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65歳になると遺族年金が減ったり増えたりするのは何故なのか?

遺族厚生年金をもらっていた方が、65歳になると「急に年金額がものすごく減った」と驚く場合があります。なぜ、そのようなことが起こってしまうのでしょうか? 今回の無料メルマガ『年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座』では著者のhirokiさんが、その原因である「中高齢寡婦加算」について詳しく説明するとともに、昭和31年4月1日以前に生まれた女性への「遺族年金の上乗せ」について紹介しています。

遺族年金の上乗せ」は、どんな条件の場合にあるのか?

65歳前から遺族厚生年金を貰ってる人に、中高齢寡婦加算という大きな加算金(定額の年額586,300円)が付く事があります。この事は今まで何度も言ってきた事ではあります。遺族厚生年金が70万円だったら、中高齢寡婦加算586,300円と合わせると1,286,300円になる。65歳前に遺族厚生年金を貰っていて、それなりに高い給付の人には概ねこの加算金がセットで付いて支給されている事がほとんど。

なお、遺族厚生年金を貰える人がすべてこの加算金が付くわけではないです。もちろん条件があり、死亡した夫が厚生年金加入中の死亡とか、障害厚生年金2級以上の人の死亡、20年以上の厚生年金(共済と合わせてもいい)記録が有る夫が死亡した等の条件が必要。さらに夫死亡時に40歳以上である必要がある。ちなみに夫死亡時に40歳未満だったけど、18歳年度末未満の子が居たから国民年金から遺族基礎年金(定額781,700円)が付いていた人は子が18歳年度末を迎えて遺族基礎年金が貰えなくなった時に40歳以上であったなら中高齢寡婦加算が支給される。

なお、「寡婦」加算だから貰うのは妻限定。これらの条件を満たしていれば中高齢寡婦加算586,300円(月額48,858円)が、最大で妻が65歳になるまで加算される。最大で65歳まで支給されるが、妻が途中で再婚などをすると遺族厚生年金と共に加算金も消滅する。65歳まで付いたら、そこで加算金586,300円は消滅する。

よって、65歳になると遺族厚生年金の金額がものすごく減った!! もしかしてまた消えた年金問題なんじゃないの!?(怒)と苦情が出る事がある。確かに年額586,300円もの金額が65歳を機にまるまる消滅するのは、生活への影響が非常に大きい。じゃあ、酷い事をされたのかというとそうではないです。

65歳になると妻自身が国民年金から老齢基礎年金(満額は781,700円)が支給されるから、中高齢寡婦加算が消滅しても損をするわけではない。いわば、中高齢寡婦加算というのは老齢基礎年金貰えるようになるまでの繋ぎなのです。

ちなみに中高齢寡婦加算の586,300円という金額は何かの金額と似ているのですが、これは老齢基礎年金の30年分に相当する。国民年金の老齢基礎年金を30年分で計算すると、781,700円÷480ヵ月×360ヵ月=586,274円となる。端数の処理の違いの関係で少々違いは出ますね。つまり、老齢基礎年金の30年分の金額を中高齢寡婦加算として支給しているわけですね。

65歳になると老齢基礎年金の支給が始まりますが、この時に実は損をする人がいます。それは老齢基礎年金を30年分以上貰えない人です。未納等が多かった人はそういう事が起こりえますが、そこは納めなかった人の責任と言える。だから65歳を機に年金総額が減ってしまうような人もいる。

ところが本人の責任ではない部分が出てくる人がいる。それは昭和31年4月1日以前生まれの人です。なぜ、昭和31年4月1日以前生まれの人は本人の責任ではない部分が出てくるのか。この部分の理由は国民年金をどんな業種の人であれもう強制加入にした昭和61年4月1日に遡ります(学生は平成3年4月から)。

たとえば昭和31年4月2日生まれの人は、誕生日が前日の4月1日に到達するので、昭和61年4月1日時点で30歳になります。昭和61年4月1日から30歳になるとすれば4月分の保険料から納める事により、60歳までの30年間国民年金保険料を納める事で一応は30年分の老齢基礎年金を受給する事が出来る。

