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「軽い」だけで中身なし。小池都知事キャッチフレーズ作戦の功罪

歴代2位となる約366万票を獲得し、現職の小池百合子知事の圧勝に終わった今回の都知事選。落選した山本太郎氏が「百合子山は高かった」とコメントしたことが印象的でした。この選挙戦を新聞各紙はどう総括したのでしょうか。メルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』の著者で、ジャーナリストの内田誠さんが分析。都知事選報道から得られた結論を解き明かしています。

各紙の「東京都知事選」報道から学び取れるものは何か?

【ラインナップ】

◆1面トップの見出しから……。
《朝日》…豪雨 熊本死者49人に
《読売》…熊本 特養14人死亡確認
《毎日》…熊本豪雨 死者49人
《東京》…家賃給付金 遅すぎる

◆解説面の見出しから……。
《朝日》…特養被災 津波のような水
《読売》…高齢者の迅速避難 難題
《毎日》…コロナ対処 教員奔走
《東京》…コロナ選挙「現職有利に」

【プロフィール】

■軽い言葉■《朝日》
■喧しい早期解散論■《読売》
■ナラティブ■《毎日》
■現職有利の訳■《東京》

軽い言葉

【朝日】は1面下段の「天声人語」冒頭、人語子は、小池百合子氏が世に広めた言葉に「クールビズ」がある、と書きだしている。大平内閣の「省エネルック」が企画倒れに終わったのとは対照的に、日本の夏から上着やネクタイを追い出すのに貢献したとする。小池氏の成功例に違いない。

都知事になっても小池氏の持ち味はこうしたキャッチフレーズを武器にするところだが、その多くが「省エネルック」のような運命をたどりそうだとして、ほとんど達成できていない「七つの公約」、どこに行ってしまったのか分からない「築地を食のテーマパークに」のスローガン、そして「発動条件も効果もよく分からない「東京アラート」を批判する。再選された後は「東京版CDCの創設」を喧伝するが、尻すぼみにならないか心配になると。

最後に、「小池氏の場合、政治の言葉を面白くしているのは間違いない。しかしそれらが肉付けされないまま漂って消えるなら、軽い言葉より、もっと軽い」と。

●uttiiの眼

このほかに、選挙公約としては「東京大改革2.0」、コロナ関連では「ステイホーム」に「ウィズ・コロナ」、「夜の街」(これは別の人?)と賑やかだ。振り返れば、「都民ファーストの会」や「希望の党」もそうだった。これだけたくさんキラキラと飾った言葉が散りばめられていても、国政掌握の野望は、「排除いたします」の一言で失っているので、本当に言葉の使い方が上手い人なのかどうか、正直分からない。

小池氏が一つのキャッチフレーズを新たに打ち出した時、その時の会見で記者たちがどれだけ厳しい質疑応答をするか、そのあたりが最も重要なのではないだろうか。その言葉が問題を解決していく正しい旗印なのか否か、人々の頭の中でキャッチフレーズが勝手に暴走することのないよう、その条件や前提、背景などを問い質していくことで、小池氏も担当記者らと有権者を舐めきったような言葉遊びを控えるようになるかもしれない。

喧しい早期解散論

【読売】は4面に知事選と総選挙の関係についての興味深い政局記事。見出しから。
与野党 総選挙影響を注視
都知事選
与党 早期解散に賛否両論
野党 合流協議の思惑交錯

再選された小池都知事が安倍首相を官邸に訪ねて挨拶したという記事。首相以外にも自民党の二階幹事長、公明党の山口代表とも。選挙での支援への感謝を伝えたのだろう。

小池氏の圧勝は波紋を広げている。自民党内には「危機下の選挙は現職や与党側が有利」との“教訓”を導こうという動き。危機下では有権者が政治の継続性を求める傾向が強まるとの見方もあるという。若手議員の中からは、「野党共闘がまとまる前に選挙をした方が得策だ」という声も。「早期解散論」が噴き出している。

他方、コロナ禍など不安定な要素が山積しているとして、岸田政調会長は早期解散に否定的だという。加えて、公明党は早期解散への反対姿勢を鮮明にしている。首相にとっても解散のタイミングは難しい。解散後にコロナの感染が広がる可能性もあり、そもそもコロナ禍の時期に解散する大義名分が必要になると。

uttiiの眼

都知事選から「現職有利」を導き出し、「早期解散論」を唱える声が出ているというのは興味深い。既に「安倍4選」の芽が潰えつつあり、五輪開催(十中八九、中止だろうが…)との関係も重要になる中で、秋の臨時国会冒頭解散の線がどんどん強まっているように思える。

