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年金暮らし高齢者からマンションを奪う「ホワイト地上げ屋」の巧妙な手口

かつては荒っぽい方法で土地や建物を取得していた地上げ屋ですが、近年そのやり口は巧妙化しているようです。今回の無料メルマガ『まんしょんオタクのマンションこぼれ話』では著者の廣田信子さんが、これまでのブラックな手法とは正反対とも言える「ホワイト地上げ屋」の手口を紹介しています。

地上げ屋は「終の棲家」を狙っている

こんにちは!廣田信子です。

立地はいいのですが、高経年で再生には手が付かず、高齢化、賃貸化が進んだマンションに起きた事件です。

ここを終の棲家と考えている一人暮らしの高齢者も何人かいらっしゃいます。老朽化で市場価格はかなり低くなっていますが、賃貸としては、そこそこの家賃が取れています。修繕積立金が不足していて将来展望はないけど、スラム化はぎりぎり免れている…そんなマンションです。

そこに突然、ある不動産会社がやってきます。「1戸1,000万円で買い取ります。こんなにいい条件で買い取るところはないから、区分所有者に伝達して話をまとめるように。こんな得な情報を伝えないと理事長の責任問題ですよ」…と。強気の発言は、すでに、幾つかの住戸を買い取って区分所有者になっているからのようです。

理事長は、そんなことを急に言われても、管理組合でそんな話をしたいことはないし、高齢の方は、当然、最後まで住み続けるつもりなので、話にはのらないだろうし、そもそも理事長にそんな義務も権利もない…とは思うのですが、1,000万円という買値は、リフォームなしの市場流通価格の2倍です。理事長は、地上げ屋に狙われたんだ、今後、何を仕掛けてくるんだ…と、不安をつのらせます。

従来からある「ブラックな地上げ」の手口

地上げ屋さんがよく使う手法は…まず、外部区分所有者等と個別に交渉して、住戸を買いとり、普通決議を確実に通せる数を確保するのです。建替えや敷地売却には全体の4/5の総会決議という高いハードルがありますが、そんなことをしなくても、普通決議のイニシアチブをとれば、地上げはできるのです。

まず、「何もしない」ということは簡単にできます。外壁や給排水管からの漏水があっても直さない老朽化したエレベーターをそのまま放置するというような形で、どんどん住めない環境にして、人を追い出し、安く買い叩くのです。区分所有者になってマンションをスラム化させるというブラックな手法です。

かつて、地上げ屋によってどんどん住戸が買われ、最後、電気も水も止められてスラムになったマンションで、最後まで1人頑張って住み続けた方がいました。

その話題が出たら、知人が言います。「今の地上げ屋はそんなブラックな方法はとらないよ。時間がかかり過ぎてコストが合わない。むしろ、逆のことをするんだよ」…と。

「やむを得ず修繕積立金を10倍に」新たな手口

「普通決議が可能な住戸を確保すれば、もうそのマンションは自分たちの思い通りにできる。老朽化したマンションを再生する…ということで、いきなり、修繕積立金を10倍にする提案をする。出席議決権の過半数で承認されるのだから、提案は難なく通る。それが決議され実行されると、年金暮らしの人は、すぐに払えなくて滞納が始まる。で、強めに滞納督促をし、法的措置をとる、競売に掛けることもできる…と言って売却を促すんですよ。

修繕積立金が10倍になったマンションは誰も買わないから、結果、買い叩ける。これだと、建替えや敷地売却なんて面倒な合意形成はいらないし、管理不全マンションにしないためには、修繕積立金の大幅アップやむなし…というもっともらしい理由もある。そもそも、総会で承認さえすれば、値上げに理由もいらないのだから…」

ちょっと、びっくりしている私に、知人はいいます。

「別に、何も悪いことはしていない。市場価格よりずっと高く買い取るって言っているんだよ。その時点で、みんなが気持ちよく売ってくれればWin-Win。買収に時間がかかれば、その分コストもかかるから、買値が安くなるのはしょうがない。いつのタイミングが自分にとって得か考えるのは自己責任。そうやって、管理不全直前で、自分たちではどうすることもできないマンションが、結果的に再生していくんだから、社会的に必要な仕事だと思うよ」

…と。これが、「ホワイト地上げ屋」の手法だといいます。

あまり表には出ないけど、管理不全マンションを解消していくには、こいいう手法もいろいろな場面で使われているのでしょう。このまま住み続けたいというだけで、将来に向けた展望をもって、やるべきことをやっていないと、外部の力でリセットもあるのです。事業になると思われ、地上げ屋が来るだけましじゃない…という声も聞こえそうですが…。

ちなみに、「ホワイト地上げ屋」というのは、この話を聞いて、私の頭にひらめいた造語です。ホワイトと言っていいかどうかは微妙ですが…。

image by: Shutterstock.com

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【著者】 廣田信子 【発行周期】 ほぼ 平日刊

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