ところがです。

これが昭和29年度中に生まれた人としましょう。昭和29年度中に生まれた人というのは昭和61年度中に32歳になる人です。32歳からどんな立場の人も国民年金の保険料を納めましょうという事で、国民年金に加入する事になったけど…32歳だと60歳まで頑張って保険料納めても28年しかないですよね。という事は、夫が死亡して遺族厚生年金と共に中高齢寡婦加算586,300円貰ってた人は65歳になると、28年分の老齢基礎年金しかもらえないから2年分減額する事になります。生まれるのが昔だったからこういう不公平が起きるというのは良くないですよね。

ちょっとここで考えてほしいのですが、国民年金って昭和36年4月から加入するものじゃなかった?と疑問に思った人もいるでしょう。鋭い!ところが国の都合で国民年金には加入しなくてもいいよっていう人がいた。それは主にサラリーマンや公務員の専業主婦(主夫)の人達です。昭和61年3月までは国民年金に加入したくないんだったらしなくてもいい人達だった。このような人が昭和61年4月からはもう強制加入という事になった。加入しなくても良かったのに突然加入する義務が生じる事になった。「さあ、強制加入にしたから頑張って保険料を納めましょう!」といっても、その中には30年分も納めれない人が出てくるわけですね。それが昭和31年4月1日以前生まれの人。

このような人は65歳になると、遺族厚生年金に中高齢寡婦加算が付いてた人は年金総額が下がる人が出てくるから、特別に年金に加算する。どのような事をするのか少し見てみましょう。

1.昭和29年4月5日生まれの女性(今は66歳)

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18歳の時にサラリーマンの男性と婚姻し、その後20歳になる昭和49年4月を迎えたが国民年金には加入しなくても良かったので加入しなかった。20歳以降の期間は加入しなければカラ期間にはなる。昭和49年4月から昭和61年3月までの144ヶ月間は加入してこなかったが、昭和61年4月から専業主婦も強制加入となった。国民年金は20歳から60歳までの40年間完璧に保険料納めれば満額の781,700円が支給されるが、納めてない期間はその分減額される。

さて、昭和61年4月から60歳前月の平成26年3月までの336ヶ月間(28年間)は完全に年金保険料を納めた。その間、サラリーマンの夫が死亡して遺族厚生年金60万円と中高齢寡婦加算586,300円の合計1,186,300円を貰う事になった。その後65歳を迎える事になる。65歳になると国民年金から老齢基礎年金が支給されるので計算する。

・老齢基礎年金→781,700円÷480ヵ月×336ヵ月=547,190円

さらに中高齢寡婦加算586,300円は消滅するので、遺族厚生年金60万円+老齢基礎年金547,190円=1,147,190円になり、なんと年金総額が下がってしまった。じゃあ老齢基礎年金30年分に足りない分はどうするかというと、この女性の場合は2年分足りないので2年分を加算する。これを「経過的寡婦加算」という。

・経過的寡婦加算→中高齢寡婦加算586,300円(老齢基礎年金の30年分ですね)-781,700円÷480ヵ月×336ヵ月(昭和61年度から自力で納めれた保険料に対して)=39,110円

そうすると65歳からの年金総額は遺族厚生年金60万円+経過的寡婦加算39,110円+老齢基礎年金547,190円=1,186,300円となって65歳前と金額が一致する事になり損をしない。

年金総額は変わってないんですが…、遺族年金の額が大きく減ってるからここで受給者の人は通知物を見て「遺族年金がすんごい下げられた!(怒)」となってしばらく説明が必要となる…(笑)。

※ 追記

昭和61年3月以前はサラリーマンや公務員の専業主婦は国民年金に加入する必要は無かったが、任意加入した人はその分の年金は貰えるので、65歳になると65歳前よりも総額が増額する人もいる。

逆に納めるのをあまりやってなかった人は65歳以降の年金額が下がる人もいる。

image by: Shutterstock.com

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佐賀県出身。1979年生まれ。佐賀大学経済学部卒業。民間企業に勤務しながら、2009年社会保険労務士試験合格。
その翌年に民間企業を退職してから年金相談の現場にて年金相談員を経て統括者を務め、相談員の指導教育に携わってきました。
年金は国民全員に直結するテーマにもかかわらず、とても難解でわかりにくい制度のためその内容や仕組みを一般の方々が学ぶ機会や知る機会がなかなかありません。
私のメルマガの場合、よく事例や数字を多用します。
なぜなら年金の用語は非常に難しく、用語や条文を並べ立ててもイメージが掴みづらいからです。
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【著者】 年金アドバイザーhiroki 【発行周期】 不定期配信

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