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米中対立激化で一気に進む開戦シナリオ。その時日本はどうする?

米中で互いの総領事館が閉鎖される事態となり、両国の関係悪化は一段と深刻さを増しています。ここへきて急速に対立が先鋭化してきた2つの大国。これからどのようなシナリオが待ち受けているのでしょうか。元国連紛争調停官で国際交渉人の島田久仁彦さんは、自身のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』で、さまざまなケースをシミュレーション。世界を巻き込むことになる米中の対立を危惧しています。

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米中対立─Point of No Return?!

このところ米中対立の激化が止まりません。これまでは、米中貿易戦争に代表されるような経済的な権益を争う“新”覇権国同士の争いや、南シナ海における制海権を争う安全保障上の利権争いというように、リーダー間の協議を通して改善可能なレベルでしたが、ここにきてアメリカにおける対中批判がついに共産党そのものへの批判を行う“政治的な戦争”にエスカレートしているようです。

中国もアメリカから矢継ぎ早に出される批判に対して直接的に応じ反抗していますが、北京の複数の情報筋によると『アメリカからの批判はすべて言いがかりであるが、正直なところどう対処していいか非常に困惑している』ようです。

とはいえ、南シナ海における領有権を強硬にアピールする中国の姿勢や、東シナ海(尖閣諸島および沖ノ鳥島周辺)への100日以上連続の侵入という威嚇行為、香港国家安全維持法の制定の強行、そして新疆ウイグル自治区への“弾圧の疑い”など、中国政府が新型コロナウイルス感染拡大の隙を突いた、まるで畳みかけるような動きは、アメリカのみならず、欧州、日本、そして東南アジア諸国への脅威と移っています。

もちろん、香港国家安全維持法の余波を受け、『次は我が身か?!』と台湾を身構えさせ、台湾海峡での緊張を一層高めてもいます。ゆえに、言い方は激しいかもしれませんが、ある意味、国際社会に対して宣戦布告しているとも言えるでしょう。それも国運を賭けて。

そのような中、アメリカでは11月3日に行われる大統領選挙に向けていろいろな政治的なバトルが繰り広げられていますが、対中強硬姿勢については、民主党・共和党の別なく、アメリカ政府および議会の総意として行われています。よく『トランプ大統領の対中強硬策』が報じられますが、今回、大統領選挙を戦うジョン・バイデン前副大統領は『トランプ政権の対中政策は生ぬるい』と批判しており、それは、どちらが次の大統領となっても対中強硬策は変わらないか、強化されるということを意味します。

しかし、この対中強硬策の基盤となる理由や中身については、アメリカ政治の舞台では非常に稀なことに、ほぼ議論がなされることなく、ただ【中国は悪】という思考があるだけで、【中国との戦いのカギはアメリカの揺るぎない強い姿勢であるから、中国に一歩たりとも妥協してはならない】という意見が大半で、それに対する反論が聞こえてきません。

何に対しても「ああでもない。こうでもない。」と議論したがるアメリカ議会の特徴からすると、非常に気味悪いほど、中国憎しの空気・意見で埋め尽くされています。

そしてより懸念を覚えるのが、対中批判が今や【中国共産党性悪論】という形で、【中国が何をしても悪い。それは共産党だからだ!】という、かつての対ソ連の戦いにおいて、アメリカ国内に吹き荒れたマッカーシズム・レッドバージを想起させるほど、政権中枢のみならず、アメリカ議会内では超党派で、共産党とその幹部に対する敵意が渦巻き、ついには“人格否定”にも思われるほどの激しい嫌中姿勢が強まっています。

そして、真偽のほどは分かりませんが、ホワイトハウスの国家安全保障会議のメンバーや国務省の面々によると、『9000万人超のすべての中国共産党員とその家族に対する米国入国禁止』を検討するにまで至っているようです。非常に激しい、そして稀に見る対立です。
なぜこのようなことになっているのでしょうか。

これまでにも対中強硬論もあれば、中国との確執はありました。George W. Bush政権でも、オバマ政権でも中国に対する制裁や外交上での争いもありましたが、これまではIssue by Issueという【個別案件での対立】という理解で、何とか全面的な対立は避けてきました。

