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このまま行けば日本は終了。コロナ危機を脱する対策なら2つある

メディア各社は先日、政府がインバウンドについて「ポストコロナ時代においても大きな可能性がある」として、コロナ以前と同様に取り組むことを閣議決定したと伝えました。しかし、今この時点で適切な手を打たなければ、我が国の経済は「ポストコロナ時代」に辿り着くことすら困難とするのは、米国在住作家の冷泉彰彦さん。冷泉さんは今回、自身のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』で、現在日本が襲われている未曾有とも言える「コロナ危機」はまだ続くとした上で、そこから脱するために考えられる2つの対策を提示しています。

コロナ危機の経済をどう乗り切ったら良いのか?

日本のGo Toキャンペーンが迷走していますが、その説明としては、ちきりん女史の分析がかなり整理されているので、「Go Toキャンペーン大混乱について」の一読をお勧めします。

ちなみに、この論考では触れていませんが、本来であれば7月24日から開催されていたかもしれない、五輪関係の経済が「消滅」したことへの穴埋めという意味合いもあると思います。

キャンペーンを行わざるを得ないという事情については、山本一郎氏も「酷評『GoToトラベル』が投げかける『地方経済か感染症対策かのトロッコ問題』」という微妙な言い方で解説しつつ批判しています。参考になる観点と思います。

今後の「コロナ危機経済」の動向と、これに対してどういった政策が必要なのかという点について、こちらもそろそろ真剣な議論が必要と思います。

とりあえず、観光・運輸についてと、自動車産業について、非常な危機意識をもって見ていかないといけないと思います。

まず、今回の「Go To」キャンペーンについては、確かに地方の観光産業、とりわけホテル・旅館ビジネスが資金的に厳しくなっているという問題を抜きにしては語れません。また、企業規模は3桁ぐらい違いますが、メガキャリアの航空会社についても、国際線が90%以上減便されている中では、資金の流出が止まりません。

ところで、この観光産業について政府は「ポストコロナ時代においてもインバウンドは大きな可能性があり、2030年に6,000万人とする目標の達成に向けて、観光先進国を実現するために官民一丸となって取り組む」という「骨太の方針」をこの7月17日に閣議決定しています。

ちなみに、この「骨太」というのは、痛みを覚悟で構造改革と財政規律に向かうという小泉政権の方針で使われたニックネームですが、「非現実的だが政治的には強行」というニュアンスだけが残っていて本来の意味合いは失われているので、いい加減に言い方として止めていただきたいのですが、それはともかく、2030年に6,000万人という目標は取り下げないことのようです。

3つ問題があります。

1つは、「ポストコロナ」と言うのは簡単ですが、それまでの「冬の時代」をどう乗り切るかという点です。ワクチンと治療薬の整備によってコロナ危機が克服されて、満席の777や787が羽田・成田・関空にあふれるような状況に戻すには時間がかかります。現在のような「インバウンドは事実上ゼロ」で「東京発着もダメ、団体もダメ」という「観光冬の時代」がある程度続くことは覚悟しなくてはなりません。

例えば、今回の「Go To」が空振りに近い結果となり、9月以降に多くの観光宿泊施設が資金ショートに陥ったとします。その場合に、個々の法人について清算がされていくのはもう仕方がないと思います。

問題は、そうした破綻が増えることで、改めて地方の金融が深く傷つくことです。現在の地銀は、バブル崩壊の際とは異なり、バカみたいに不良化するような担保だけでカネを貸したりはしてません。そうなのですが、仮に全国で大規模な形でホテル旅館の清算が続くようですと、金融も持たないということが考えられます。そこをどう乗り切っていくのか、今から治療法を考えておかないと地方経済は本当に死んでしまいます。

2つ目は「人」の問題です。仮に大規模な雇用喪失が起きたとして、その場合に失業保険+生活保護といった現在の枠組みで救済していくのか、それとも別に枠を設けて大規模な救済をしていくのか、プランを考えておかねばなりません。

