてもかなり体調が悪く、また3人の実子たちもまだ幼い。ゆえに、最も信頼する与正氏に実権を譲るのではないか」との憶測がでる原因になっています。実際には、儒教思想が強い北朝鮮においては、女性である金与正氏がいきなりリーダーの座に就くということは考えづらいとの見方が多いのですが、金与正氏の今後を占うイシューがあるとすれば、「いかにして軍部を掌握し、120万人を超す軍を統括できるか」という点です。

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金正恩氏の健康不安説や安否確認が行われた際には、「仮に金与正氏がリーダーシップを引き継ごうとしても、軍経験がない彼女に対して軍がクーデターを起こして、金王朝が終わるだろう」という見方が強く、「ゆえに、それはない」と言われましたが、今回の騒動において、実際に軍が彼女の意向を汲んで開城と金剛山に部隊を配置していることから、詳細はまだ不明ですが、確実に金王朝内でのリーダーシップ移譲の動きが加速しているように思います。

特に死せずとも、妹に権力を譲っていくという決断を金正恩氏が行っているのだとすれば、期間限定でも金与正氏が率いる北朝鮮という現実が出てくるかもしれません。そのためには、2010年の韓国・延坪島への砲撃事件が金正恩氏の手柄として讃えられ、彼の支配基盤を固める権威付けに使われたように、金与正氏の権威付けのために何らかの武力攻撃が韓国に仕掛けられる可能性が高いのではないかと思われます。

問題は、それがどのような内容でどのような規模なのかということで、さすがに核兵器の使用はないかと思いますが(核を使用してしまうと、米中露の非介入方針が覆り、北朝鮮を“終わらせる”動きが一気に加速することになるので)、何度も脅しとして用いられた『ソウルを火の海に』を現実化する攻撃を行うことは大いに考えられます。場合によっては、日本もその災禍に巻き込まれるかもしれません。

北朝鮮暴発への警戒もあるのでしょうか。6月16日と17日に米中外交トップがホノルルで急遽会談していますが、ここでは米中両国の対立事項については棚上げし、朝鮮半島有事についての対応“のみ”が議論されたようです。アメリカも中国も(欧州も)韓国と北朝鮮に自制を促していますが、自国の権益に被害が及ばない限りは、参戦はしないことで合意した模様です。

同様の内容の“合意”や認識の共有は、18日に行われた朝鮮半島問題を話し合う“ストックホルムグループ”(注:日本はなぜかメンバーではない)のオンライン会議でも確認され、それが米欧などからの“自制要請”という形で表出していると言えます。

韓国と北朝鮮が国境線を挟んで一触即発の状況となり、どちらも互いの面子のために掲げてしまった拳を下げることが出来ない状況に陥っていますが、各国が非介入を決める中、唯一、直接的な影響を受けそうなのが、我が国日本です。

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日本は交戦権を放棄しているため、自衛のための先制攻撃も行えませんが、何らかの形で“流れ弾”が飛来した場合、自衛権を発動しなくてはなりません。しかし、同じく今週大きな話題になりましたが、防衛相(省)は急遽、建設を進め、並行してアメリカとの契約も進めてきたイージス・アショア配備計画を実質白紙に戻す決定を行いました。

この突然の方針転換には、いろいろと紆余曲折があったかと思いますし、その詳細は知る由もありませんが、本件を単発で観た場合には、何かポジティブな雰囲気を感じるのですが(実際に山口県と秋田県は安堵した様子)、ここまでお話ししてきた内容を踏まえると、日本国の国家安全保障上、今この時期にするべき話だったのか?との疑問が湧いてきます。

まあ、イージス・アショアが短期間に稼働するという事態ではないので、もし朝鮮半島情勢が近々爆発するような際には配備しても間に合いませんが、今一度、今回の騒動と脅威を機に、安全保障体制について熟考し、迅速に実行に移さなくてはならないかと考えます。

コロナ渦で最近まで手薄になっていたアメリカ軍による防御網や、日米韓の足並みの乱れが目立つ中、一気にエスカレートし、開戦の可能性がこれまで以上に現実化してきた朝鮮半島情勢を目の当たりにして、どのような現実的な対応を行うのか。大きな課題と必要性に直面しているのではないかと懸念しています。

いろいろとお話しできない内容の情報もたくさんあり、また信頼できるかどうかの判断ができないような内容も多々あるため、明確にお伝え出来ないこともあり、読まれていてもどかしくお感じかもしれませんが、一言言えることがあるとしたら、日本のメディア、特にワイドショーが伝えるような呑気な状況では決してないということです。

恐らく今回、お伝えした内容については、いろいろなご批判もあるかと思いますが、ぜひ、『有事の際、自分はどう動くか』について今一度考えていただくきっかけになればと願います。コロナ渦の影響がまだまだ収まらない中、不安な日々が続きますが、考えることを止めずに日々生きていたいと願っています。

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image by:Alexander Khitrov / Shutterstock.com

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世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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