その反面、年々高まる中国の国際情勢におけるプレゼンスと影響力への懸念と警戒心が渦巻いては来ましたが、アメリカ経済の発展のために中国との関係は欠かせないとの認識が強く、中国のWTOの加盟を後押ししたり、オバマ政権下では、気候変動のパリ協定採択に向けて米中首脳が協力し合うという演出まで行ったりして、米中新時代をアピールするなどして力の均衡を保ってきました。

しかし、今年に入ってアメリカ国内での中国脅威論は『中国という存在とその野心を支える共産党』という一括りで描かれるようになります。

アメリカおよび同盟国に対する中国によるサイバー攻撃(以前、『もう一つのウイルスとの戦い』でお話ししたように)、コロナウイルスの感染拡大でのアメリカのプレゼンスの空白を狙ったアジア・太平洋地域での中国政府及び人民解放軍の強硬姿勢の高まりに加え、コロナウイルスの感染拡大において、“元々は中国共産党による情報隠蔽と対策の遅延”がパンデミックを引き起こしたとの感情が、アメリカ政府内および国民感情を極端に刺激したことで、中国そのものの存在を悪とみなすような風潮と姿勢に舵を切ったものと思われます。

もちろん、中国政府も折れることはないですから、このまま折り合うキッカケを見つけられないまま、相互非難が激化するような事態になれば、米中2大国による自滅戦争へ発展する可能性があります。

それは、武力衝突という世界にとっては恐怖のシナリオから、米中経済の相互潰しあいという経済戦争、そして、アジア・太平洋地域、アフリカ、ラテンアメリカ諸国、さらには欧州における【勢力圏拡大の争い】までいろいろな“自滅戦争”のシナリオが考えられます。

そう、かつての米ソ冷戦における分断のように、“負け”るか“自滅”する側は、その後、大きな経済的、政治的、外交的なスランプに陥るという形式です。今の中東欧諸国、旧ソ連の国々を見れば想像できるかと思います。

そのような中、日本を含む国々や地域はその影響をもろに受ける羽目になっています。香港国家安全維持法の制定は欧米諸国を“キレ”させ、日本やオーストラリアというアジア・太平洋諸国政府にとっても、政治的に中国に対処しないというオプションが非常に困難になっています。

今のところ、アメリカとオーストラリアという対中強硬派のハードライナーから、中国との経済関係を重視するがゆえに、政治外交と経済を分けて対応する欧州各国や日本という図式が出来ていますし、東南アジア諸国についても、【中国の所業は許しがたいが、同時に中国との経済的なつながりは切ることが出来ない】という欧州や日本とは別の意味でのジレンマゆえ、対中包囲網は効果的に機能していません。

アメリカは日本や欧州の巻き込みに必死ですが、それぞれの国内・域内事情に鑑みて、日欧ともに少しアメリカの強硬策とは距離を置く戦略を取っています。

欧州については、直接的な香港問題を抱える英国という例外を除けば、欧州はロシアによる領土拡張の脅威に対抗するため、安全保障面ではアメリカに依存しています。NATOの分担金問題でトランプ大統領からぼろくそに批判され、フランスのマクロン大統領が推進するように【欧州防衛軍構想】がアイデアとしては持ち上がりますが、実質的にはEUのアメリカ離れはしばらく起きません。

アメリカにとっては、欧州をロシア(そして中国)の脅威から守るという役割を徹底する立場を示すことで、欧州としては、その防衛の引き換えに南シナ海での米中対立においてはアメリカに協力するという“取引”が成り立ちます。そのためには、以前にもご紹介したアメリカ軍のrelocationの方向性を再考する必要がトランプ政権と次のアメリカの政権にも必要になるでしょう。

今のところ、フランスは中国との経済的なディールを重んじるあまり、香港国家安全維持法の制定に対する懸念は表明しても、対中制裁の輪には加わりませんし、英国やドイツについても、5G市場においてkey playerとして踏みとどまるには、中国との関係(特にファーウェイ)は切れないとの政治的な判断が働いていますので、そう簡単に全面的な反中親米への徹底は困難かと考えます。

しかし、その可能性が高まってきているのが、【2年ぶりのセルビア共和国とコソボ共和国とのトップ会談】を巡る国際情勢です。

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両国の対話の実現と仲直りが両国のEU加盟の最終条件となっていますが、このところ、バルカン半島での主導権争いにアメリカはもちろん、ロシア、中国、そしてトルコが登場しており、【バルカン半島の安定は、欧州全体の安定に欠かせない】との認識を強めている欧州委員会にとっては、その地位を確立するためには、今のところ、アメリカとの緊密な協力が必要との認識から、対中脅威論に乗っかる可能性がこれまで以上に高まってきています。