それとは別に、解散の話になれば、常日頃「総理の専権事項」と口を揃える議員たちが、解散のタイミングについて様々持論を述べ合っている状況というのは、安倍氏の求心力がいかに衰えたかを表しているのだろう。何が次に来るかは見通せないが、安倍政権の「終わり」が近づいている。

ナラティブ

【毎日】は2面の記者コラム「火論」。書いているのは大治朋子専門記者。タイトルを以下に。
族・闘魂女子の劇場

小池知事の圧勝の背景には、「リスクを伴う変化より現状維持の選択肢を好む」私たち有権者の傾向と、認知上のクセとしてナラティブ(物語)、いわゆるストーリー志向があるとする。候補者の語る物語でザックリと選ぼうとする傾向が私たちにあり、特に「勧善懲悪ストーリー」に魅せられやすいと。初めて登場した時のビル・クリントンがそうだったという。

ヘブライ大学のハラリ教授によれば、「ホモ・サピエンスはものを語る動物であり、数やグラフではなく物語で考えるし、この世界そのものも、ヒーローと悪漢、争いと和解、クライマックスとハッピーエンドが揃った物語のように展開すると信じている」と述べているという。

筆者によれば「小池劇場」は秀逸で、「崖から飛び降りる」「オッサン政治の打倒」「都民ファースト」を合い言葉に、「政治屋に挑む庶民の味方として大立ち回りをして見せた」とする。

「40年近くも一貫するイメージを発信し続けていて比類ない」としつつ、やはり「1期目で掲げた7公約のうち実現したのは一つだけ」と小池氏を批判。それでも都民は小池氏を信任したのだから、「物語の発信に終わらず言葉を守り、期待に応えて欲しい」と。

●uttiiの眼

小池氏に対して大変好意的な分析。現職を選択する有権者の傾向もよく分かるし、ナラティブの話もその通りだろう。しかし、小池氏がそれほど魅力的なナラティブを発信し得ていたかどうかは別だろう。ナラティブというような組み上げられたストーリーではなく、もっと雑なイメージのようなものではないのか。だからこそ、大勢の有権者を短い期間に籠絡できたのではないか。

現職有利の訳

【東京】は2面の解説記事「核心」。見出しを以下に。
コロナ選挙「現職有利に」
感染対策で存在感◆低投票率 新人浸透に高い壁

コロナ禍の選挙が本当に現職有利となっているのかについて、細かく分析している。選挙戦の様相は様変わりしていて、人の密集を避け、多くの陣営が集会や街頭演説を控えている。ネットやSNSを通じて政策や考えを訴えるのが一般的な戦術に。特に、現職はコロナ対応を理由に街頭に立たないケースが目立っていると。

分析の対象は、合計40の選挙で、総務省が各都道府県の選挙管理委員会に対し、地方選におけるコロナ感染防止対策の徹底を呼び掛けた2月26日以降の選挙で、知事選が熊本と東京、東京23区長選は目黒区と港区。市長選は全国55の市で行われたが、19が無投票、36市で選挙戦になった。この40の選挙のうち、現職が立候補したのは35。現職当選は25だったので、現職の勝率は71.4%。コロナ禍の影響かどうかははっきりしないものの、原色が強い選挙だったことは明らかだとする。

専門家は、「街頭で有権者と触れ合う従来型の選挙ができないことは新人には痛い。投票率が下がった上に、有権者の関心が直近のコロナ対応にばかり向かえば、コロナに立ち向かう現職の仕事ぶりだけが好意的に見られるという極めて現職有利な状況がつくられる」(法政大学大学院・白鳥浩教授)と。

●uttiiの眼

街頭に立たず、ネットで選挙運動を行った小池氏の闘いぶりが「特殊」に見えていたが、そもそも熊本県知事選挙で蒲島知事がやはり街頭に立たない選挙戦術を選択していたことになる。コロナ禍での選挙は、やはり現職に有利ということが言えるだろう。

image by: 小池百合子公式Facebook

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ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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