MAG2 NEWS MENU

「死にたい人々」の本当の願いは何か? ALS嘱託殺人と安楽死議論への違和感

筋萎縮性側索硬化症(ALS)の女性に対する嘱託殺人容疑で2人の医師が逮捕された事件は、社会に大きな波紋を投げかけました。ALS患者の「安楽死」を巡る議論について、違和感と憤りを表明するのは、メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』著者の河合薫さんです。河合さんは、健康社会学者として、今回のALS患者が抱いた「死にたい」(世間からの「安楽死させてあげて」という意見)の気持ちに共感するよりも、その裏側にある「本当は生きたい」という心の叫びを聞いてあげられる社会を目指すべきでは、と呼びかけています。

「死にたい」は生きたいメッセージ

今回は、難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)の女性患者(当時51)に対する嘱託殺人容疑で医師2人が逮捕された事件を取り上げます。事件後、「安楽死」についてさまざまな意見が飛び交い、某元都知事にいたってはALSを「業病=前世の悪事」と表現するなど、個人的にはこういった事件への反応に違和感と憤りを感じてきました(元都知事はのちに謝罪)。

ALSという病を私が初めて知ったのは、大学院に進学してからでした。先輩の一人がALS患者を対象にした研究をおこなっていて、

といった基礎的な知識を知りました。

さらに、患者さんは発病後に、

など、この病気の発症が患者さんの心身に「社会的ダメージ」を大きく与えることを学びました。

そういった患者さんたちの「生きる力」を引き出し、彼ら彼女たちがほんのちょっとでも前向きに、「生きてるっていいね」と思える環境要因を探り実行に移すのが、健康社会学に関わる研究者たちです。

そのためには実際に患者さんと接し、彼ら彼女たちの声に耳を傾け、寄り添い続ける必要があります。残念ながら私は直接ALS患者さんの“となり”に立った経験はありません。しかし、私も研究者の一人として、ナマの声に耳を傾け、人の「生きる力」を引き出す社会環境を模索し、さまざまな形で発信してきました。

私がフィールドワークのインタビューを20年近く続けているのも、「ナマの声」に接することの大切さを痛感しているからです。それでも苦悩を抱える人を100%理解するのは難しいです。彼らの言葉には紡がれない「心の悲鳴」に寄り添うのはとても難しい。ですから、今回の事件を「生」ではなく、「死」に結びつけるのは合点がいかないのです。

そもそも死にたくて死ぬ人はいません。「死にたい」という言葉は、「生きたい」という悲鳴です。死にたいと思うほど辛いことがあっても、人は生きたいと思っている。少なくとも私はそう感じてきたし、そう信じてきました。

「病と共に生きる」には、当事者しか知り得ない苦悩と葛藤があまねく存在します。その反面、私たちが忘れがちな「生きることの喜び」が存在することを彼らは教えてくれます。

ALSという病は「自分だけでできること」が奪われていく病です。人は誰もが、「自分で決めたい」のです。そして、「自分でやりたい」のです。だからこそ、さまざまな分野の研究者や技術者たちが、「自分で決めて、自分でできる」ツールや、機会を提供してきました。瞬きするだけでコミュニケーションがとれるタブレットや、視線のみで即座にコミュニケーションが取れるツールなども開発されてきました。

「死にたい」と涙する日があっても、ちょっとだけ笑顔になってほしい。「生きてる意味」を失う日があっても、「生きてていいんだ」と思えるような社会を作っていく。そんな気持ちを一人でも多くの人が持つことが大切なんじゃないでしょうか。みなさんの意見もお聞かせください。

image by: Shutterstock.com

河合 薫この著者の記事一覧

米国育ち、ANA国際線CA、「ニュースステーション」初代気象予報士、その後一念発起し、東大大学院に進学し博士号を取得(健康社会学者 Ph.D)という異色のキャリアを重ねたから書ける“とっておきの情報”をアナタだけにお教えします。
「自信はあるが、外からはどう見られているのか?」「自分の価値を上げたい」「心も体もコントロールしたい」「自己分析したい」「ニューストッピクスに反応できるスキルが欲しい」「とにかくモテたい」という方の参考になればと考えています。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料で読んでみる  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』 』

【著者】 河合 薫 【月額】 ¥550/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎週 水曜日(祝祭日・年末年始を除く) 発行予定

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け