3つ目は資本の問題です。仮にコロナ危機が深化して、秋以降の日本で感染爆発が起きてしまうと、観光業は壊滅的になります。多くの企業が清算ということになるでしょう。その際に、「まだ使える建物」や「営業権」などをコツコツ買い集めて、本当に「ポストコロナ」へ向けた投資をする動き、つまり逆張りの動きも出てくると思います。

その再生へ向けた資本というのは、どこから引っ張ってくるのか、例えば欧米系のマネー、中国系のマネーも大規模に入る可能性があるわけですが、それが過度にならないためには、民族資本もしっかり加わって行かねばなりません。それは、民間でリスクを取って調達ということになるのか、それとも官民で何かスキームを立ち上げるのかということは考えておいた方が良いと思います。

もう1つ、自動車産業の行方も大変に心配です。ラフな速報ですが、北米の自動車販売に関しては、2Q(第2四半期)を終えた時点で、「前年比マイナス23%」という恐ろしい数字が出ています。ですが、よく考えるとアメリカの場合は1月から3月はまだクルマが売れていたので、この数字はまだ「危機が本格的に反映」してはいません。今後、

という4つのマイナス要因が下期の北米の自動車セールスを直撃していきます。これも、日本経済にとって大変に大きな問題です。

やや大雑把な議論になりますが、観光・運輸・自動車といった3つの産業だけを考えても、経済ということでは未曾有の危機が続くように思います。これに対する対策としては、2つ考えられます。

1つは、思い切って資金を調達するということです。国債を大規模に国際マーケットに向けて売っていくということもありますし、民間のマネーも世界規模の調達を行うということが必要です。その場合には、ゾンビ化する部分には資金を回さずに、高付加価値と先進性のある領域に集中した投資を行うのは当然ですが、その分野であれば、2010年代までの日本では想像もできなかったような大規模な資金調達をやっていいと思うのです。

こうした危機に対して財政規律にこだわる向きも多いのは承知していますが、ここまで深い危機における「資金調達」というのは「国の借金を増やす」のではなく、むしろ「国の資本金を増資する」のだという姿勢で臨むべきです。そして、世界の多くの国や企業が猛烈にカネを集めている、つまり借りまくっている中では、日本の行動はむしろ健全であり、投資のクオリティとして比較優位を打ち出せるのです。どの国も「ダメダメ」である中で、日本の競争力とか投資先としての魅力はいくらでも浮上させることは可能です。そして、そのように2020年の世界において魅力的な領域に絞ってカネを集め、カネを投下していく、そのような経営が求められると思うのです。

2つ目は、仮に米国や欧州のコロナ危機が泥沼化した場合ですが、1つの大きな可能性として「中国経済の再拡大に連動してゆく」という考え方があります。観光ということでも、自動車、電子部品など、現在のサプライチェーンのストラクチャーを越えて、もっと大規模な形で中国経済との連携をしていくということは、考慮に入ってくると思います。

例えばですが、東シナ海や西太平洋における中国の活動が活性化しているわけですが、これも「問題を起こしておいて、政治的に妥協の材料を用意」しているという見方もできますし、そうでない場合も「経済再生が深刻な課題」になれば、「日本との提携を狙う、太子党とは別の勢力」が力を持ってくる可能性もあります。

勿論、政体の違いからくる政治的な問題は無視できないし、仮にアメリカがバイデン政権になった場合には色々なファクターが変わってくるわけです。それにしても、日本として政治的な親中というのとは違いますが、経済においては相当に密接な連携ということは考えておかねばならないと思うのです。

いずれにしても、カネを用意せず、中国との関係や人の行き来も冷却という条件下で、アメリカの危機が泥沼化しては、日本経済として再生のシナリオは描けないのではないかと思うのです。

image by: simpletun / Shutterstock.com

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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