日本については100日にわたって連続している【中国海軍の艦船および海警局の武装艦船による尖閣諸島海域と沖ノ鳥島周辺への領海侵犯(侵入)への対応】が急務です。

本件については、コロナ以前までは、時折日中関係の悪化と並行して起きていましたが、外交的な抗議のやり取りで終わることが多く、緊張関係の極限の高まりまではエスカレートしてきませんでした。ただ、連日の抗議にも関わらず、より武装度を高めた艦船による連日の威嚇行為と領有権問題の顕在化は、一線を超えた威嚇行為と理解することが出来ます。

これまでアメリカ政府も度々尖閣諸島問題には懸念を示しつつも、“基本的には日中両国間で解決すべき問題”として強いプッシュはしてきませんでした。

しかし、米国内での中国脅威論と全面的な中国否定の流れが強まり、東シナ海での中国の権益拡大を許すまじ!との立場と、絶対に中国包囲網に必要とされる同盟国の日本の権益保全という観点から、積極的に日本寄りの介入を行うようになっています。

南シナ海問題と東シナ海問題を両睨みするという意味で、空母攻撃群の中核をなすロナルド・レーガンとミニッツという2空母を展開していますし、在沖縄米軍の配備のアップグレードも進め(グアム基地との間で)中国への軍事的な対峙に備えています。

尖閣諸島問題に絡み、もし日本の航空自衛隊の戦闘機や海上自衛隊の艦船と、中国の艦船などとの間に偶発的な衝突でも起きた場合には、一気に日本近海で軍事的な緊張が高まることになるでしょう。それも日中二国間ではなく、アメリカを交えた比較的本格な対峙に。

その様子をつぶさに感じているのが、北朝鮮の金正恩体制とそれを支える妹の与正氏による“2頭体制”でしょう。コロナの影響もあって国際情勢上、影が薄くなっていた北朝鮮ですが、このところ韓国への辛辣な批判と軍事的な脅威の表明をはじめ、最近では【来るべき危機に向けて核・ミサイル戦闘能力を高め、核による抑止力を高める】と表明して、アジア・太平洋地域、特に北東アジア地域における米中の対峙による緊張をうまく用いているような気がします。

とはいえ、今のところ、トランプ大統領は北朝鮮とのディールには関心がないようですが、もしかしたらボルトン氏が言うように4回目の会談に臨むというサプライズに行くか、もしくは、歴代のアメリカ大統領が支持率急回復のために行ったように戦争に打って出る、つまり北朝鮮への直接的な軍事的行動を起こす可能性があります。

今のところ、以前お話ししたように、朝鮮半島を舞台にした米中直接対決は起こらないと見ていますが、昨今の米中対立の政治化の傾向に照らし合わせた場合、南シナ海での衝突を避けることが出来たとしたら、代わりに朝鮮半島が衝突の場になるかもしれません。

非常に不確実性の高い情報なのでこの辺りでやめますが、実は米中両国の政府内では、ついにその可能性が議論され、プライオリティが上がったそうです。どのような帰結になったとしても、米中両国と“良好な”関係を模索する日本としては、米中対立の激化は非常に懸念すべき事象です。

これまでのところ、非常にデリケートなバランスの下、賢明かつ巧みな外交を行うことで米中の間に立って、いわゆるバッファー(緩衝材)的な役割を果たしていると私は考えますが、そう遠くないうちに【どっちにつくんだ】とサイドを選ばされる事態になるでしょう。

その際にはどう対処するのか。コロナ禍で非常に大変なかじ取りを多方面で行わないといけない状況ですし、そのどれもが国民の生命にかかわる内容だと考えますが、迅速に何パターンかの方針を用意しておく必要があるでしょう。

もし米中が自滅戦争を戦い、それが核を用いた武力衝突になるような最悪のシナリオの場合、両国の核ミサイルは場合によっては日本列島の真上を飛び交うことになるわけですから。

私が今回書いた内容は、ただの私の妄想でしょうか。そうであることを切に願います。

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image by:Frederic Legrand – COMEO / Shutterstock.com

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世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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