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今も植民地のまま。なぜ日米地位協定は60年も改定されないのか?

日米地位協定は、沖縄慰霊の日である6月23日に発効60年を迎えました。この間、特に沖縄からは協定の見直しを求める声があがり続けているにも関わらず、放置状態が続いています。その原因を、メルマガ『NEWSを疑え!』を主宰する軍事アナリストの小川和久さんは、キャリア官僚の安全保障問題への無知のせいと指摘。それが、政治家、ジャーナリスト、経済人をも無知にしているという、この国の惨憺たる有り様を嘆いています。

日米地位協定の改定は可能か

沖縄慰霊の日の23日、毎日新聞朝刊1面トップに次の記事が掲載されました。

「1960年に改定された日米安全保障条約と、これに基づき在日米軍の法的地位や基地の管理・運用を定めた日米地位協定は、23日で発効から60年を迎えた。毎日新聞が47都道府県の知事に地位協定見直しの要否を尋ねたところ、8割を超える39人が『見直す必要がある』と回答した。活動に日本の国内法が適用されないなど在日米軍に大きな特権を認めた協定に対し、多くの地方自治体が疑問を抱いている実態が浮かんだ。

 

発効60年を前に各知事にアンケートを依頼し地位協定を見直すべきかどうか、などの意見を尋ねた。全員から返答があり、『見直す必要がない』と答えた知事はいなかった。8人は『外交・防衛に関する問題は国の専管事項』『国が責任を持って対応すべきだ』などと説明して無回答だった。

 

『見直す必要がある』とした39人に8項目から該当する理由を全て選んでもらったところ『日本の国内法を米軍にも適用してほしいから』が最多の25人だった。静岡県の川勝平太知事は『協定は治外法権に近く、不平等だ。繰り返される米軍の事件事故を防止するためにも抜本的な改定が必要』と指摘。岩手県の達増拓也知事も『米軍の移動や訓練に日本の権限が及ばず、地方自治や住民の安全などの観点から非常に問題がある』と改善を求めた。(後略)」

これは当然の要求なのですが、これまで政府は「他の国と比べても日本が不利ということはなく、むしろ有利な面もある」として米国との交渉に消極的な姿勢を示し続けてきました。また、やや本音ベースでは「米国は、日本との地位協定改定がほかの同盟国にも波及することを怖れている」と、オフレコの形でマスコミに伝えてきました。

しかし、ドイツ、イタリアなどNATO(北大西洋条約機構)諸国がそれぞれ地位協定を改定してきたことは、リサーチをすればたちまち明らかになる話です。国会が調査したり、マスコミが本格的な調査報道に踏み切ったりすれば、一目瞭然となる話でもあります。政府は、国会やマスコミの怠慢を良いことに、日米同盟を健全に維持するうえで必要な問題にほっかむりしてきたのです。

日米地位協定については、私自身も面白い思い出があります。2009年7月1日、那覇市のパレット市民劇場で行われた日本JC主催の「日米地位協定を考えるJCフォーラム」で講演したときのことです。講演後のパネルディスカッションの相方は、当時、米国の沖縄総領事だったケビン・メア氏。普天間問題について米国側の最強硬派として怖れられていた人物です。

私は、「日米地位協定の改定は可能か」という演題で基調講演し、最も望ましい解決策を描くことで日米関係の信頼性を高めるべきだと問題提起し、在日米軍基地のあり方をメア氏に問いかけてみました。私が、旧西ドイツの米軍基地には西ドイツ政府の許可だけで入ることができた経験を述べたところ、なんとメア氏は「アメリカと西ドイツの共同使用施設だからではないか」と答えたのです。

そこで、三沢基地など日本の共同使用施設の場合、日本政府の許可は不要な一方、米軍側の許可が必要だと指摘すると、答えはありませんでした。メア氏が米軍基地の実態について知らないことが明らかになった瞬間でした。このメア氏に、日本側は普天間問題でも押しまくられてきたのです。

なぜ、こんなことになるのか。それは、日本の担当者が安全保障問題について無知で、外国との交渉能力を備えていないからにほかなりません。キャリア官僚を教え子とする大学の先生方が無知、その先生に教わった政治家、ジャーナリスト、経済人も無知とあっては、絶望的とさえ言えます。

2015年5月27日、いまはZホールディングスのCEOになっている川邊健太郎さんがYahoo!の副社長だったころ、私を勉強会に呼んでくれました。そこで驚かされたのは、川邊さんの友人だという外務省の日米地位協定室長が日米同盟にまったく無知で、米国に守られている日本は何も言えないというレベルに終始していたのです。むろん、日米同盟の実態を調べたことはおろか、米国にとって日米同盟が死活的に重要で、日本の離反を米国が怖れていることなど考えたこともないのは明らかでした。

キャリア官僚を有り難がり、専門家だと錯覚して丸投げにしてきた政治家の皆さん、キャリア官僚の意向を忖度し、すり寄ってきた大学教授とマスコミの皆さん、そろそろ目を覚ましてもよいのではないでしょうか。私とメア氏の協議の様子は拙著『フテンマ戦記』(文藝春秋)の第4章に詳しく書いてありますので、参考にしていただければ幸いです。(小川和久)

image by:EQRoy / Shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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