トランプが本気を出せば中国は秒殺される?香港市場がしぼんだら中国経済は息ができない=勝又壽良

 

米中デカップリングの現実味とは

先の全人代では、恒例の今年の経済成長目標値が発表されなかった。

発表できないほど、「コロナ禍」に痛めつけられている結果だ。今年はせいぜい、1~2%成長という低成長予測がされている。コロナ禍だけでない。米中冷戦で米中デカップリング論が現実の日程に上がってきた結果である。

本欄は、早くからその可能性を取り上げている。コロナ禍に対する中国の無責任な態度と逆に攻撃的姿勢が、米中分断をプッシュさせる動因だ。米国による、中国経済を追い詰めるという信号弾になった。

米国は、対日警戒体制を具体化させるべく、1910~11年に「オレンジ作戦」と銘打って日本包囲網に着手した。今回の対中警戒体制では、米国が主導する新しい経済同盟構想「経済繁栄ネットワーク」(EPN)構想に着手している。主要メンバーは、日・米・豪・印のほかに、韓国や台湾へ呼びかける。技術的に一頭他を抜く国が連合して世界のサプライチェーンのハブを形成しようというものだ。

オーストラリアとインドは、先ごろ対中国を念頭に経済と安保の両面で定期協議をすることで合意した。インドは、米主導の「インド太平洋戦略」構想への参加を意思表示したことになる。豪印関係は、従来の戦略パートナーシップから包括的戦略パートナーシップに格上げすると決めた。相互後方支援協定の締結でも合意した。この協定で両国の軍隊が、互いの艦船や航空機に燃料補給したり、整備施設を利用したりできるようになる。中国は、国内不満を逸らす目的で豪印との関係を悪化させている。そのしっぺ返しを受けた形だ。

中国は、安全保障政策をめぐる周辺国との対立が、のっぴきならぬものになってきた。

米国は、安保政策だけで日米豪印を連合させるのではない。「経済繁栄ネットワーク」(EPN)構想によって、韓国や台湾をこれに参加させ米中デカップリングの受け皿にさせる方針だ。中国を共同安保で取り囲むだけでなく、経済でもEPN構想を展開し、中国を米国市場から切断させるのが大きな目的である。

着々と米国に追い詰められる中国

米国は、日米開戦前に石油や鉄くずの対日輸入封鎖をすべく、「ABCDライン」を敷いていた。Aは米国、Bは英国,Cは中国、Dはオランダである。このABCDラインが、日本を米英開戦に踏み切らせたという説もある。だが、日本側は長期戦を意図していなかった。緒戦の勝利で米英と和平へ持ち込む戦術であった。これが、見事に外れて敗戦を喫したのだ。

中国は、どういう戦術を取るのか。米国市場から切り離される中国経済は、ドル資金の入手方法が極端に細くなる。米ドルが国際基軸通貨である以上、中国にとっては死活問題になるのだ。

人民元は、ローカルカレンシーに過ぎない。ドルの威力の前では、足元にも及ばないのだ。中国外交には、そこまでの計算をしているとは思えない。旧日本軍が、ABCDライン突破で編み出した開戦は、中国に適用できない事情があるのだ。

中国の共産党専制主義が、開戦という最悪事態を選択すれば、国内の不平不満派を立ち上がらせる危険性がある。日本の旧天皇制と中国共産党への忠誠度では、月とスッポンの違いがある。共産党員のために命を捧げる、中国国民がどれだけいるだろうか。党員ですら疑問である。第一次世界大戦で、ドイツ・オーストリア・ロシアの3皇帝が崩壊した事実を思い起こすべきだ。過酷な支配階級の中国共産党は、国民から怨嗟の的である。

中国は、米国から経済封鎖を受けても、簡単に戦争へ訴えられない事情がある。国内で武装蜂起の危険性があるからだ。

そうなると、中国経済はジリ貧状態に陥るだろう。これだけでない。米国は、香港への国家安全法適用に抗議して、米国による特恵廃止の意向を表明した。これにより、香港の持つ金融機能が大幅に制約されるのである。

中国は、香港金融市場をフル活用してドルを調達してきた。この隠れた現実が、中国の外貨準備高を3兆ドルと世界最高水準に押し上げている背景である。

中国は、この高い外貨準備高を自慢の種にして発展途上国を畏怖させてきた。このマジックは、香港金融市場の地位低下で失うリスクが高まる。中国の大言壮語は、消えるほかない。「一帯一路」プロジェクトも、ドル資金調達に問題が起これば立ち消えだ。

香港金融市場が、現在の地位を失えば、中国経済も道連れとなるのだ。米国は、この現実をしっかりと把握して手を打っている。

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